[15]です。拒絶査定不服審判、前置審査の話ですね。
【問題文】
〔15〕特許出願についての拒絶査定不服審判及び前置審査に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。
(イ)2以上の請求項に係る特許に対しては、請求項ごとに、同時に別個の特許無効審判を請求することができる。同様に、2以上の請求項に係る特許出願に対して拒絶をすべき旨の査定がされたときも、請求項ごとに、同時に別個の拒絶査定不服審判を請求することができる。
(ロ)新規性欠如を理由として拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対する拒絶査定不服審判が請求された場合において、査定を取り消しさらに審査に付すべき旨の審決がされたときは、当該事件を審査する審査官は、当該審決に拘束され、いかなる場合においても、新規性欠如を理由として拒絶をすべき旨の査定をすることはできない。
(ハ)特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があった場合において、その日から30日以内にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があったときは、拒絶をすべき旨の査定をした審査官に、その請求を審査させなければならない。
(ニ)審査において、引用例aに基づく進歩性欠如を理由とする拒絶理由が通知され、ついで、引用例bに基づく進歩性欠如を理由とする拒絶理由が通知され、後者の理由で拒絶をすべき旨の査定がなされ、拒絶査定不服審判が請求された場合において、審判官は、改めて拒絶理由を通知することなく、引用例aに基づく進歩性欠如を理由として、拒絶をすべき旨の審決をすることができる。
(ホ)拒絶をすべき旨の査定を受けた者が、その責めに帰することができない理由により拒絶査定不服審判を請求することができなかった場合において、その査定の謄本の送達があった日から6月を経過すると、その理由がなくなった日から14日以内であっても、拒絶査定不服審判を請求することはできない。
1 1つ
2 2つ
3 3つ
4 4つ
5 なし
【コメント】
(イ) 前半は123条1項柱書き後段により正しい。後半は、拒絶査定不服審判が請求項ごとにできる旨の積極的な規定はないため、誤り。拒絶査定は出願単位に行われ(49条)、拒絶査定不服審判の請求の対象は、拒絶査定であることに照らせば(審判便覧61-01)、拒絶査定が請求項ごとに行われるものであることを積極的に示す(185条のような)条文や、請求項ごとに審判請求できる旨の(123条1項柱書き後段のような)規定がない以上、請求項ごとに拒絶査定不服審判を請求することはできません。
(ロ) いわゆる差戻審決がなされた場合に、審判官の判断は審査官を拘束する点は正しい(160条2項)。しかしながら、どの範囲で拘束されることになるのか、という点が問題となります。青本160条の解説のところでは「審判官が査定取消の理由とした判断が無視されたのでは、上級審としての審判の意義がなくなるので、2項によってそれを防止したのである。」ということでこの趣旨からすれば審判官の「査定取消の理由」の判断が、拘束される範囲のターゲットということになります。さらに、「したがって、ある特許出願が他の特許出願の後願であるということを理由とする拒絶査定が審判で取り消された場合には、その出願の後願でないと判断されたのであるから、審査官は重ねてその特定の出願の後願であるという理由で拒絶査定をすることはできない。」と記載されています。アンダーラインで強調したところに注目して下さい。39条違反というのは適用条文であって、査定取消の理由というのは、「その特定の出願の後願であるという理由」が拒絶査定取消の理由となっている点に注意しましょう。これより、「その特定の出願」でない他の出願が先願に存在することを理由に39条違反であるという判断は、査定取消の理由とは異なる理由になりますから、審査官は再度39条違反で拒絶査定をしてもよいことになります。この話から、本設問は誤りといえるかと思います。
ただ、この話は、審判と審決取消訴訟との関係でより重要になってきます。具体的には行政事件訴訟法33条1項に規定する審決取消判決の行政機関に対する拘束力の問題です。
この話は前提として審決取消訴訟の審理範囲の問題と密接に絡んでくる非常に重要な問題ですが、審決取消訴訟における審理範囲の問題については一応最高裁で決着がついています。その中で具体的には特許無効理由の話になりますが、以下の表現を引用しておきます。
「無効審判における判断の対象となるべき無効原因もまた、具体的に特定されたそれであることを要し、たとえ同じく発明の新規性に関するものであっても、例えば特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の理由をなすものと解さなければならない。」と判決文においては述べられています(特許判例百選第三版 52番の判決 106頁右欄下から3行目~107頁左欄4行目の引用。さらに、吉藤第13版655頁12行目~13行目、中山工業所有権法(上)285頁4行目~5行目も参照)。
