いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

私と息子の物語

2023-05-20 09:57:00 | 日記
皆さんのブログを拝見しているうちに、子どもさんの話題を幾つか読ませて頂いて、私も思い出した事がある。

小学生の頃の息子とのエピソード。

その頃、隣りに居住している舅や姑がいて、言葉に出来ないような気苦労をしていた。また、そんな嫁の事を、まだよく理解出来ない夫。更に、子育ても私にとっては未知の世界。もとより、共依存体質の私にとって、育児はかなりハードルが高かった。

小学生の息子と幼稚園の娘、様々な形で干渉してくる元気な舅と姑、いまいち頼りにならない夫。

何が…とか、この事が…とか、具体的に説明出来ないのだけれど、とにかく積み重なった疲労が、少しずつ私を押し潰していって、心身ともにギリギリの状態だった。いつも何かにピリピリしていて、元気がなかった。

ある日、小学校の社会科見学か、遠足か、から帰ってきた息子が、目をキラキラさせて、話してくれたことを思い出した。

漆器のことだった。
塗りのお茶碗が、なぜ高価なのか?という話し。

木の器に最初は黒色の塗りを施し、その上から朱色の塗りを重ねる。そうして完成した器を人々が使う。長年、使用しているうちに、手の摩擦で擦れて、内側の黒色が滲み出てくる。更に使い込まれていくうちに、その色が二つとない模様のようになって、美しく表れる。
「これが、素晴らしいんや!この模様が!」息子の目が輝き、言葉に熱が帯びる。
「一つとして、同じ模様はない。使えば使うほど、傷が増えるやろ?その傷が模様になって綺麗になる。傷に値打ちがあるんやで」
「すごいやろ! 傷が付けば付くほど、値打ちが上がる。日本にはそういう器があるんやで。ママ、知ってたか?」と教えてくれた。

それを聞いて、私は涙がはらはら溢れた。
息子の話す器が、はっきりと見えた。

その時の私に一番必要だったものは、立派な先生や賢い大人からではなく、幼な子の口を通して語られる智恵の言葉。

今、傷付き、ぼろぼろになっているか?今、その傷は痛むか?でも、心配しなくていい、必ず後の日に贖われる時がくる。その傷こそが、尊いといわれる時がくる。

今、傷付いていることを、誰も恐れる必要はないのだ。