いや、面白かったです。レベルAをつけちゃったよ。
このレベルAとは何かというと、
――わたしは書評家の成績表をつけておりましてね。
今まで全く視野に入っていなかった作品を「読もうか」という気にさせてくれた場合、
課題図書リストに、その作品名と共に、記事を書いた書評家名も書いておく。
後に作品を読んだ時、自分の感想をA~Gまでの7段階で書評家の成績として記入する。
こうすることで、わたし好みの本を薦めてくれる書評家が見つかるのではないかと淡い期待を抱いている。
以前から読もうと思っていた作家や、以前読んだことがある作家の作品についての記事は
基本的には対象にしないので、この成績表を作り始めてからおそらく2年くらいだと思うが、
対象作品はやっと50。目下対象になっている書評家は14人だが、
そのうち作品数が5を超えた人はやっと6人。気の長い話だ。
今回の「国銅」はそういう表のうち、7段階の最高値、A:えらいレベル。
今までの50作品のうちAをつけたのは、これを含めて3作品しかない。
ちなみに、これを挙げてくれた書評家は西上心太。この人は、実はわたしの成績表の中では、
現在のところ7作品中外れなしという、非常に珍しい書評家。
まあ、こんなことは作品とは関係ないんですけどね。
※※※※※※※※※※※※
という話。(あらすじはアマゾンでご確認ください。文庫、出てたんだねえ。)
上下巻のけっこう長い本だが、あまりストーリー上の山場はなく、
最初は主人公の国元での生活、次に都へ行ってからの生活が一定の速度で語られる。
ストーリーを語るのに、起承転結ということが言われるが、この作品はあまり「転」がない。
これでどうやって上下巻書いたのだろうと思うような地味な話だが、堪能しました。
やっぱり筆力というものですかねえ。
銅掘りというものをじっくり書いてくれているのが良い。歴史小説は本職じゃないだろうに、
地味な銅掘りにスポットを当てるとは、面白い目の付けどころ。
一般に歴史小説は、歴史上の事件について書く。
が、この小説はかなりの比率で一無名人についての話。一応、大仏造立というのは事件だが、
それは完全に背景になっており、その事件を描く話ではない。
無名人の歴史小説、しかも奈良時代の、というのはかなり希少価値があるのではないか。
登場人物が、みな良かった。味があった。
少し良すぎるきらいがないでもないけど。特に主人公である国人は。
好かれすぎ、恵まれすぎ、何でも出来すぎ。まあわたしは「いい人」の話が好きなので、
こういう安心して読んでいられる話は有難い。
最後まで読んで振り返ると、実は「出会って別れ行く話」という一面もある。
そういう意味では少し寂しい。が、読後感がほの明るいのは主人公の性格の良さだろうな。
じっくりと腰を落ち着けて、気持ちのいい話を読みたい人にお薦めしたい本だ。
ただし、歴史小説と呼ぶに重要な一点、考証という意味ではちょっと危ういかもしれない……
銅掘りのシステムなどの説明が、語られ方がかっちりとしすぎているせいか
時代的に少々能率的にすぎると感じないではなかったし。
身分の懸隔は、この本で描かれているよりもっと大きなものだったようにも思うし。
一番気になるのは、貨幣の流通部分だなー。
この主人公の立場で、そう日常的に貨幣を使うかどうか……
流通史についての本を数冊読んだことがあるのだが、貨幣の流通と商業の最初期については
なかなか書いてない。はっきりしない部分が多いのだろう。とりわけ、記録に残らない庶民史においておや。
この作品の時代は、貨幣の鋳造・流通に力を入れていた頃ではあるんだろうけど、
本当の庶民まではなかなか定着しなかったんじゃないかなー。
都に銭を持てる年齢・性別・立場の人間が3万人いるとして、彼らが最低100枚ずつ持っても、
貨幣の数は300万個。最低の最低ラインでもこれくらいが必要だが……
報酬を銭で払うと律令?で定められている場合でも、実際は現物支給ではないかな。
それから、商業としての船での運搬、商業としての宿泊施設があったとは思えないのだが……
そういう形態が成立してないからこそ、都に徴用された人間が帰って来ることは
想像を絶する苦労だったのだと思う。庶民が現在と似た形で旅を出来るようになるのは、
もっとずっと時代が下がるような気がする。
陸奥へ下った西行、「十六夜紀行」の阿仏尼あたりはどんな旅をしたのだろう。
でも彼らだって庶民とはとても言えないし、実際は地縁血縁を頼りつつ旅をしたのではないかと思うけどね。
面白かったので、また日本の歴史小説を書いて欲しいが、
この作者は、もうこのジャンルは書かないのではないかと思う。
ラインナップと経歴を見るに、得意なのは病院ものらしいし。
(と言いつつ、わりにバラエティのあるテーマで書いてるようだけど)
どうでしょう。今後、少し見ておこう。
この作品と少し似た風合いで、この間山本兼一の「火天の城」を読んだが、
この山本兼一、今回の直木賞にノミネートされていますね。
今後何冊か読む予定だけれど、受賞でもしたら図書館で借りにくくなってしまうかな。
タイミングがいいような、悪いような……
このレベルAとは何かというと、