この話は要するに、審決に示された理由というのは単に、○○条○項というレベルではなく、具体的な公知事実との対比における判断ということを示しています。従って具体的な公知事実が異なれば、無効理由(拒絶理由)としては別個の理由を構成することになります。この点は上記青本の記載と同じです。
この筋で、本設問を再び考えてみると、29条1項違反(新規性なし)と判断されたとしても、具体的な公知事実が異なれば拒絶理由としては別個の拒絶理由となります。160条2項の規定は、「その判断は審査官を拘束する」となっているけれども、「その判断」というのは、上記青本の記載から明らかなように「査定取消の理由」であることから、新規性なし、という結論自体に拘束されているわけではないということになります。
よって、本設問は誤りということになります。
(ハ) 162条によれば、「拒絶をすべき旨の査定をした審査官に」その請求を審査させなければならないというわけではないので、誤り。ただし、現実には、原則として元の審査官が前置の審査をしています。
(ニ) 159条2項は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に50条の規定を準用する旨規定しています。本問においては査定の理由は「引用例bに基づく進歩性なし」です。よって、「引用例aに基づく進歩性なし」については、査定の理由と異なる理由であるため、50条の規定により拒絶理由を通知して、意見書提出の機会を与えなければならないということになるとも考えられます。
しかし、拒絶査定不服審判においては、審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においてもその効力を有することになっており(158条)、審査段階で拒絶理由を通知し、意見書提出の機会を与えている以上、審判段階で重ねて同じ理由について拒絶理由を通知する必要はありません。よって正しい。
ただ、そのように考えると、159条2項と158条とが衝突しているように見えてしまいますね。159条2項の条文に忠実に考えると、「引用例aに基づく進歩性なし」というのは、確かに「査定の理由と異なる理由」に該当することになりますが、審判官は、審査で示されている理由については知っているので「異なる理由を発見した」わけではないということで、159条2項に当たらない、と考えておきましょう。そうすれば158条と159条2項との整合がとれると思います。
なお、「引用例aに基づく進歩性なし」というのは最初の拒絶理由通知であると考えられ、それにもかかわらず、「ついで、引用例bに基づく進歩性なし」が通知されたということは、一般には、二度目の通知は最後の通知と考えられます。最後の通知は、最初の通知による補正で拒絶理由は解消した場合にのみ発せられるところ、出願人としては最初の理由は解消したと考えるところです。そして拒絶査定の理由は最後の通知でなした「引用例b」のみだったとすると、(審査基準では拒絶査定をする場合には該当する拒絶理由をすべて挙げることになっているからなおさら)出願人としては「aはすでに解消しているので、bを解消すれば特許になる、と思うところでしょう。そして、一生懸命その旨を主張することになります。ところが審判官によって、「aで拒絶」といきなり審決を出されてしまうと、なんのこっちゃ、ではありますね。ですから、この点を納得するには、以下のような事例を考えればよいと思います。
1 まず、内容Aの状態で最初の拒絶理由通知がなされる。
2 出願人は誤記訂正補正αを行って、内容Bとする。
3 最初の理由は解消したが補正によって新たな理由が生じたと審査官が判断したので最後の拒絶理由通知がなされる。
4 出願人は懸命に意見書で主張
5 しかし、最後の理由に基づいて拒絶査定。
6 審判請求にて、適法な誤記訂正補正を行い、内容Aの状態に戻す。
7 前置審査を経て、最初の審査で示された最初の理由にていきなり拒絶審決。
このような状態を想定すれば、「それなら拒絶理由が来ないままいきなり拒絶審決が来てもしょうがない。」と思えるのではないでしょうか。これが続審主義の威力ということになります。
(ホ) 問題文は「その謄本の送達があった日から6月を経過すると・・・請求できない。」となっていますが、121条2項は、「その期間の経過後6月以内に請求できる。」であり、1項の30日(プラス4条延長)の期間経過後6月までは請求できる可能性があるため、誤り。
正しいものは一つということで1が正解でした。正答率は4割程度で、2を選んだ人もほぼ同数という感じの難しい問題だったといえるでしょう。落としてもやむなし、というところか。
【問題文】
〔15〕特許出願についての拒絶査定不服審判及び前置審査に関し、次の(イ)~(ホ)のうち、正しいものは、いくつあるか。
(イ)2以上の請求項に係る特許に対しては、請求項ごとに、同時に別個の特許無効審判を請求することができる。同様に、2以上の請求項に係る特許出願に対して拒絶をすべき旨の査定がされたときも、請求項ごとに、同時に別個の拒絶査定不服審判を請求することができる。
