プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 池澤夏樹「双頭の船」

2021年12月24日 | ◇読んだ本の感想。
東日本大震災をモチーフにした連作短編のファンタジー。

正直、なぜ池澤夏樹がこういうものを?と思った。
問題意識の強い人で、防災についても原子力発電についても一家言あるだろう。
その人が東日本大震災を取り上げて、こんな風にふわふわした、
ファンタジーでいいのか。

強い言葉でいえば、お茶を濁していると感じちゃったんだよね。
この人は多分後味の悪い作品は書かない。全てではないだろうけど、
「世界は良くなれかし」と思って書いている人。

でも現実の設定で解決を提示することは出来なかったんだろう。
救いを描くとしたら、ファンタジーの色をまとわせるしか。
池澤夏樹じゃなければ、それを非だとは思わないんだけど、
ふだんエッセイなどで問題提起などをしている人だけに、
慰めだとしても、もう少し現実の世界での救いを描いて欲しかった。

船が成長して(物理的に面積もどんどん増えて、小さな船だったはずなのに
2000人分の家も建てられるようになって)、でも物資の補給も描かれず、
面倒なことは省略され、ほわほわほわっとうまくいってしまう。
そういうお話のようなことは起こらないからね。


ラス前を読んで、鎮魂の書かと思ったんだけど。
むしろ鎮魂で良かったんじゃないか。それならばファンタジーでも納得出来る。
でも最後にさまよう独立国か、船を陸地に戻して暮らすか、という二者択一になる。
船が陸地になるなんて安易だ。子どもの夢だ。

子どもの夢の話でもいいんだけどね。
でも散々、今まで言って来たことを考えると……
やっぱり池澤夏樹にこの程度でお茶を濁して欲しくはなかった。


お話としては、それなりに面白かったです。
ふわふわしたファンタジーとして。




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