人の単純記憶能力というのは25歳を超えると衰えていくそうだ。
つまり、それ以降は知識量は増えるし、応用力・知的能力こそ向上していくものの、人の単純な記憶力はどんどん衰えていくという訳である。
僕は今それを身をもって体験している。と言うのは、日本語の個人の生徒の識字教育に手を焼いているからである。
先日このブログでも紹介した警察官の生徒Lだが、なかなかどうしてひらがなを覚えてくれない。
例えば、「あ」の段の5つのひらがなを覚えたとする。次に「か」の段の5つのひらがなを覚える。そして、今度は「あ」と「か」の段の10のひらがなを一緒にテストすると、もう言い当てられなくなる。
今までこの方法によって、何百人もの生徒達にひらがなを覚えさせてきたが、Lさんにはこの方法が通用しない。
大学時代も含めれば、18年近くも日本語教育に携わってきている訳だが、そんな経験からくるプライドはズタズタに引き裂かれてしまっている。
何とか「あ」と「か」をクリアーして、「さ」の段に行くと、またもやそこで暗記に大苦戦してしまう。
Lさんは39歳。警察官と言っても、官公庁の内部組織を摘発・調査するような職務に就いており、かなり難関な国家試験をパスしているエリートである。つまり、頭はかなりいいはずなのだ。
そんなLさんなのにひらがなが覚えられない。
Lさんはロシア語も3年ほど勉強しており、先月は一ヶ月ほどロシアに語学留学していたと言い、将来日本にも奥さんと一緒に行ってみたいと夢を膨らませている。
Lさんにふざけている様子はもちろんない。授業中、集中力を高めて、真剣に覚えようとしている。しかし、覚えられない。
教えていて、何だか可哀想になってくるし、お金をもらって申し訳ない気もする。
Lさんは僕と同い年な訳だが、僕ももし新しい外国語を覚えようとしたら、同じような状況に陥るのかなと想像すると恐ろしくなる。
Lさんのほかにも、自動車関連の会社の社長であるエンジニアのWさんも識字教育に大苦戦中である。Wさんは49歳。若い時に海外に長年住んだ経験を持ち、英語もペラペラだという。
なのに、である。
また、5,6年前、企業相手に訴訟を通じて膨大な収入を稼いでいた弁護士に教えた時も、本当に苦労した。彼は確か20代後半であったが、それでも本当に飲み込みが悪かった。
生徒のその職業上における優秀さと語学に関するセンスの良さは全く関係ないのだなと思った次第である。
一方、最近13歳の生徒Lさんにも教え始めたが、彼は3回の授業でひらがなの読み書きを完璧に覚えてしまった。
「若い」って、本当に素晴らしい。
逆に言えば、もし何かで大成したいと思えば、それを始めるのは若ければ若いほどいいと言える。
だから、語学がある程度できるようになりたいと思ったら、やはり中学生くらいから始めたほうがいいのだ。
ただ、前述の大人の生徒達は、それぞれ警察官、エンジニア、弁護士として成功しており、彼らの収入は安定している。
収入が安定していれば、年齢がある程度いってからでも、趣味として語学は勉強できる。
僕らは人生において優先順位をはっきりした上で、生き抜く必要がある。
そう思わずにはいられない。
NYで同じく日本語教師の職についている
MSと言います。
いつもブラジルからの楽しい&考えさせられるブログを拝見しています。
いつもはコメントなど書かないんですが、今回のこの記事にすごく共感する部分があったので、コメントしてみました。
本当に、生徒本人の職業と、言語に関する能力は比例しないですよね。私の経験からだと、どちらかというとアーティスト系の人の方が事務系の人より日本語の覚え&上達は早いように思います。私も弁護士・会計士などには教えるのに苦労した経験があります。
これからも、ブログの更新、楽しみにしています。
個別のレッスンでしたら、
もし本人が読み書きを必要とせず、会話だけでいいと言うなら、
ひらがな習得を諦めるのも方法ではないでしょうか。
以前
「母語の発音に引きずられないよう、ローマ字ではなくひらがなを」
とおっしゃっていたがかと思いますが、
それを説明し、納得した上で、本人に選んでいただいてはいかがでしょうか。
複数名のレッスンでしたら統一しないとやりにくいですが、
お一人でしたらやり方を変えてみたら、お互いにすっきりするかも、と思いました!