――わたしは書評家の成績表をつけておりましてね。
今まで全く視野に入っていなかった作品を「読もうか」という気にさせてくれた場合、
課題図書リストに、その作品名と共に、記事を書いた書評家名も書いておく。
後に作品を読んだ時、自分の感想をA~Gまでの7段階で書評家の成績として記入する。
こうすることで、わたし好みの本を薦めてくれる書評家が見つかるのではないかと淡い期待を抱いている。
以前から読もうと思っていた作家や、以前読んだことがある作家の作品についての記事は
基本的には対象にしないので、この成績表を作り始めてからおそらく2年くらいだと思うが、
対象作品はやっと50。目下対象になっている書評家は14人だが、
そのうち作品数が5を超えた人はやっと6人。気の長い話だ。
今回の「国銅」はそういう表のうち、7段階の最高値、A:えらいレベル。
今までの50作品のうちAをつけたのは、これを含めて3作品しかない。
ちなみに、これを挙げてくれた書評家は西上心太。この人は、実はわたしの成績表の中では、
現在のところ7作品中外れなしという、非常に珍しい書評家。
まあ、こんなことは作品とは関係ないんですけどね。
※※※※※※※※※※※※
という話。(あらすじはアマゾンでご確認ください。文庫、出てたんだねえ。)
上下巻のけっこう長い本だが、あまりストーリー上の山場はなく、
最初は主人公の国元での生活、次に都へ行ってからの生活が一定の速度で語られる。
ストーリーを語るのに、起承転結ということが言われるが、この作品はあまり「転」がない。
これでどうやって上下巻書いたのだろうと思うような地味な話だが、堪能しました。
やっぱり筆力というものですかねえ。
銅掘りというものをじっくり書いてくれているのが良い。歴史小説は本職じゃないだろうに、
地味な銅掘りにスポットを当てるとは、面白い目の付けどころ。
一般に歴史小説は、歴史上の事件について書く。
が、この小説はかなりの比率で一無名人についての話。一応、大仏造立というのは事件だが、
それは完全に背景になっており、その事件を描く話ではない。
無名人の歴史小説、しかも奈良時代の、というのはかなり希少価値があるのではないか。
登場人物が、みな良かった。味があった。
少し良すぎるきらいがないでもないけど。特に主人公である国人は。
好かれすぎ、恵まれすぎ、何でも出来すぎ。まあわたしは「いい人」の話が好きなので、
こういう安心して読んでいられる話は有難い。
最後まで読んで振り返ると、実は「出会って別れ行く話」という一面もある。
そういう意味では少し寂しい。が、読後感がほの明るいのは主人公の性格の良さだろうな。
じっくりと腰を落ち着けて、気持ちのいい話を読みたい人にお薦めしたい本だ。
ただし、歴史小説と呼ぶに重要な一点、考証という意味ではちょっと危ういかもしれない……
銅掘りのシステムなどの説明が、語られ方がかっちりとしすぎているせいか
時代的に少々能率的にすぎると感じないではなかったし。
身分の懸隔は、この本で描かれているよりもっと大きなものだったようにも思うし。
一番気になるのは、貨幣の流通部分だなー。
この主人公の立場で、そう日常的に貨幣を使うかどうか……
流通史についての本を数冊読んだことがあるのだが、貨幣の流通と商業の最初期については
なかなか書いてない。はっきりしない部分が多いのだろう。とりわけ、記録に残らない庶民史においておや。
この作品の時代は、貨幣の鋳造・流通に力を入れていた頃ではあるんだろうけど、
本当の庶民まではなかなか定着しなかったんじゃないかなー。
都に銭を持てる年齢・性別・立場の人間が3万人いるとして、彼らが最低100枚ずつ持っても、
貨幣の数は300万個。最低の最低ラインでもこれくらいが必要だが……
報酬を銭で払うと律令?で定められている場合でも、実際は現物支給ではないかな。
それから、商業としての船での運搬、商業としての宿泊施設があったとは思えないのだが……
そういう形態が成立してないからこそ、都に徴用された人間が帰って来ることは
想像を絶する苦労だったのだと思う。庶民が現在と似た形で旅を出来るようになるのは、
もっとずっと時代が下がるような気がする。
陸奥へ下った西行、「十六夜紀行」の阿仏尼あたりはどんな旅をしたのだろう。
でも彼らだって庶民とはとても言えないし、実際は地縁血縁を頼りつつ旅をしたのではないかと思うけどね。
面白かったので、また日本の歴史小説を書いて欲しいが、
この作者は、もうこのジャンルは書かないのではないかと思う。
ラインナップと経歴を見るに、得意なのは病院ものらしいし。
(と言いつつ、わりにバラエティのあるテーマで書いてるようだけど)
どうでしょう。今後、少し見ておこう。
この作品と少し似た風合いで、この間山本兼一の「火天の城」を読んだが、
この山本兼一、今回の直木賞にノミネートされていますね。
今後何冊か読む予定だけれど、受賞でもしたら図書館で借りにくくなってしまうかな。
タイミングがいいような、悪いような……
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