響30年」「村尾」も定価でゲット!サラリーマン転売ヤーが年1000万円を稼ぐ「まさかの仕入れ先」奥窪優木様記事抜粋25.1.31 12:00_現在、国産ウイスキーの希少銘柄は実勢価格で数十万円という値段がつくこともある。そんな人気銘柄を定価購入し、転売している男性がいる。彼の転売には、百貨店のある制度が深く関係
まさかのルートで
希少銘柄を確保
通常、響30年を定価で購入するには、メーカーや小売店が行っている高倍率の抽選販売に当選するくらいしか方法がない。しかも2本も同時に定価で購入できることは、不可能といっていい。
しかし田中(仮名)は、響に限らず、実勢価格で数十万円という国産ウイスキーの希少銘柄を繰り返し定価で入手しているのだ。
なぜそんなことができるのか。
それは彼が、百貨店Aの「外商顧客」だからである。
外商とは、コンスタントに一定金額以上を消費してくれる「上客」を対象に、顧客の元に出向いて商品を販売したり、注文を取ったりする特別サービスのことだ。店舗の売り場の「外」で「商う」ことから外商と呼ばれる。
外商顧客にはそれ以外にもさまざまな特典が提供される。たとえば、一般客が入れない特別なセールやイベントに招待されたり、外商顧客専用のラウンジを利用できたりといった具合だ。そして、なかでも大きな特典が、「優先販売」である。一般客は手に入れることが難しい限定品や希少な商品も、外商顧客なら優先的に用意してくれることがあるのだ。
田中はこの特権を利用して、相場で50万円以上の響30年を定価で2本同時に購入することができたのである。
彼が百貨店Aの外商顧客となったのは2021年の秋のことだ。その百貨店に入っているお気に入りのアパレルブランドを頻繁に利用しており、ワインや日本酒も購入していたため、パンデミック以前の数年間は、40~50万円ほどをその百貨店で支払っていた。支払いには、5%のポイント還元を目当てに百貨店発行のクレジットカードを利用していた。
入手困難な芋焼酎を飲みながら
高級酒の転売を思いつく
そんな彼の元に、ある日、「特別なお客様限定のご案内です」と書かれた封筒が届いた。外商顧客への招待状だった。それによると、外商顧客となれば、追加の会費なしでポイントの還元率は10%に上がるという。さらに、何も購入しなかったとしても駐車料金が一定時間まで無料。特典に魅力を感じた田中は、招待状に記載されているQRコードをスマホで読み取り、誘導された申込用のサイトで、必要事項を入力した。
「関心のあるお品物」を尋ねる質問に、田中は「紳士服・靴・バッグ」のほか、「時計・宝飾品」、「酒類」にチェックをつけた。
それから数日後、百貨店Aの外商部員を名乗る人物から電話があった。「田中様を担当させていただくことになりました石田(仮名)と申します」。彼こそが、田中のタワーマンションに響30年を届けた男性である。
この電話で田中は、石田からさっそく「外商顧客様限定のお品物」をいくつか紹介された。
そのなかで、彼の注意を引いたのは、村尾という芋焼酎だった。特に焼酎好きというわけではなく、この酒も飲んだことはなかったが、入手困難な銘柄でネット上で1升1万円以上で売られていることだけは知っていた。
石田によれば価格はネット上でみた4分の1で1人1本までだという。田中は「買わなきゃ損」だと思い、電話口で注文した。その後、百貨店Aから郵送されてきた村尾を田中は自宅で開栓した。
そして、グラスを傾けながら、あることを思いついた。
百貨店Aの外商から定価で購入した希少酒を転売すれば、儲かるのではないか──。
田中は、定価購入が難しいような希少酒の入荷予定がある際には連絡してくれるよう、石田にメールで頼んだ。
コロナ禍で裾野が広がった
外商顧客のレベル
ちなみにネット上には、外商顧客に関する記事がいくつもある。「一般人が1万円を使う感覚で100万円を使う」とか、「値段を聞かずに購入を決める」などと、「知られざる世界」として描いているものも多い。
田中はタワマン住まいとはいえ、年収は1000万円程度の会社員だ。共働きの妻の年収も加算すれば十分に「勝ち組世帯」の水準ではあるが、超富裕層と呼べる程ではないことは確かである。
では、百貨店Aはなぜ田中を外商顧客として受け入れたのだろうか。背景には、百貨店業界が抱える事情があった。
業界用語では、外商顧客は「帳場客」と呼ばれる。
かつて、百貨店Aでは原則として、年間100万円以上の購入実績が3年以上続いている顧客を帳場客候補として招待状を送付していた。そのハードルが2021年に見直され、購買力の伸び代がある45歳以下の顧客に限り、年間の購入額が50万前後であっても、インビテーションの対象とすることとなったのだ。
きっかけは2020年に始まったパンデミックだ。緊急事態宣言などによる人流の制限、時短営業や休業、爆買い中国人をはじめ外国人観光客の入国がストップしたことなどが響き、2020年における全国の百貨店の売上は、前年比25.7%減にまで急激に落ち込んだ。その後は回復基調にあるものの、2023年の時点でもコロナ禍以前の状況にまでは戻っていない。
そうしたなか百貨店Aでは、外商顧客からの売上を向上させることで、この難局を乗り越えようという経営方針が打ち出された。
田中は、百貨店発行のクレジットカードに登録した年齢や利用履歴から、インビテーションの対象になったものと思われる。
外商営業マンの売上ノルマに
