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旅する心-やまぼうし

やまぼうし(ヤマボウシ)→山法師→行雲流水。そんなことからの由無し語りです。

清々しさと神々しさ~みはるかす栗駒の野辺に

2006-02-27 04:22:28 | 地域魅力


何事のおはしますをば知らねども辱(かたじけな)さに涙こぼるる

 西行法師が伊勢神宮に参拝したときに詠んだ和歌である。この和歌を竹田廣次日本EC研究所理事長から教えられたとき、胸の奥深いところで熱く疼くもの覚えた。時に、1996年3月の夕まぐれ。ハイマンタスホテル(山形県長井市)の専用応接室から眺める雪をいただいた朝日連峰の山並みには夕日が輝き、長井の街はその光のなかに静かに美しくあった。

  竹田さんにお目にかかることができたことは、私にとってとても刺激的で、かつ光栄なことであった。竹田さんとの会話を通じて、「物事を考えるとはこういうことなのだ」とつくづく教えられた気がする。

 先の和歌がでてきたのは、「将来の宮城県の姿として望みたいものは」という質問に対する回答であった。

「ぜひ宮城には、神道にあったような神々しさ、恭(うやうや)しさ、清々しさがにじ滲み出るようになってほしい」。 それが竹田さんの言葉であった。そこには、「山形県や長井、そしてわれらは宮城県とは違うぞ」という思いが込められていた。

 東北地方の雄を標榜しながら、宮城県の行政も企業人も、はたまた県民も功利主義から抜け出せないでいると自嘲までしたくなるような今の姿に照らすと、竹田さんの言葉は痛く心にしみとおった。同席していたYさんの言葉のごとく、竹田さんが奥需開発(深く地域のニーズをとらえ、真の地域経営をすべし)というコンセプトのもとにその熱意を傾ける長井の街が、その姿を代弁しているかのようでもあった。

 確かに、太平洋側で気候にもまあまあ恵まれ、広く肥沃な平野部を有する宮城県の地は、古来みちのくの中央政府の要衝として、政治、経済の拠点であった。しかし、そこには人々の心に沁みわたるような清々しさや神々しさというものを醸成するだけの営みがあっただろうか。

 山形県は、鳥海山、月山、羽黒山に代表される修験の地。かつて繰り広げられた深い精神世界というものを、今の世であっても、それぞれの地に住まう人々の心に宿している。過酷な暮らし、それだからこそより高い、より深い思索の何世紀にもわたる積み重ねがあったとは言えないだろうか。そういう思いが、私にはした。

 以来、「地域はまず美しくなければならない。住む人々の誇りを育てるものでなければならない」と、強く思う。経済的、物質的豊かさへの追求を否定するものではないが、真に大事にすべきはその地に住む人間の誇りを醸成する取組である。そのことによってこそ、余所(よそ)にはない魅力ある地として開花するはずなのだ。

 時雨ふる故郷の田舎道をひとりで車を走らせていたときのことであった。正面に見えるはずの紅葉した栗駒山も、想像するしかなかった。国道4号から熊川に沿って左折。細くくねった県道に入る。ほんの400~500メートルの道沿いに数個の集落。しかし、「根岸花街道」という素朴な作りの標識が目に飛び込んできたとき、けっして主要な交通路とは言えないその道で、通りすがりの人々を住民一人ひとりが大切に思い、その心を伝えようとしている姿に思いが行く。「地域はこのような人々で営まれてこそ、本当の住処(すみか)なのだ」心からそう思った。

 そして、尾松から鶯沢へ。その道もまた、道ばたのドウダンツツジの列植がすっかり紅く色づいていた。西北には雨に煙る栗駒山の稜線が連続する奥羽の山並み。それに向かって広がる刈り取り後の水田、稲株の列々。草紅葉(くさもみじ)の畦(あぜ)の道。杉木立や赤松の“いぐね”に囲まれた家々。それは、なんと美しい景観を形づくっていることか。

 生まれた地を去り、今年で30年。ここ何年も両親の墓参りに行かずに過ごしてきた自分。長年の過酷な労働がたたり、体が不自由になったと風の便りに聞く兄夫婦。栗駒山の山懐に抱かれて、荒廃が進むその山の行く末を案じつつ暮らす叔父夫婦。彼らがそこで暮らせるのは、生きることに追われる毎日とはいえ、ひとえに地域に根ざし、守り、日々を形作る方々の努力があるからである。都市的利便性を享受することに甘えてきた自分としては、ただただ頭が下がる。

 清々しさも神々しさも、都市的利便性の追求の中から導き出されるものではない。都市文明とは別次元のものだ。それは、自然と向き合い、畏敬し、ぎりぎりの妥協を重ねながら累々と積み上げてきた風土そのものなのだ。そうした確かな思いがわき上がってきたとき、西行法師の和歌と長井の街にかける竹田さんの心が、理解できるように思えた。

   「今日の栗駒山」へのリンク    http://homepage1.nifty.com/kurikoma/


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