陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

電子書籍市場の拡大急成長、その利点

2019-06-20 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

先日、テレビ視聴中に驚いたことがあります。
電子版コミックが読めるサイトのCMが流れたことです。モバゲーなどウェブ関連企業がテレビで宣伝するのは珍しくはありませんが、ネット上で気軽に、下手すれば無料でも読める漫画のサイトがテレビ番組の隙間で紹介されるということに驚きが走ったのでした。もう、大手マスコミとアングラなネット文化という敷居はなくなってきたのでしょう。

ネット上での電子コミックが読めるサイトを利用したことはありますが、特定のお気に入り作家が連載しているなどの糸口が私には必要でした。電子書籍を配信するアプリをダウンロードしたことがないですし、電子版コミックが読める有名なサイトはウェブ上で過激な漫画の広告が自動的に出てくるのでいやな思い出しかありません。ネット広告は個人の趣味嗜好をリサーチしているとされていますが、私は極端に残忍なシーンの漫画が読みたいとは思わないので、広告を出すにしてももうすこしどうにかならないものかと…それはともかく。

2019年5月14日の読売新聞朝刊の関西経済特集ページは、「出版業界最前線」と題された、電子書籍市場の急成長ぶりを語るものでした。

先述の電子版漫画が読めるサイトの代表格「コミックシーモア」はNTT系列の企業。電子データ化した書籍を販売する専用サイトで、書籍雑誌点数は56万冊、月間閲覧数は1000万人。海外からのアクセスもあるのでしょうが、やや大袈裟にいえば、ほぼ国民の10人に1人ぐらいは読んでいることになります。電車の中でスマホとにらめっこの乗客が多くなるはずです。

国内の電子書籍市場は2017年時点で2241億円を突破。
うち文芸書・実用書は396億円、残り1845億円はコミック。電子書籍ではやはり圧倒的に漫画が強い。電子書籍市場じたいは紙の書籍の1割程度であるものの、漫画だけにしぼれば電子版の販売額が紙本を追い抜いてしまったということです。

今回はこの記事内容を参考に、拡大急成長しつづける電子書籍の利点について迫ってみましょう。一部、かなり私見もまじえています。

・価格設定が自由である
私が買った漫画が電子書籍版でかなり割引されていたことがあります。紙の本は古本でもない限り定価販売。反して、電子書籍サイトではキャンペーンで値引き販売することが多い。ただ、作家さん側の利益確保が心配になりますね…。

・出版社側のコストダウン効果がある
印刷代や輸送の経費がカットできる、書店の棚の収納力によらずに販売できる。物理的な制約から自由になった販路。そのいっぽう、出版物の取次や卸売をする中間的な流通や、書店の経営に影響を及ぼしつつあります。

・絶版知らずで末永く本を売れる
売れ残った本が書店から出版社へ返本されて倉庫で死蔵したり、古書店へ流されてしまうこともなく、ネット上でいつでも陳列状態。在庫切れとも無縁で経年劣化もしない。電子データの一番の強みはココですね。ただ、人気のない本が、早々と紙本やめて電子書籍でのみ販売になるのはやや寂しくもありますね。

・配信事業者が幅広い
電子書籍の配信事業者はIT企業や出版社系のみならず、通信会社などもふくまれ、大小さまざまという。かつては作家は出版社と専属契約して、そこから出された書籍が絶版になったら作品が消えてしまうのでしたが、公開先が広がることで作家個人、あるいは団体として出版公開できるようになります。キンドル本なんかはそうですね。公開の選択肢が多いのはいいことではないでしょうか。

・新人の発掘育成までも手掛ける
電子コミックの販売サイトには編集部があり、一般投稿者から漫画家としてデヴューさせています。漫画家の登竜門とされた大手出版社の受賞などを経ずに、漫画家になれるというだけあって人気に。ただし、新人作家の濫造は質の低下を招いている、作家を使い捨てにしているという意見もありますね。

・読む以外の楽しみも味わえる
「オトバンク」という配信サイトでは、声優などが朗読した本を聴く「オーディオブック」の利用が高まっています。AIの開発では、香りや触感などの感覚を再現する試みがあり、今後、見るだけ、読むだけではない本の楽しみ方も電子書籍で模索されていくのかもしれないですよね。

・無料で読むことすらできる
無料連載のコミックもありますし、ほんらいは有料なのだけど期間限定で無料公開にしたり、ポイント付与されれば実質無料で買ったと同じになってしまうことも。そもそも、ネット上で漫画を読めばポイントが貯まるというシステムが、なんだか信じられないくらいびっくりです。

電子書籍の最大の利点はやはり、本という物理的な形態から自由になることでしょう。
その反面、違法に複製されやすいので海賊版サイトで著作権侵害されて深刻な被害も出ています。無料や大幅な値引きは読者への価格破壊を招き、紙本を定価で購入するという習慣をないがしろにする恐れがあります。事実、漫画家さんのなかには、初版の単行本が売れないと連載打ち切りにされてしまうので、泣き落としでお願いするひとまでいます。新人がどんどん参入してくるということは、それだけ競争が激化していくことを意味しています。

電子書籍の活況は紙本の売上げ不振にあえぐ出版社にとっては、起爆剤なのかもしれません。しかし、いっぽうでネット上でフリーで読めるというルールが浸透しすぎたせいで、割りを食う作家さんも多いのではという危惧もいだきますね。

次回は電子書籍市場の裏側で、作家の動きについても述べることにします。


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。




この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 父の日に見たい映画「庭から... | TOP | SNSに向いていない二次創... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 読書論・出版・本と雑誌の感想