貢献する転売ヤー
全国の百貨店が抱える外商顧客は、一説によると250万世帯。そして彼らが、百貨店売上の2割前後を占めているともいわれている。しかし百貨店Aは、外商部門の売上は全体の15%ほどにとどまっており、その強化が長らく課題とされてきた。
外商顧客の対象拡大と同時に、百貨店Aが取り組んだのは、帳場客1人当たりの購入額の増加だ。外商部員たちには月800万円の「努力目標」という名の売上ノルマが課せられた。一方で、月1000万円を上回った部分に対しては、4%を乗じた金額がインセンティブとして支払われる。
一口に外商顧客と言ってもその購入金額はピンキリだ。石田が勤務する店舗の外商顧客は約6万人。しかし、その半数は1年以上にわたってほとんど取引のない「幽霊顧客」だ。一方で、購入金額上位10%の顧客は、外商売上の8割を占めている。
入会したばかりの顧客に「ご挨拶」として電話をかけ、先方の好みに合致する商品をさりげなく紹介する。対面営業が控えられていたコロナ禍には、これが石田の基本業務だった。
自ら積極的に連絡を寄越してくる田中のような顧客は、売上に貢献してくれそうな「有望株」だった。酒類の仕入れ担当者に連絡を密に取り、限定販売品や入手困難品の入荷があれば外商に回してもらえるよう、依頼した。酒類売り場側も、希少酒は抽選販売などを行うことで集客につなげたいという思惑があるため、そのすべてを譲ってくれるわけではない。また、同じく希少酒を所望する顧客を持つ別の外商部員が先に在庫を押さえてしまうこともあるため、情報力と交渉力がカギとなる。
「転売目的」に気付いても
外商部員は見て見ぬふり
石田は、毎月1、2回のペースで、確保した希少酒について田中にメールで知らせるようになった。
石田からみると、田中が選ぶ商品にはパターンがあった。まず、実勢価格が定価の3割増し程度の銘柄にはほとんど手をつけない。また、定価によらず、実勢価格が1万円以下のような商品にも興味を示さない。
一方で、実勢価格が数万円で、定価の2倍以上に跳ね上がっているような銘柄は、ウイスキー、ワイン、焼酎、日本酒とジャンルを問わず、即決する。1人当たりの販売本数に制限がない商品については、4、5本購入するということもあった。
「転売目的だな」
田中との取引を数カ月続けた時点で、石田はそう直感していた。しかし、売上ノルマに貢献してくれるのであれば、相手の購入目的などどうでもいい。
2022年春、都内でも最後のまん延防止等重点措置が解除された直後に、石田は田中と初めて面会した。平時において、担当者が自宅にまで御用聞きに来る外商顧客は、ごく一部の最上位客だ。田中の毎月の消費額は酒類を中心に10万円前後だったが、コロナ禍という状況を踏まえると、石田にとって上客のひとりであり、誠意を見せる必要があると考えたのだ。
また、それまでの田中とのコンスタントな取引が石田の実績となり、さらに希少性が高い国産ウイスキーの在庫についても裁量を与えられたため、商品をぜひ対面で紹介したいという思いもあった。
“仕入れ先”は3つのデパート
拍車がかかる“希少酒転売ビジネス”
一方の田中は、転売用の希少酒の入手ルートを石田以外にも広げていた。都内にある別の百貨店BとCでも、外商顧客となっていたのだ。いずれも、それまで継続した取引はなかった。
しかし、自宅のマンションのラウンジで知りあった会社経営者の藤井(仮名)がその2つの百貨店の外商顧客であり、彼の担当外商員をそれぞれ紹介してもらったのだ。田中は彼らに百貨店Aの外商顧客であることを告げた上で、利用履歴をメールで送付したところ、ともにインビテーションを送付してきた。それぞれの審査を経て、両百貨店での外商顧客となることができたのだ。
これにより田中の希少酒転売ビジネスはますます拍車がかかった。実勢価格が高騰している希少酒の多くは、決まって「1人1本まで」という購入制限が設けられていた。
一方で、3つの百貨店の全てに在庫がある場合は、家族である妻の名義も使って、最大で6本を購入することができるようになった。
田中には、3人の外商担当者と付き合う上で、心がけていることがある。それは、数カ月に一度、彼らに贈り物をすることだ。贈り物の中身は、渡す相手とは違う外商担当者から購入した酒と決めている。例えば、百貨店Bの外商担当者から購入した実勢価格2万円前後の希少日本酒を、石田に手渡したこともあった。
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これを受け取った外商担当者は、田中の心遣いを好意的に受け止めると同時に、自分と同じく彼に希少酒を提供しているライバルの存在を意識し、優先的に商品を回してくれるようになる。それが田中の目論見だ。
2022年4月からの1年間、田中は希少酒の転売で900万円以上の利益を手にした。実は希少酒を売却する場合、フリマアプリやネットオークションのほうが高値で取引できる場合が多い。
しかし、反復的に継続して酒類を売却すると、「業」としてみなされ、酒販免許の取得が必要となるだけでなく、売却益が所得税の課税対象となる可能性もあるため、前述の通りもっぱら買取店で売却するようにしている。田中は年間1000万円ほどになる転売収益について、所得税を納めていない。
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