陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「召しませ、絶愛!」(十三)

2022-04-19 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

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姫子と千歌音が目覚めたのは客間の床の上だった。
卍の字をつくったかのように、頬を寄せ合って眠りこけていたのだった。千歌音が上体を起こすと、肩から薄絹がずり落ちた。どうやら気を利かせた侍女がかけてくれたものらしい。

時計のアラームもなく、自然にいっしょに目を覚ますのは珍しかった。

「おはよう、千歌音ちゃん」
「おはよう、姫子、素敵な朝ね」
「わたしね、なんだか今日はいつもより三倍は幸せな感じがするの」

姫子だって覚えているのだ。昨晩の不可思議な出来事のことを。きっと他の誰かに言ってもわかってはくれない。だから、ふたりだけの秘密にしよう。そんな意味をこめて、千歌音は姫子の唇に指を立てた。

「私は姫子ひとりさえいれば、もうそれでいい。月と地球と太陽と、貴女がいれば…」

するすると唇が近づきそうになった、そのとき。どこからか、ぐううううと鳴る音が。

「あ、ごめんなさい…」
「先にお腹をいっぱいにしておかなくちゃね。きょうは学校のテストがあるんですもの」

掛けられた薄い毛布をのけようとして、千歌音はそれを改めて見直した。
それはタオルケットであったというよりは、やや古めかしい絣の着物であった。ほのかに梅の香りがする。こんな和服は、姫宮家では見たことがない、いったい誰が…。

「あら、もうこんなに早くお目覚め?」

真正面に、そう膝のうえに乗りかかってきたのは、姫子の顔。いや違う。姫子は正真正銘、今、隣にいたはずではないか、そう隣に…、なのに、いない?! まさか、消えた?! 

真正面の姫子らしき人物はぐいぐい迫ってくる。
千歌音は被っていた着物を払いのけた。あの夜のまま、うっかり制服を着たままで眠っていたらしい。それは、姫子も同じはずだった。しかし、目の前の人物はどこぞの巫女なのか。知り過ぎた顔をした、知らないはずの謎の少女が馴れ馴れしく、太ももに触ってくる。

「貴女は…どなた? 姫子では、ない…?」
「わたしは姫子、あなたは千歌音。神代の昔から、わたしたち、決まっていたことじゃない」
「違う、こんなの私の姫子じゃない!」
「そうなの? この艶本によれば、どうもわたしとあなたは懇ろになってもおかしくはないはず。前世からの巫女どうし、仲良くしましょ」

…と言って、巫女がさしだしたのは、姫子が愛読していた漫画コミックスだった。
私でさえ知らない姫子の本棚に、なぜこいつは侵入できたのだろう。あの早乙女真琴を買収したのだろうか。それにもまして、前世? まさか、…。月の社に封印される前の、さらにその前の…いや、いつの姫子なのだろうか、もうわからない。わかっているのは、私たちは三組、四組だけどころではないということだった。



【目次】神無月の巫女×姫神の巫女二次創作小説「召しませ、絶愛!」




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