みち子さんは70歳代、女性。ご主人は数年前に他界。息子さんと娘さんがおられる。両膝関節に痛みがあり、杖歩行。認知症の症状はみられない。
みち子さんは、お話し好き。また、お話し上手でもある。いつも笑顔で、色んな話しの中心になっている。
みち子さんには節子さんという、年上のお友達がいる。だいたい、いつも一緒に座っている。節子さんは聞き役に徹するタイプ。だから、二人のバランスはいいな…と思うし、節子さんがみち子さんを、精神的に支えているような気がする。
みち子さんの息子さんは地元の名門高校を経て大学を卒業し、今はとある上場企業にお勤めされている。自慢の息子さんだ。
一方、娘さんはみち子さんにとっては、常に心配の種。
10代の頃から、ありとあらゆる反抗を繰り返し、両親の説得や心配をよそに、最後には反社の男とくっついてしまう。
娘さんが自分の身体に、相当な刺青を入れているのを知った時には、絶望的な気持ちになったと話してくれた。
しかし、相手の男は薬に依存していた上、暴力を振るうこともあったらしく、結局、娘さんも実家に逃げ帰ってくることになる。
ところが、逆上した男がみち子さんの家に刃物を持って乗り込んで来た。その時、娘さんの盾になったみち子さんは、腕や上半身を斬り刻まれた。何十針も縫った傷跡を見せてもらったことがある。
その出来事の後、男は逮捕され、娘さんは別れることが出来た。
でもその後、娘さんは精神を病んでいく。
娘さんが入院するまでは、私も時々、お見かけすることがあった。すごく大人しい人で、話しかけると静か微笑んで、ゆっくり答えてくれることがあった。
でも、この時のみち子さんの反応には、ちょっと驚いた。
バッと横から話しに割り込んできて、娘さんの言葉を取り上げてしまう。みち子さんは娘さんの代弁をして、助けているつもりなのかもしれないが、娘さんを一人前に扱っていないようで、私にはすごく違和感があった。娘さんは私と話したそうにしていたのに、みち子さんはそれを妨害する。自分の言葉で、気持ちを言い表せない娘さんは辛いだろうな…と私は思った。
それから暫くして、娘さんは入院した。病院では、食事の時に出されたスプーンやフォークを飲み込んだりする自傷行為を繰り返しているらしい。
昔、母原病と呼ばれる病気があった。今は、そういう呼び方の病気はないのかもしれない。
だけど、ふと、、私はそんな言葉を思い出した。