
昨日、スーさんから名刺をいただいた。お会いした場所は、東京の二子玉川駅前の人通りの多い路上。
スーさんは、曇り空とはいえ暑い路上で雑誌を販売していた。スーさんは、いわゆるホームレスと言われる方である。住んでいるところは多摩川べりとのこと。
お会いしたきっかけは、東京に住んでいる私の長女の紹介。長女とスーさんとの出会いのいきさつは次のようなことであったらしい。
*** *** *** ***
(以下、彼女のブログからそのまま引用)
スーさんは、このビッグイシューを売っている販売員。
ちょっと前の私だったら、販売員の横を素通りしていただろう・・・。正直、汚いとか、ちょっと怖いと思うこともあった。
そんな私がビッグイシューに興味を持ったのは、ある一人のホームレスと出会ってから。(出会いって言っても立派なものじゃないよ、先を読めば分かるけど・・・)
職場近くのみずほ銀行前。
昨年10月頃から毎日、「彼」の姿を見かけていた。
真冬だというのにグレーのジャージ、穴の開いた靴下でサンダル履き。
彼はビニールの買い物袋ひとつを腕に通し、いつも定位置でうずくまっている。
年齢50歳位だろうか・・・髪の毛がグレーがかっているからそう思うが、身なりがきちんとしていたら、もっと若く見えるのかもしれない。
彼の目は大きく、いつもどこかをまっすぐに見据えており、何かを訴えているかのようだ。初めの頃に比べると、いささかその目の強さに影がかかってきたようにも思えるが、実際に話しかける勇気はなく、毎日素知らぬ顔で、ただ彼の脇を通り過ぎていた。
そして私はいつも考えていた。
この世の中は寄付やボランティアで溢れているのに、果たしてホームレスの人々に力を貸したいと思う人がどの位いるのだろうか、と。
駅前では、「○○の被災者に温かいご支援をお願いしまーす!!」と数人の人が募金を求めている。その呼びかけに応え、募金をしていく人がいる。
スイスで開かれたダボス会議では、女優シャロン・ストーンがアフリカのマラリア予防のために1万ドルを寄付した。会議には各国のビジネス界のリーダーも参加していたため、その後瞬時に100万ドルが集まったという。
日本はスマトラ沖地震の被災国に約525億円を援助(昨年12月)。
イタリアのベルルスコーニ首相も、被災者に7億円を寄付。
ビル・ゲイツ財団は発展途上国でのワクチン接種の普及運動に、765億円を寄付・・・。
こんなに寄付のニュースが流れているにもかかわらず、ホームレスに大金を援助しようと言った話は聞いた覚えがない。そこに私はなんだか違和感を感じてしまう。
困っている身内に目もくれず、会ったこともない人々には喜んでお金を差し出す・・・。そんな光景が、何か重大なものを見落としてしまっているような気持ちになるのだ。
寄付が悪いとか、ホームレスが可哀相とかそんなことを言うつもりではない。
でも、毎日見かける「彼」の横を通り過ぎるたび、本当にしなくてはいけないこと、彼らが本当に求めていることは何なのだろう・・・と考えていた。
そんな時に出会ったのがビッグイシューだった。
初めてスーさんからビッグイシューを買ったとき、スーさんはとっても恥ずかしそうだった。片手にビッグイシューを持って肩の辺りで掲げていたけど、通行人への呼びかけはなく、ただ黙って立っていた。
「一冊ください。」と言って200円を差し出したとき、スーさんは、とっても丁寧に両手で本を渡し、「ありがとうございます。」と深々とお礼をした。
2回目に会ったときは、「ビッグイシューです。」と声を出して通行人に呼びかけていた。ちょっと慣れてきたのかな?と想像しながら、また一冊買った。
そして3回目の昨日、スーさんは、ちょっと恥ずかしそうに、でもちょっと楽しそうに、「名刺つくったんですよー。」と私に名刺をくれた。それまで名前を聞くことがなかったので、昨日初めて、彼が「スーさん」だということを知った。
顔写真付きの名刺には、本名の上に、「愛称:スーさん 言葉:男気一本!」と書かれていた。
「スーさんっていうんですね。じゃぁ、これからはスーさんって呼ばせて頂きますね!」 そう言って本を受け取ると、スーさん、今度は「ぼくねー、この前、テレビに出たんですよ。見た?」と言う。
聞くと、5月24日に放送されたフジテレビのスーパーニュースで、「密着1020日!世田谷ホームレス“女神”に誓う再起と自立」という特集でテレビに出たらしい。
「あ~、残念、見なかった~」と言うと、
「ビデオある?ビデオデッキ。」と聞くスーさん。
「うん、ありますよ。」と答えると、
「じゃぁ、ビデオ貸してあげる。」と言って、番組を録画したビデオを貸してくれた。
最近は暑くなってきたから、お昼頃になると一旦店じまい。
日が暮れた夕方に再度店を開ける。
一日中立ちっぱなしで得られる収入は決して多くない。
それでも最近のスーさんは生き生きとして見える。
Syouくんは7月1日の土曜日、誕生から100日目を迎える。