(ロ)新規性欠如を理由として拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対する拒絶査定不服審判が請求された場合において、査定を取り消しさらに審査に付すべき旨の審決がされたときは、当該事件を審査する審査官は、当該審決に拘束され、いかなる場合においても、新規性欠如を理由として拒絶をすべき旨の査定をすることはできない。
(ハ)特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があった場合において、その日から30日以内にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があったときは、拒絶をすべき旨の査定をした審査官に、その請求を審査させなければならない。
(ニ)審査において、引用例aに基づく進歩性欠如を理由とする拒絶理由が通知され、ついで、引用例bに基づく進歩性欠如を理由とする拒絶理由が通知され、後者の理由で拒絶をすべき旨の査定がなされ、拒絶査定不服審判が請求された場合において、審判官は、改めて拒絶理由を通知することなく、引用例aに基づく進歩性欠如を理由として、拒絶をすべき旨の審決をすることができる。
(ホ)拒絶をすべき旨の査定を受けた者が、その責めに帰することができない理由により拒絶査定不服審判を請求することができなかった場合において、その査定の謄本の送達があった日から6月を経過すると、その理由がなくなった日から14日以内であっても、拒絶査定不服審判を請求することはできない。
1 1つ
2 2つ
3 3つ
4 4つ
5 なし
【コメント】
(イ) 前半は123条1項柱書き後段により正しい。後半は、拒絶査定不服審判が請求項ごとにできる旨の積極的な規定はないため、誤り。拒絶査定は出願単位に行われ(49条)、拒絶査定不服審判の請求の対象は、拒絶査定であることに照らせば(審判便覧61-01)、拒絶査定が請求項ごとに行われるものであることを積極的に示す(185条のような)条文や、請求項ごとに審判請求できる旨の(123条1項柱書き後段のような)規定がない以上、請求項ごとに拒絶査定不服審判を請求することはできません。
(ロ) いわゆる差戻審決がなされた場合に、審判官の判断は審査官を拘束する点は正しい(160条2項)。しかしながら、どの範囲で拘束されることになるのか、という点が問題となります。青本160条の解説のところでは「審判官が査定取消の理由とした判断が無視されたのでは、上級審としての審判の意義がなくなるので、2項によってそれを防止したのである。」ということでこの趣旨からすれば審判官の「査定取消の理由」の判断が、拘束される範囲のターゲットということになります。さらに、「したがって、ある特許出願が他の特許出願の後願であるということを理由とする拒絶査定が審判で取り消された場合には、その出願の後願でないと判断されたのであるから、審査官は重ねてその特定の出願の後願であるという理由で拒絶査定をすることはできない。」と記載されています。アンダーラインで強調したところに注目して下さい。39条違反というのは適用条文であって、査定取消の理由というのは、「その特定の出願の後願であるという理由」が拒絶査定取消の理由となっている点に注意しましょう。これより、「その特定の出願」でない他の出願が先願に存在することを理由に39条違反であるという判断は、査定取消の理由とは異なる理由になりますから、審査官は再度39条違反で拒絶査定をしてもよいことになります。この話から、本設問は誤りといえるかと思います。
ただ、この話は、審判と審決取消訴訟との関係でより重要になってきます。具体的には行政事件訴訟法33条1項に規定する審決取消判決の行政機関に対する拘束力の問題です。
この話は前提として審決取消訴訟の審理範囲の問題と密接に絡んでくる非常に重要な問題ですが、審決取消訴訟における審理範囲の問題については一応最高裁で決着がついています。その中で具体的には特許無効理由の話になりますが、以下の表現を引用しておきます。
「無効審判における判断の対象となるべき無効原因もまた、具体的に特定されたそれであることを要し、たとえ同じく発明の新規性に関するものであっても、例えば特定の公知事実との対比における無効の主張と、他の公知事実との対比における無効の主張とは、それぞれ別個の理由をなすものと解さなければならない。」と判決文においては述べられています(特許判例百選第三版 52番の判決 106頁右欄下から3行目~107頁左欄4行目の引用。さらに、吉藤第13版655頁12行目~13行目、中山工業所有権法(上)285頁4行目~5行目も参照)。
この話は要するに、審決に示された理由というのは単に、○○条○項というレベルではなく、具体的な公知事実との対比における判断ということを示しています。従って具体的な公知事実が異なれば、無効理由(拒絶理由)としては別個の理由を構成することになります。この点は上記青本の記載と同じです。
