プラムフィールズ27番地。

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< 宮沢賢治の食卓 全5回 >

2024年09月25日 | ドラマ。
そもそもはWOWOWで作ったドラマらしい。
いや、そもそもはマンガらしい。その後WOWOWがドラマを作り、
それを、忘れたけどBSのどこかが放送したものを今回見た。

宮沢賢治は好きでもあり嫌いでもある。
これは小学校の時に読んだ偉人伝のシリーズが影響している。
最初の豊臣秀吉がものすごく面白かったので、そのシリーズを順番に読んでいったのだが、
戦国武将と比べて、豊田佐吉とか宮沢賢治は地味で面白くなかったんですよね。

そして、宮沢賢治のあまりにもピュアな行動に子どもながらに違和感を持ってもいた。
そんなに滅私奉公、自己犠牲的で大丈夫だろうか……。
あまり共感出来なかった。

そして作品が好きだったかというと、それもそうでもないんですよね。
子供の頃に読んだわけではないと思う。やっぱり本人の地味さが乗り越えられず。
「雨ニモマケズ」はいつ頃教科書で読むんでしたかねえ。やっぱり辛気臭い。
高校あたりですか、「永訣の朝」は。
最愛の妹の死をうたった詩はたしかに情動を動かすけれども、その妙な理屈っぽさが……

でも「作品世界」は好きだったのよ。
汽車が銀河を旅する話。
ポラーノのぎらぎら光る草の波、。
オパールの中に燃える貝の火。
地質が似ているといって、近くの川べりをイギリス海岸と名付けるのも。

だが「春と修羅」も買って読んではみたけど、
童話とはまったく違った強固な抽象性がやっぱり受け付けない。



だから「宮沢賢治のドラマ」と聞いて録画したのは、本当に微妙なラインで。
好きでもあり嫌いでもある賢治の「好きでもあり」の部分でかろうじて。

辛気臭いドラマなんだろうなあ。何しろ主人公が辛気臭い。
正直第一回で視聴中止だと思っていた。
でも主演が鈴木亮平だっていうから念のため。
鈴木亮平のドラマ選びが、決してわたしの好みに合うとは思ってないけれども。

そしたら、……いいドラマだった!
4話、5話はしゃくりあげて号泣した。こんなことは久しぶりだったように思う。


正直言ってやはり宮沢賢治は純粋すぎて変な奴で、近くにいたら絶対に友達にはならん。
多分頭の中はナチュラルに自分のことばっかりで、友人としたら困った時には
あまり頼りにならんだろうし、日常的にも共感性羞恥の嵐だろう。
全て親がかりのおぼっちゃんなのに、父親の職業に(質屋)反感を持ち、
反抗するというのも、人のことはいえないとはいえ、なら独立せんかい!と思うしねえ。

親から買ってもらったあんなにいいチェロを、人のためにという理由で、
平気な顔で売り払おうとする行動にまったく共感出来なかった。

でも「食卓」にしたことで内容がいい意味で柔らかくなったと思う。
最近流行りといえば流行りだが、食べ物を介在させることで
話がちょうどいいテンションを保つ。
コロッケとかビーフシチューとか、鴨南ばんとか焼きりんごとか。
ただしそこまで食べ物についての話は広がってない――単に飾り程度に触れるだけなので、
そっちを重視する人だと多分物足りないと思う。

まあもちろん、鈴木亮平が演じたことも大きいけど。
今までのわたしの賢治があったもんだから、このドラマを見て賢治を全肯定は
さすがに出来なかったんだが、それほど距離を置きたい気分にはならなかった。
変な奴だけどさわやかだったし。
さわやかだから全然現実が見えてなくても許されるというもんでもないけどねえ。

宮沢賢治関連で多分出てきたことがない、恋愛関係が描かれていたのも面白かった。
相手役が市川実日子。このドラマでは結ばれない――結納の席で、賢治が理由も言わずに
破談を申し出て、破談になってそれ以降はほとんど縁が切れたんだけど。
でも蜜月状態の頃は二人ともとても幸せそうな顔をしていた。
長くもない人生、こういう人がそばにいたら彼の人生は明るかっただろうなと思った。

鈴木亮平と市川実日子にはいずれハートウォーミングな夫婦生活(のドラマ)を
送って欲しいと妄想した。
今、市川実日子は「ア・ターブル」という日常系のドラマをやってるんだけど、
ああいう辛気臭い系ではない、ちょっとコミカルなドラマをすごく見たい。
面白い脚本で。なんだったら本作の脚本家でもいい。


あとはなんといってもトシですね!
賢治が溺愛した妹で、その溺愛ぶりがちょっとコワイ、ということはあるんだけど、
この人はこのドラマでも大変重要な役柄でしたね。
下手すると賢治本人よりも重要というか、難しい役柄だったかもしれない。

ほとけさまのように理想化される側面もあり、それ以上に家族としての親愛もあり。
その辺の間をいくのはなかなか困難だったと思う。

今回のトシさんは、その間を上手に表現していたと感心しましたね。
こんな優しい、純粋な人いるわけないよ!――とは感じなかった。
可愛くて優しくて上品で、教職に情熱を持ち、しかし死病を抱えて自棄的なところもあり。
夢もあったのに。もっと生きてやりたいことがあったのに。
いい演技だった。いい役者だと思った。

石橋杏奈。他に見たドラマは……ないなあ。とWikiを見て思ったが、
……え?夫は松井裕樹!?えええええっ!!

あらまー。
いや、別にそこまで驚かなくてもいいことなのだが、松井は地元のチームの生え抜きなので、
いうたら若干「地元の子」的な意識があるんだよね。
だって高卒の頃から2月から10月までの野球シーズンは、ほぼ毎日近く見てたんだよ。
それを10年続けたんだよ。今年パドレスに行くまで。
へー、あの子のお嫁さんなの!って近所のおばちゃんみたいな気分になるじゃない。

そうすると現在はアメリカ在住なわけですね。
まだ子供が小さいこともあるし、女優活動はしばらくはしないだろうけど、
また何かいい脚本で女優をやっているところを見たいなあ。
……ネット上で画像を見ると、これがほとんど惹かれない感じなんだが、
ドラマで生きて動いてるのをみると、ほんと健気で可愛かった。
演技者として、また見たいと感じた。


いいドラマだった。キャスト・スタッフに感謝。


……だが、言わせてもらえば、トシが死んだ時の賢治の台詞がね。
詩からとった文章そのままにしたことで、号泣していた涙がひっこんだ、ことは
言わせてもらおう。
ここは脚本家的に悩んだところな気はするけどね。そのままにするか。口語に直すか。
気持ちはわかるが、詩語にするとそこには推敲という行為が透けて見えて、
切実さが減るんだよね。

あと、細かいことをいうなら、トシの死後に絶望していた賢治が立ち直ってからの演技が、
トシの死の前のさわやかさと寸分も変わらぬ気がして残念だった。
鈴木亮平。わたしはこの人とても好きだが、演技力という点では特Aではないと思うのよ。
努力でAまでたどり着いてる感じ。

やっぱりここは単にさわやかに戻りました、ではいけない気が。
大事な人の死を乗り越えた人の深みが欲しいところだった。


……いや、ほんとにいいドラマでしたよ。わたしが細かいだけで。


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