さち子さんは、私と同年代。若年性認知症。運動機能に障害はない。色白でまる顔、年齢よりもずっと若く見える童顔だ。それに、とても大人しい。
動物が好き。小型犬を飼育していたそうで、犬の話しをすると頷いたり、微笑んだりする。気持ちの表し方は、たぶん、それが精一杯。問いかけには「はい」とだけ答えてくれる。「いいえ」はない。私には、それがちょっと違和感だった。
認知症の人には、拒否の言動を表す人が多いのに、さち子さんには、そういう特徴がいっさい無かった。何を言われても、はい、はい、、と繰り返すだけ。不潔行動が見られ、弄便や異食の行いもある。
さち子さんの年齢を考えると、なぜ、ここまで急速に病状が進んだのか?と私は少し疑問に思っていた。
さち子さんのキーパーソンは、高齢のお母さん。80代のお母さんが、50代の娘さんを介護する。大変、厳しい状況だった。
そのお母さんからの特別な指示事項は、さち子さんの息子さん以外、どんな人からの接触があっても、面会も電話も取り次がないで欲しいという事だった。特に男性は絶対禁止。
さち子さんには離婚歴があり、その後、いつ頃かは不明だが、内縁の夫との生活があったらしい。しかし、この男性との関係は今、断絶している。
さち子さんの体には、髪の毛以外の体毛が一切なかった。誰かに剃毛されていた。さち子さんの病状を利用して、さち子さんを弄んだ者がいたのだろうと私は想像した。病状が現れても側にいたのが、そういう虐待者だったのなら、とても不幸な事だ。