なお、今回はコロナウイルスに感染した場合の労働者向けの支援策について記事にしています。
コロナに限らず、業務上もしくは業務外での医療もしくは労働保険、社会保険上の公的支援として知っておいてほしい制度でもあります。
・特例的な診療報酬
医療機関に支払われる診療報酬は一定期間で改訂されます。新型コロナウイルス感染の感染防止策がとられた医療機関には、特例的な診療報酬が設定されました。外来では、初診料、画像診断などの費用にくわえ、「院内トリアージ実施料3000円」が加算。患者側の窓口負担は原則1~3割。「院内トリアージ実施料」は300~900円の負担で済みます。また、入院患者ならば、42万超えの特定集中治療室管理料が設定されましたが、入院分は全額公費負担(指定難病)ですので、患者の窓口負担はありません。すなわち感染が疑われ、かかりつけ医療機関を受診すれば通常より少し高めの医療費はかかりますが、感染者と確認された場合はその後の医療費はかかりません(ただし、入院時食事代の負担はあるかもしれませんが)。感染しないに越したことはありませんね。
以下は、被雇用者向けの救済制度です。
・労働基準法上の「休業手当」と「休業補償」
新聞に載っている社労士コンサルタント等の紹介でよく混同されているのですが、労基法上の「休業手当」と「休業補償」とは意味が異なります。
「休業手当」は、「使用者の責に帰すべき事由による休業のため」、休業させた労働者に事業主が平均賃金の6割以上を支払うもの。資金難・不況による経営障害や、内卒者の自宅待機などがこれにあたります。つまり、従業員の感染有無にかかわらず営業自粛した場合の労働者の生活保障だったのですが、コロナ蔓延自体が天変地異であるために事業主が補償しないこともありました。この「休業手当」の支給を促進するために、政府がとった対策が雇用保険法上の「雇用調整助成金」の拡充や、「小学校休業等対応助成金」などです。事業主に助成金を出して、従業員を休業させやすくしました。
「休業補償」は、「業務上の疾病負傷をし、その療養のために労働することができず、賃金を受けない日」に、平均賃金の6割を事業主が支払うべきもの。業務災害としてのコロナ感染であれば、少なくとも3日間はかならず事業主が支払う義務があります。では、働けず給料も支払われないのが4日目になったら? それは、労災保険法上の「休業補償給付」もしくは、健康保険法上の「傷病手当金」に頼ることになります。
・労災保険法上の「休業補償給付」
業務上の感染の疑いが明確に認められた場合は、労働者災害補償保険法上の「休業補償給付」の対象となります。医療・介護従事者は業務災害認定がされやすいでしょうし、販売員やバス・タクシー運転手など接客業は労災対象になりえますので、労基署に相談の余地ありです。「休業補償給付」は、「業務および通勤災害で療養のため」「労働不能であり」「賃金を受けない日につき」「通算して3日の待機期間を終了し4日目から」、原則として平均賃金相当額の6割程度支給されます。さらに、「休業補償給付」の対象者が申請すれば、ボーナス等の特別給与(負傷または発病の日から1年間に支払われたボーナス等)をもとにしてその2割程度上積みされる「休業特別支給金」があります。すなわち合計すれば、給与の8割程度は保障されます。なお、健康保険法上の「傷病手当金」と併給はできません。労災は社会保険適用ではないパートタイム労働者でも外国人労働者でも1人でも雇えば、原則適用事業所となります。「休業補償給付」は労働不能が続く限り支給されますが、条件しだいで「傷病補償年金」に切り替わることがあります。
・健康保険法上の「傷病手当金」
会社で社会保険に加入(正社員や、週30時間以上働く非正規労働者など)していれば、「療養中であり」「労働できない」「継続した3日の待期期間を終了すれば」支給されます。退職後の任意継続被保険者は対象外です。ポイントは、私傷病でもいい(業務外事由)こと、自費診療や自宅療養、病後の療養についても支給されます。待機は3日連続ですが、祝祭日が含まれても有給休暇があっても完成します。支給額は直近12か月間の各月の標準報酬月額の平均額の30分の1相当額の3分の2を日額とします(例外あり)。ざっくりいえば、給与日額の3分の2ぐらい。ただし、労基法上の「休業補償」や労災法上の「休業補償給付」と併給できず、そちらが優先されます。出産手当金、障害厚生年金や障害手当金を受給すれば支給されず、また最長1年6箇月までしか支給されません。業務災害であれば、労災の「休業補償給付」のほうがお得ですね。欠勤中に給与が支払われても、傷病手当金日額より少なければ差額支給もできます。
・国民健康保険法上の「傷病手当金」
「傷病手当金」はほんらい健康保険法上の給付で、国民健康保険法ではなかったものです。ただし、国保加入者のうち被用者(社会保険適用要件を満たさないアルバイトや強制適用でない零細規模の事業所に雇われる労働者)については、特例として「傷病手当金」を支給することになりました。国保の窓口となっている自治体に問い合わせしてみましょう。国保加入者でも、フリーランスや個人事業主は対象外です。
以上の保険給付は、医療機関を受診すれば医師の証明書が必要ですし、給与の支払いや勤務状況について事業主の証明を添えて申請せねばなりません。
【参照】
・新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け) 厚生労働省特設ページ
・読売新聞朝刊記事2020年6月18日「安心の設計MONEY」
★新型コロナウイルス感染症関連の記事一覧★
2020年初春に発生した新型コロナウイルス感染症に関する記事のまとめです。今回のコロナ騒動は、医療崩壊の危機や労務管理の諸問題を含め、実にわたしたちの暮らしを根本から覆すような課題を提示してくれました。