深い…………。
わからないゆえに、という可能性もあるが実に深みを感じた作品。
これは(唐突ですが)北野武の「HANA-BI」の映画を見た時に通じる気分だ。
決して好きではない。しかしどっしりとのしかかって来る何かがある。
深いというより重いのか。重くて深いのかもしれないけど。
わたしは(これだけ本を読みつつも)内容をちゃんと読み取って、咀嚼出来る能力はあまりない。
わたしに理解出来るのは表面的な上手い下手がメインで、
書かれていることそのものには、良くも悪くも影響を受け(たくても受けられ)ないタイプ。
だが、これは多少なりとも届いた。部分的に、共通する思考を感じたせいかもしれない。
生物という存在についての話。――というと範囲が広すぎるな。
生物という存在の小過去から現状、それからその先はどうなのか?というのを、
――決して一般論というわけではなく、かといって個別状況でというわけではなく……
うー、複数のミクロな立脚点・視点で、特異な状況設定によって描いている……
……こんなんでは何も言っていないな。
生命の話、なんぞを書くなら、どうしても一般論で風呂敷を広げたくなるじゃないですか。
その方が絶対書く方も楽だと思う。……しかしこの人は実にヘンな人で、ヘンな材料を使って書く。
今回の材料は“ぬか床”です。
……そもそもぬか床なんてもなぁ、現代日本では絶滅物体ではないのか。
余計なお世話だが、この人の主な読者は若者だろう。若者にぬか床がイメージ出来るのか。
出版社は営業的にぬか床でいいのか。
っていうか、この話でぬか床っていうのは……普通に考えればあり得ないのだが。
モノがぬか床であることを除けば、少なくともストーリーの主要な流れはそんなに奇天烈でもない。
血が背負った運命を辿ることで生命の流れを認識するというのはSF的にはわりとある話。
が、梨木香歩がヒドい人……もとい、変な人だなーと思うのは、「シマの話」が
挿入されている点。こここそが梨木香歩、というべきか。
わたしはこのパート、入れた方がいいのかねえ、と懐疑的だが。
このパートは……うっ、自信ないけど細胞の世界の話ですよね。
でもここ、普通の読書スピードで読んで、わたしは理解できなかったから。
こんな風に細胞の世界(?あれっ、菌の世界か?ぬか床か?)を書くならもっとわかりやすく……。
下手に「叔母」なんて命名すると、何しろ話が時子叔母の話なんだからそっちに
繋がるのかと思うじゃないですか。
「水鼬」や「水門」や「燈台」も、何のメタファーなんだ?わからないぞ。
菌の世界を知らないとわからない比喩だとしたら、ちょっと不親切だと思うけど。
しかしフィクションの価値はその変さ加減にある。それが全てじゃないけれども。
これだけ変な話を書いて読ませてしまうのは、やはり相当な力量がある証拠で。
「裏庭」あたりだと、まともな部分の分量が多いので、変さが浮いてしまう感があるが、
ここまで変だとむしろそれが力を持つ。
……シュヴァルの理想宮を思い出した。正統派文脈から離れた奇天烈さがあるが、
その力強い執着によって強い存在感が生まれる。
梨木香歩にはぜひ今後も手加減することなく、変さ全開でいって欲しい。
このレベルの作品を生み出し続けていけば尊敬に値する。
……でもこの作品の後、あんまりちゃんとまとまった本を出していないようなんだよね。
元々多作家ではないだろうが……
これで燃え尽きた、なんてのは許さんぞ。変さの責任はとってもらわないと。
だからといって、書き飛ばしてレベルの低い作品というのはもっと許さん。
そういうことはしなさそうな人だけどね。がんばって下さい。
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