コメントありがとうございます。
アーティスト系・事務系という違いはあまり考えたことはありませんでした。
やはり年齢はかなり影響する要素なのかなと思います。
コメントありがとうございます。
日本語を勉強したい学習者というのは、やはりひらがなやカタカナ、漢字に魅せられて勉強しています。
従って、暗記に苦労していても、本人はそれでもいいようです。
結局のところ、ブラジルの日本語教育というのは趣味・教養のレベルなんです。
まあ、本人が楽しんでいれば、それでいいのかもしれません。
いつも考えさせられる内容を発信してくださっていて、一人ふむふむとうなずきながら楽しく読ませて頂いております。
私はバイーアで日本語の個人レッスンをしているのですが(日本語教師のキャリアも資格もないのに…他に日本人があまりいないという理由で…)、同じように、ひらがなを覚える力と年齢の関係はとても大きいと実感してます。50代近い女性なんですが、ヤル気はおおいにあるのに、どうしても覚えられない。10代の子は簡単に覚えるのに。
彼女については、発音にも苦労してます。それはまたおいおいブログで書きたいと思いますが…。
今後ともいろいろと参考にさせて頂きます。いつも情報発信ありがとうございます!
管理人さんは、ブラジルの警察官、エンジニア、弁護士が頭が良いと言うような書き方をしていますが、本当にそうなのでしょうか?
数ヶ月前に郵便関係で問題があり、弁護士を雇った事があるのですが、弁護士としての能力が無い以前に、効率を考えるという事が全く出来ない人間でした。
なので1回で済む事を何度も繰り返したり、「明日やる」と言った事をやらなかったり……
結局、私自身が弁護士の仕事を全てこなしてしました。
それと、私は高校生の時に渡米し、6年ほどアメリカで暮らしていたので、英語が出来るのですが、「英語喋れるよ!」と言って来るブラジル人で、まともに英語をしゃべれた人は今まで1人だけでした。(高級車の展示会に居たディーラーさん)
この様に、ブラジルの方はとても誇張した表現をするので、こちら側が勘違いしてしまう事が良くあるのだと思います。
なので、日本語を覚えられないというのは、年齢のせいというのも大きいと思いますが、それだけではないと思います。
ちなみに、ブラジルの小学校で勉強する教科書の量は、全教科あわせて、一年でたったの1冊という学校もありますし、
私の友達で、14年間日本で生活していた日系人の方がいるのですが、「ブラジルで政治家になるより、日本で車の免許を取るほうが難しい」と言っていました。(その方は頑張って勉強したのですが、結局日本で免許は取れず、帰国後に簡単に取れたそうです)
そういった基準が日本とは全く違うので、弁護士=頭が良い というのは違うと思います。
それ以外にも、私は医療系の大学で勉強していたのですが、ブラジルの医学レベルの低さに、何度も驚かされています。
最後に、今回は批判的なコメントで申し訳ないのですが、私はブラジル人を嫌っている訳じゃないですし、むしろ、人としての暖かさや思いやりがあって、すごく良い人達だと思っています。 (もちろん悪い人もたくさん居ますが^^;
管理人さんも、語学を教えるというのは大変だと思いますが、かげながら応援していますので、これからも頑張ってください。
それでは失礼しました<(_ _)>
コメントありがとうございます。
確かに、ブラジル人はどんなに社会的地位が高い職業に就いていても、一般の日本人だったら当たり前の事をできない人がたくさんいます。
弁護士など、それこそピンキリで、単純な計算ができない人が多いです。
ただ、そうであっても、彼らは高給取りであったりします。
その辺がおおいに納得いきませんが、それが現実であることも確かです。
日本人・日本はどこか間違っているのかもしれないと思わずにはいられません。
私は、ネット上で小中学生のプリント教材を運営しているものです。
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