プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

< 沈黙 サイレンス >

2024年07月24日 | テレビで見た映画。
シリアスな映画は苦手なのよ。見た後に気分が下がるから。
明るい、コミカルな気軽に見られる作品が好きだ。

なので、まあとりあえず録画はしたけど、見ようかどうしようかはちょっと迷った。
見始めてからも最初の3分くらいは止めて消そうかどうしようかちょっと迷った。
――その後は最後まで見入ってました。

正確には、途中で中断して2日に分けようか迷った。
何しろ長いですからね。160分。2時間40分ですか。
このくらいの長さになるとさすがに途中で集中力が途切れます。
でも何とか一度で最後まで完走して。まあ一度で見た方はいいよね。
中断すると、その後は余生になるからね。


※※※※※※※※※


見ながら舌を巻いていた。
いやこれ、すっごいバランス。

そもそも原作からして難しい話だと思う。
10年くらい前に読んだのよね。
日本人として、日本人キリスト者の書いた信仰についての小説――しかも書き手は
自分の信仰に悩んだ過去がある――を読むのもバランスが大変だと思ったが、
それを映画にするということは、

そういう複雑な背景を持つ原作を、
(多分)もともとキリスト教の背景を持つ外国人の監督が翻訳を経て読解する。
その読解をどこの立場に立って見せるのか。
西洋のキリスト者、日本のキリスト者、一般の日本人。

しかも時間的にもそれなりに距離がある話ですからね。400年。
時間的な距離については個々人の感覚も相当違う。
そのバランスはほんとに微妙。違和感に収まる幅がほんとに狭い。

わたしはこの映画で違和感はほとんど感じなかったから、そのこと自体に驚いた。
まさかそんな見事なバランスで見せてくれることは期待していなかった。

翻って考えると、キリスト教の西洋はこの映画をどう見たんだろうと気になりました。
お手軽にamazon.ukでDVDの評価を見ると、★4でしたね。
もっと簡便に海外感想を知る手段としてyoutubeがあることに気づき、
予告編のコメントを見てみると、英文での感想でポジティブな意見が多かった。
わざわざトレイラーを見てコメントをする人はこの映画を好きであろうし、
ネガティブ意見が削除されている可能性もあるけれども。



構図がきれいでしたね。どんなシーンもかっちりと決まっていた。日本画みたい。
台湾でロケをしたなんて、言われるまで気づかなかった。
九州あたりの人なら植生に違和感があったりするのかもしれないが、
こちら東北からすると、みっしりした植生にも五島列島はこんな風かと納得するし。
セットもかなり上手に作っていると思った。
建築物で違和感はなかった。

唯一あるとしたら、お白洲と刑場は同じ場所にはならんだろうなということくらいで。
他は海外が作ったものとしては再現度はかなり高いと思ったなあ。
「ラスト・サムライ」のなんちゃって感を思い出すと余計。

まあ最大の相違――日本には当時あんなに英語を喋れる人はおらん、というのはあるが、
それをいえば主人公たちがポルトガル人なのに全部英語を喋るというのがあるしね。
本当は来日した外国人はまず意思の疎通に相当に苦労したはずだが、
それを描いていると、多分10時間経っても映画が終わらん。

それにしてもみんなちょうどいい英語を喋りましたね。
すごく流ちょうなカタカナ英語。ぎりぎり、理解できるかどうかわからないくらいの
ジャパニーズイングリッシュ。もう少しカタコトにする方法もあったかもしれないが、
言語については矛盾には目をつぶることにしたんだろうな。
それよりも内容、表現を深めることを採った。それは正しかったと思う。

海の処刑は、あれ本当に撮った?CGでは出来ないよね?
満潮に沈む十字架の磔。俳優が無事かどうかはらはらした。
(無事じゃなければ映画は公開されてないだろうが……)
半死半生のか細い体。しかも肉体労働者らしい、筋肉の名残りはある。
あれ体を作るのが大変だっただろうね。すごい……

拷問の描写が多すぎる、という批判はあるらしい。まあなあ……。
たしかにもっと減らせたとは思う。が、これでもか、と迫害のシーンを並べることで、
やっぱり主人公の追い詰められ感が違うもんね。必要な分量だったといえる。


日本側の描き方も絶妙。
悪役なのか。迫害側なのか。しかしイッセー尾形はごく微妙に人間味も見せる。
「形だけ見せとけばええやん」ともいう。
しかし本当に形だけ見せればいいのかというと……。
その部分も、人によって場合によって違う。そのばらつきは史実でもあったものだと思う。

この映画ではほぼ完全に信仰の部分だけにフォーカスしているのだけれども、
日本人としては政治的な理由も考えないわけにはいかないし。
(そこを考えると、主人公が英語を喋るのがもやもやするが)
実際の信仰も、もっと深浅というか、行き違い、変形、変容があって難しいものだったろう。

終盤でフェレイラが登場してからはっきり言及されるが、日本のキリスト教は
本当にキリスト教だったのか。そこをもっとわかりやすく描いてくれた方が良かった。
わたしはわかりやすい話の方が好きだから。
あの程度だと難しかった気がする。匂わせ程度というか。

あとはキチジローの描き方が難しい。現行はちょっと物足りない気もする。
もっと上手く使えたような立場の人。この人を軸にするんだろうと思っていたが、
思ったよりは出てこなかった。

最後の最後、あれは可能かなあ。
奥さんの心づくしだろうけど、葬式まで見張られていたと説明されたあとだと
リアリティというより、実現不可能だろうという気がした。

そういえば、終章に突然出てきたカピタン?がナレーター役になるのは違和感があった。
もう少し説明してくれないとうまく繋がらないように感じた。
それで最後まで行っちゃうから、少々不満が残る。



とはいえ。見事な作品であったと思う。
スコセッシの作品は「シャッターアイランド」と「ヒューゴの不思議な発明」しか見てないな。
どちらもそれほど感銘を受けた作品ではなかった。今回のこれは見事。
が、こういうシリアスな映画はそもそも見る気にならんという重大な問題が……。


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