覚えていること。
ラスト30秒。
コーナーで中島会長が檄を飛ばしてくれている。
言葉は聞こえないけど、
声のトーンでわかった。
手は出ても、
足が出ない。
追えない。
めいっぱい、
声を出してくれている。
動かなくちゃ。
追わなきゃ。
当てなきゃ。
頭の中は、
苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
それだけだった。
振り絞った。
終 . . . 本文を読む
覚えていること。
3R目のゴングがなった。
力のかけらも残ってなかった。
息継ぎの下手なクロールのようだったと思う。
もがきながら
パンチを打った。
打っても、
打っても、
ひたすら打った。
相手が打とうとする暇を与えたくなかった。
相手が打とうとする間に、
また次のパンチを打った。
当たろうが、
当たらまいが、
おかまいなしに打った。
自分のパンチも
その瞬間全てがスロ . . . 本文を読む
覚えていること。
リングの明かりがまぶしかった。
中島会長が、
俺の顔を両手で持つように、
真っ直ぐに添えて、
こう言った。
中島会長の目が
真っ直ぐ俺を見た。
その目をみつめながら
うなずいた。
俺は「はい」と言った。
中島会長は
力強い言葉で
「最後ですよ!!」
「勝負ですよ!!」
そう言った。
その言葉を聞いて勇気付けられた。
まだ負けてなかったん . . . 本文を読む
覚えていること。
2Rが終わった。
コーナーに帰った。
椅子に腰掛けた。
口をゆすぐ時、
呼吸が苦しくて、
「ゆすぐ」こと自体が苦しかった。
苦しくて、
ゆすいだ水を吐き出した。
回りの音は何も聞こえない。
自分の荒れた呼吸だけが聞こえた。
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覚えていること。
2R目。
思ったより足が重い。
入ろうとした瞬間に
カウンターをもらった。
緊張してたから、
痛みは感じなかったけど
衝撃は覚えている。
何発か、
立て続けにもらった気がする。
ゴンゴンゴンッ、
音が聞こえた。
何発かもらうたびに
相手選手の応援側から喝采がおこる。
不思議と、
それだけは良く聞こえた。
大きな声が聞こえた。
何となく、
俺 . . . 本文を読む
覚えていること。
1R終わって
コーナーに帰った。
帰ることが出来た。
既に息があがっていた。
椅子に座った。
口をゆすいだ。
何か、
中島会長が言っていたような気がした。
あっと言う間にセコンドアウトとなって、
2Rのゴングが鳴った。
椅子から立ち上がった。
またリング中央へ向かった。
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覚えていること。
ひたすら愚直に前に出た。
ときおり長いリーチで打たれて
あごがあがった気がする。
それでも
手を出し続けて、
足を前に踏み続けた。
一歩。
一歩。
とにかく前に向かったよ。
. . . 本文を読む
覚えていること。
打たれてわかった事が3つ。
対戦相手のジャブは確実に自分より「早い」事。
そして。
相手の距離は自分より「遠い」事。
入らなかったら最後まで打たれるだけと言う事。
最初のジャブだけで結論を出した。
がむしゃらに前に出ようと。
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覚えていること。
対戦相手と向かい合った。
両グローブでお互いにタッチした。
距離が縮まった。
どんなふうに動こうかと思った矢先、
パンッ!!
相手のジャブが当たった。
全く、
その瞬間が見えなかった。
打たれた後の感触しか残ってなかった。
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