姫子は手慣れた手つきで袋を開ける。
おおざっぱに破るのでなくて、ていねいにホッチキスを指の腹で外しているのがいじらしい。
花火をとりだして何種類かに分類すると、順序を入れかえはじめた。彼女なりのルールがあるようだ。端から私はふしぎそうに目で追った。夢中でなにかを探しているような姫子の横顔をじっくり見たのは、去年の夏に続いてはお正月のかるた取り以来だろうか。
「姫子、もういい?」
「うん、準備できたよ。はじめるね」
姫子がもった花火のこよりに、ライターの炎をそっと近づけた。いきおいよく点けるとすぐに燃え尽きてしまうので、注意する。
火柱に溶けたこよりの先から、色の玉が弾き飛んだ。それはちいさな炎の星となって、飛び散っていく。逆さにした彼岸花のように。網をなげて膝の高さまでの夜をつかもうとしているのに、先っぽが光りの粒になるやいなや、ぽろりと崩れて溶けていく。
はじめの一本の炎が尽きるまで、じっくりと眺めた。
花火がはじまる頃を見計らったように、夜空に出ていた月は隠れた。
お盆をすぎた八月下旬の月は、満月から四分の一ほど痩せた、猫の目を傾けたようなかたちをしていて、高い空から私たちを見おろしていた。いま、眠った黒猫の瞳のごとく月は、闇にまぎれて、星の海ばかりがちらちら輝いている。が、その光りの点描は、手元を照らすには遠く頼りなかった。
バケツに浸された、花火の柄は増していった。
終わってしまった花にむける哀惜は数をかさねるごとに深くなる。
花火が尽きるたびごとに訪れる夜の沈黙がこわくて、憑かれたように次の花火にどんどん火を点けていく。マッチ売りの少女のように、炎の花を擦って、私たちは宵闇に溶けていくいろんな夢景色を眺めた。