衣替へ洟(はな)たれ餓鬼のよく育つ 秀野
・・・。もうそろそろ軽いものを着せてやらなくてはならぬ時季となったが、病臥の間、手が廻らず、冬から着せっぱなしのみじめさ。母親なしにも似て、女の児ながら「はなたれ餓鬼」の態。尖った神経に、いたましく響いてくる。「よくまあ、あれで育ってゆくわね」。悲しい自嘲である。この「よく育つ」はすくすく育つのを母が満足げにながめる「よく」でないから、注意ありたし、正真正銘の美人であり酒豪であった人だけに、自嘲のはげしさが、いっそう憐れである。
「俳句の世界」小西甚一 講談社学術文庫 1995年
富翁
・・・。もうそろそろ軽いものを着せてやらなくてはならぬ時季となったが、病臥の間、手が廻らず、冬から着せっぱなしのみじめさ。母親なしにも似て、女の児ながら「はなたれ餓鬼」の態。尖った神経に、いたましく響いてくる。「よくまあ、あれで育ってゆくわね」。悲しい自嘲である。この「よく育つ」はすくすく育つのを母が満足げにながめる「よく」でないから、注意ありたし、正真正銘の美人であり酒豪であった人だけに、自嘲のはげしさが、いっそう憐れである。
「俳句の世界」小西甚一 講談社学術文庫 1995年
富翁