こんなに早くに、自分よりも先に来ていることなど、
かつてなかった。
講義もあるだろうに。
呼びかけに、やっと目を開く。
「待ちきれなくて、」
ひと声。
その響きに、疲れが読めた。
手を取ろうと差し出す。
「平気ですよ。」
気遣ったその手を取らない。
しかし、
その言葉通りに、
真に受けるほど、彼は鈍感ではない。
目をみつめる。
そらさせない。
「何も聞く前に自分から、平気という人に、
ホントに平気な人はいないもんだよ。」
頬を彼の手が触れる。
手に、
すぐ体温が伝わる。
熱い。
予想以上に。
「おい、」
「平気です、やらせて下さい。」
次の言葉をさえぎるように、すぐさま言葉を返す。
それを許すことは、彼には出来ない。
その靴、
その服、
見るほどに一晩中、ホームズは休まずに、
街中を歩いていた事が分かる。
昨夜、ずっと薬草を探し続けた。
それをすぐに見破られる。
夢中になりすぎるのも、問題ということだ。
「まず休む事が、お前には必要だ。」
逆らえない。
強い調子で言う。
観念したように目を閉じた。
同時に膝が崩れる。
「ホームズ!」
その体を支える。
強い意思で体を動かしていたのだろう。
それを絶たれ、昨夜からの疲れが体を襲い、
倒れこんでしまった。