明美さんは60歳代前半、女性。生まれつき両下肢に麻痺がある。主たる障害は、それだけ。
ずっと御自宅で障害者向けのサポートやサービスを利用して、一人暮らしを続けて来られたが、年齢的なことを考慮し高齢者施設への入居を決められた。
ボブヘアにカットされた髪は、いつもサラサラで綺麗。澄んだ瞳の美人さんだった。
礼儀正しく、こちらが恐縮してしまうくらい丁寧な言葉遣いをされた。
お部屋には、たくさんの本が並べられ、様々な本を読んでおられた。槇原敬之さんが好きと言って、音楽もよく聴いていた。
録画したTVドラマを、熱心に観ておられることもあった。また、他の入居者さんの愚痴話しも、嫌がらずに聞いてあげたりしていた。
入浴介助についた時、片方の乳房を切除しておられることを知って、私が浴室の鏡にうつらない様、そっと椅子の角度を変えると、明美さんは「ありがとう」と小さく微笑んだ。
そらから暫く、私と明美さんは本や音楽の話しを親しく話し合うようになっていた。
ところが、昔から明美さんのサポートをしておられたある方が、私達の施設より、より充実した施設を紹介されて、明美さんはそちらに転居されることになった。
結局、明美さんが私達の施設に居られたのは3ヶ月位だった。
明美さんは、今もお元気に過ごしておられるだろうか…と私は時々、思い出す。