こんなに可愛くて、素敵なベイビーを授かって、幸せいっぱいなんだから
ちょっと位、幸せのおすそわけをしないとバチがあたりそう。
明日、借りたビデオを返しに行こうと思う。
麦茶か、果物でも持っていってあげようか。
会えるかどうか分からないけれど、スーさんと会って話をするのが少々楽しみである。
*** *** *** ***
わが娘によれば、そのビデオをお返ししながら、弁当とお茶を届けるつもりとのこと。私としても、どのような雑誌か知りたかったこともあり、それに同行したという次第。
スーさんは、それはそれはとても素敵な笑顔でわが娘と会話しながら、私にも名刺をくれた。
「また、インタビューを受けたんだよ。」
「そう、それはすごい!!そのうちに“(販売員)今月の人”に載るね。楽しみ!!」
確かにそうだ。
私たちは、自分の身近なところには目をやらないで、遠くの方を思いやっては気の毒がったり、募金活動に協賛したりする。
“地球環境問題” に対する姿勢も同じ。身近な環境問題こそ地球環境問題の始まりなのに、自分の行動を変えようとしないで、世界の問題にすり替えていく。
自分の中にある“優しさ”がうずき、何か人助けをしなければと思ってしまう。
でも、“かかずらう”ことは嫌い。こうした気持ちの昇華が、自分に直結しないところでの善意の提供ということになっていくのであろう。
わが娘の行動に、とても重い課題を提示されてしまったと思っている。
ところで、このBIG ISSUEという仕組みは、とてもすばらしい。公式サイトの中で、その仕組みを次のように紹介している。
公式サイト ⇒ http://www.bigissuejapan.com/
“『ビッグイシュー』は英国で大成功し世界(28の国、55の都市・地域)に広がっている、ホームレスの人しか売り手になれない魅力的な雑誌のことです。ビッグイシューの使命はホームレスの人たちの救済(チャリティ)ではなく彼らの仕事をつくることにあります。
例えば大阪の野宿生活者の約8割は働いており、過半数の人は仕事をして自立したいと思っています。『ビッグイシュー日本版』は彼らが働くことで収入を得る機会を提供します。
具体的に、最初は一冊200円の雑誌を10冊無料で受け取り、この売り上げ2,000円を元手に、以後は定価の45%(90円)で仕入れた雑誌を販売、55%(110円)を販売者の収入とします。”
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たとえば、わが職場近くの公園にいるホームレスらしき方のことを想定してみよう。
その方は、毎日、公園内の池に大量に落ちる花びらや木の葉を網ですくって片付けてくれている。雪の朝ともなれば、勤務先に急ぐ人々のために雪かきをしてくれている。「ありがとうございます。」と声をかければ「どういたしまして!」とさわやかな返事が返ってくる。
いっそ、その方に公園の清掃管理をお願いしてはどうかと思ってしまう(ひょっとすると、仙台市ではそうしているのかもしれないが)。でも、このような方法では、仕事を求めている多くの方々との公平性は保てない。多分、役所のことだから、“一般競争入札”なんてやってしまうだろう。それも、知的サービスの提供でもないのだから、価格競争といったもので。
しかし、このビッグイシューはとてもよく計算された仕組みを持っている。意欲のある人は誰でも参加でき、しかも、発行者側もホームレスの方も経済的に成立する関係を作っているのだし、読者は読者で興味深い情報を得ることができるのだから。
さすがシビックトラストの国イギリスはすごい。人間の英知というもののすばらしさをつくづく認識させられてしまった。
このような仕組みで好循環を作り出しているものは、世界には数多くあるのだろう。私たちは、こうした先進事例のスピリットを学び、そして自分達の頭で新たな方策を生み出していかなければならないと思う。
スーさんは、今日も人混みの中に立ち、販売しているのだろうか。そういえば、昨日は、スーさんのすぐ脇で、ホットペッパー(フリー雑誌)の新刊を無料配布している若者2人がいたが・・・。スーさん、がんばってください。お元気で!!また、会いに行きます!!
(追記)
・上の写真はそのとき購入したもの。
・わが次女も、私たちとは離れて、スーさんから買っていた。この出会いを機会に、“優しい気持ち”をいつまでも大切にしたい、との思いからとのことであった。
・宮城県内のビッグイシュー販売場所
【仙台】ハピナ名掛丁入り口/一番丁買物公園ディズニーストア付近/サンモール一番町マ グドナルド付近/地下鉄長町南駅前ザ・モール仙台長町交差点付近/JR仙台駅西口コナ カ前陸橋階段下/マーブルロードおおまち入り口佐々重前/一番町入り口141ビル前/仙 台駅東口/仙台ホテル前/コナカ前
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