プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◆ 擬洋風建築。(NHK「美の壷 明治の洋館編」より)

2006年06月11日 | ◆美しいもの。
擬洋風建築の魅力は、「隙」にあるのかもしれないなあ。

旧岩崎邸の外観なんかは豪華で見事だけれども、このくらい「まとも」だと、いまいち
味というものに欠ける気がする。設計者はジョサイア・コンドルだそうだから、
本場仕込みというよりも、本場もんが設計しているわけで。ぴちっとした端正な作りになる。
とは言っても、実はテレビで映ったのは洋館の「端正」部分だけで、裏には実は、
和館がくっついています。盛美館と同じ和洋コンバイン。こういう形式は多かったらしい。

洋館。擬洋風建築。それぞれの言葉がどう定義づけられているのか知らないが、
擬洋風建築というと、なにしろ「擬」ってくらいだから、いかにもアヤシゲ。
どうも手探り感が付きまとう。、見切り発車というか、
「なんだかよくわからないけれど、えーい、やっちゃえ!」というか。

わたしは「擬」を感じる方が好きですね。番組で取り上げられた盛美館なんて、
その最たるもの。こういう建築は、この地この時でしか生まれないものじゃないですか。
本場の人が見たら……というか、今見ても「なんじゃこりゃ?」感アリアリ。
はっきり言って失笑の対象。しかしそこには明確に漂ってくる、人間の体臭があります。

素人仕事の味わい、なんじゃないでしょうかねえ、擬洋風建築。
もちろん大工さんやらなんやらは、当然その道の専門の人が集まったのでしょうが、
それでも、そういう面子で洋館というのは、寿司屋がフランス料理を注文されるようなもんで、
とても得意分野とは言い難い。でも周りにシェフがいなければ作って見せる他ないし、
――シェフがいなければ、正統派フランス料理でなくとも、ダメだしをする人はいないんですよね。
まさに「擬」。そして、そこがいい「遊び」になっている。
正統派からはちょっとずれていて、キッチュ感があって、でも別な文脈ではとても調和が取れている。
この独特感。これは日本の財産ですよ。絶・対・に、本場では作れない。

たとえば、開智学校のあの天使のたどたどしさといったら。
じっと見ていると笑いが浮かびます。作り手の心意気。愛しさ。そしてわずかな失笑。
盛美館を作った棟梁は、わくわくしながら作ったのかな?腰が引けていたのかな?
和風と洋風をこんな風に組み合わせようと思いついた時、どんな顔をしていたのか。
施主は「え?」と思ったのだろうか、それとも「おお!」と思ったのだろうか。
想像すると愉しい。


擬洋風建築の魅力は、内装にもある。小技の良さをひしひしと感じます。
特に照明は、洋館を見るときに注目すると面白い部分かもしれない。
なかなか凝ってますからね。古き良き、エレガントな時代を感じさせる。

木が多用されている内装が好きだ。木のレリーフとか、木が描く曲線が好き。
なので、岩崎邸の一階客室の天井なんか、ううっ、と唸ってヨダレが出る。
いいですねいいですねいいですねー。いい仕事ですよー。
階段・ホールはちょっと重厚すぎて、好みからははずれるけど、でもやっぱり
その「木」は根本的に優しい。これが石造りだったら、全くイメージが違うはずだ。
うーん、やはり木と紙の家に住んで来た日本人のDNAがそう感じさせるのだろうか。


あとは漆喰ですね。この間の大津磨きの時もそうだったけれど、こういうのを見ると、
「職人万歳!!」と言いたくなる。絶対アレは型取りだろう!と思いますよ。
それを鏝でやっちゃうんだもんなー。
(でも、番組で写したのは、もう少しきれいに仕上げた方が良かったと思う)
大理石の床の間にはたまげましたね。床の間=大理石という発想も驚きだが、
それをもう一回ひねって、和の技術でそれに対応してしまうところが!なんて柔らかい発想。
現在の発達した流通システムの中で、こういう考え方はまず出てきませんよね。
感動的だ。


旧中込学校のところで、ちらっと出てきた藤森照信さんは、わたしが建築に興味を持った
きっかけの人です。この人は著作が多く、面白い。


歴史遺産 日本の洋館〈第1巻〉明治篇(1)
藤森 照信 増田 彰久
講談社 (2002/10)
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高いんだけど、これは非常に面白い本。わたしも早く全巻揃えなければ……
岩崎邸が明治編Ⅰで取り上げられています。写真も豊富で美しい。
ちなみに、写真はテレビにも出てきた増田彰久さん。彼らはよく、組んで仕事をしている。

もう少し手軽なもので、藤森さんのお薦めはこれ。


建築探偵奇想天外
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藤森 照信 増田 彰久
朝日新聞社 (1997/04)
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全4冊。開智学校、旧中込学校、三田演説館などを含む。
が、取り上げる建物が多い分、一つあたりのページ数は少なめ。
ああ、目黒雅叙園に行ってみたい……

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