この筋で、本設問を再び考えてみると、29条1項違反(新規性なし)と判断されたとしても、具体的な公知事実が異なれば拒絶理由としては別個の拒絶理由となります。160条2項の規定は、「その判断は審査官を拘束する」となっているけれども、「その判断」というのは、上記青本の記載から明らかなように「査定取消の理由」であることから、新規性なし、という結論自体に拘束されているわけではないということになります。
よって、本設問は誤りということになります。
(ハ) 162条によれば、「拒絶をすべき旨の査定をした審査官に」その請求を審査させなければならないというわけではないので、誤り。ただし、現実には、原則として元の審査官が前置の審査をしています。
(ニ) 159条2項は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に50条の規定を準用する旨規定しています。本問においては査定の理由は「引用例bに基づく進歩性なし」です。よって、「引用例aに基づく進歩性なし」については、査定の理由と異なる理由であるため、50条の規定により拒絶理由を通知して、意見書提出の機会を与えなければならないということになるとも考えられます。
しかし、拒絶査定不服審判においては、審査においてした手続は、拒絶査定不服審判においてもその効力を有することになっており(158条)、審査段階で拒絶理由を通知し、意見書提出の機会を与えている以上、審判段階で重ねて同じ理由について拒絶理由を通知する必要はありません。よって正しい。
ただ、そのように考えると、159条2項と158条とが衝突しているように見えてしまいますね。159条2項の条文に忠実に考えると、「引用例aに基づく進歩性なし」というのは、確かに「査定の理由と異なる理由」に該当することになりますが、審判官は、審査で示されている理由については知っているので「異なる理由を発見した」わけではないということで、159条2項に当たらない、と考えておきましょう。そうすれば158条と159条2項との整合がとれると思います。
なお、「引用例aに基づく進歩性なし」というのは最初の拒絶理由通知であると考えられ、それにもかかわらず、「ついで、引用例bに基づく進歩性なし」が通知されたということは、一般には、二度目の通知は最後の通知と考えられます。最後の通知は、最初の通知による補正で拒絶理由は解消した場合にのみ発せられるところ、出願人としては最初の理由は解消したと考えるところです。そして拒絶査定の理由は最後の通知でなした「引用例b」のみだったとすると、(審査基準では拒絶査定をする場合には該当する拒絶理由をすべて挙げることになっているからなおさら)出願人としては「aはすでに解消しているので、bを解消すれば特許になる、と思うところでしょう。そして、一生懸命その旨を主張することになります。ところが審判官によって、「aで拒絶」といきなり審決を出されてしまうと、なんのこっちゃ、ではありますね。ですから、この点を納得するには、以下のような事例を考えればよいと思います。
1 まず、内容Aの状態で最初の拒絶理由通知がなされる。
2 出願人は誤記訂正補正αを行って、内容Bとする。
3 最初の理由は解消したが補正によって新たな理由が生じたと審査官が判断したので最後の拒絶理由通知がなされる。
4 出願人は懸命に意見書で主張
5 しかし、最後の理由に基づいて拒絶査定。
6 審判請求にて、適法な誤記訂正補正を行い、内容Aの状態に戻す。
7 前置審査を経て、最初の審査で示された最初の理由にていきなり拒絶審決。
このような状態を想定すれば、「それなら拒絶理由が来ないままいきなり拒絶審決が来てもしょうがない。」と思えるのではないでしょうか。これが続審主義の威力ということになります。
(ホ) 問題文は「その謄本の送達があった日から6月を経過すると・・・請求できない。」となっていますが、121条2項は、「その期間の経過後6月以内に請求できる。」であり、1項の30日(プラス4条延長)の期間経過後6月までは請求できる可能性があるため、誤り。
正しいものは一つということで1が正解でした。正答率は4割程度で、2を選んだ人もほぼ同数という感じの難しい問題だったといえるでしょう。落としてもやむなし、というところか。
(ニ)につきましては、審判便覧62-06によると
「審査において複数の拒絶理由が同時に、又は別々に通知され、その中の一部の拒絶理由を査定の理由として拒絶査定された特許出願に係る拒絶査定に対する不服審判事件において、査定の理由となった拒絶理由によっては拒絶をすることができないが、査定の理由とならなかった、審査で既に通知されている拒絶理由によって拒絶すべきであると認めたときは、改めてその拒絶理由を通知する。」
とありますので、誤りとも考えられます。
(イ)、(ロ)、(ホ)は明らかに誤りなので、上記の場合は(ハ)が正しいことになりますが、今ひとつすっきりしません。
ちなみに私は問14~問18まで答えに1が続くことに戸惑い、つい5(なし)をマークしてしまいました。
この点は、例えば、進歩性違反で拒絶査定をした場合に、審判段階で改めて新規性なしを理由に拒絶審決をしようとする場合には、拒絶理由通知は不要だという話もあることを考えると、拒絶査定の理由と異なる理由で拒絶審決する場合に、必ず、拒絶理由通知をしなければならないということでもないこともまた事実です。