陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

二次創作が書けなくなった時の処方箋

2021-06-27 | 二次創作論・オタクの位相

私は二次創作を書きたいときと書かないときの気分の差がかなり激しいです。
気持ちの切り替えがうまくできません。今はあまりありませんが、熱中したら、それこそ丸一日ほとんど飲まず食わずで書いたこともあります。もちろん、そんな不摂生をしたら、健康を害しますので、自慢にもなりませんが。

二次創作をつくれなくなるとき、まず、現実的な理由としては、時間がとれない、こころの余裕がないことでしょう。
学業や仕事が忙しい、家族の介護・看護がある、自分の健康状態などなど、自分の社会を脅かす諸問題は尽きないもの。江戸期の天才画家として名高い伊藤若冲は、青物問屋の跡取り長男だったのに弟に譲って、画業を大成した道楽者とされてきました。ところが、最近の美術史の研究成果によれば、新たな一面が判明。数年間は京の老舗の業界団体の騒動に巻き込まれてその交渉に奔走したがため、筆が持てなかったそうです。実業人としても、それはいい働きをしたのではないかと評価が見直されているのですね。でも、絵を描けなかった若冲は、その間、忸怩たる思いを抱き続けたのではないでしょうか。三度の飯より絵が好き、というのが画狂ですから。

暮らしの不安は尽きず、それをまともに考えれば、二次創作をのんびりやっている自分はおかしいのではないか、と思い詰めることになります。ちなみに私は自作の内容にあれやこれやの文句はつけられたことはないのですが、たぶん二次創作を読んでいるであろうゲストさんに、「こんなことをやって何になるんだ」というコメントを頂いたことがあります。承認制にしていたので応じなかったのですが。

二次創作をやっていてもしょうがない、というのは誰しも数年続けていたら思い当たる壁ですよね。
これに対する明確な答えはありませんが、私なりの回答としては、二次創作をするということは、海の底に沈もうとしている自分がなんとかもがいて息を吸おうとしているような状態なので、としか言いようがありません。

また、今度はいい意味でなのですが、二次創作がまったく進まないときもあります。
たとえば、面白いプロの作品に出会ったとか。私は『精霊の守り人』シリーズが好きで上橋菜穂子先生の作品はだいたい読んでおり、たまに読み返します。が、その二次創作を書きたいとは思わないので、あくまで読者として物語に耽溺し、二次創作のことはまったく頭にはありません。そもそも、ある作品を味わいながら、自作の二次創作のことへ思い馳せてしまえば、その作品を楽しめなくなるからですね。

それから現実の人の交わりが多くなったとき、世の中の諸問題への関心が深まったとき、これも二次創作から遠ざかる理由にはなります。原作物はファンタジーですから、あくまで、それを制作する自分も社会に軸足をおかないような存在のつもりにならないと、書けないことになります。

他の人のおもしろい二次創作を見つけたときもそうですね。
嫉妬にかられる、自作の進捗の遅れを焦る、という負の感情もありますが、他人の萌えで満たされてしまって、自分が労をとって作ることはあるまいと、遠慮がちになってしまいます。

さらにもうひとつは。
二次創作の本質に矛盾しているのですが、ひさびさに原作物を視聴したときなど。自分が書いたものがかなり乖離してしまっていることを発見して、申し訳なくなることもあります。続編などで旧作の設定がひっくり返されたり、なかったことにされたり、もしくは後付けされたりして、あるいはキャラの性格が改変されすぎてしまって、二次創作熱がとまる、なんてこともよく耳にします。

さて、そんなときはどうすればいいか。
私は二次創作だけを専門にしている創作屋ではないので、原作物のレヴューがてらに、とことんその世界を楽しむことにします。また、気分転換のための気散じの漫画や小説などを取り出して読み直すことにしています。とくにシリアスものを書いていて行き詰まったときなどは、明るいコメディものに触れるのがいいですね。

二次創作の行き詰まりは、二次創作でないもので直すもの。
初心にかえってその他多くに触れることで、ゆっくりと愛を取り戻せばいいのです。



【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。


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