☆第105話『さようなら、高杉刑事!』
(1979.4.4.OA/脚本=長坂秀佳/監督=天野利彦)
警視庁・特命捜査課の高杉刑事(西田敏行)は、雨の日の夜、ガード下に佇む厚化粧の少女(森下愛子)を見かけ、ただならぬ雰囲気を感じて自宅に送って行こうとするんだけど、少女売春取締り中の所轄刑事らに買春男と勘違いされ、連行されちゃいます。
ユカというその少女が、なぜか高杉に売春を持ち掛けたと嘘をつくもんだから、事態はますます混迷。そんな折りに殺人事件発生の一報が入り、被害者がユカの母親(有田麻里)であることが判明します。
自宅における現場検証に立ち会っても何も語らないユカが、出張先から駆けつけた父親の顔を見たとたん「母を殺したのは私です」と自供。
状況的に見てもユカが犯人である疑いが濃いんだけど、高杉は「違う」と直感します。母親の死亡を知った時のユカの反応を、高杉は間近で見てました。
「本当のホシだったらね、あんな反応はしないんだ」
最初にガード下で会った時から、ユカの様子はおかしかった。明らかに手慣れてない厚化粧で、やってもいない売春を自白する等、彼女は何か精神的なショックを受けた直後で、捨て鉢になっていたんだと高杉は推察します。
「だけどね、そういうのはズルい事なんだよ。自分を苛めて、悲劇の主人公にするっていうのは、卑怯なんだ」
ところが、撲殺に使われた陶器にはユカの指紋が付着しており、母親と口論する声が聴こえたという近隣住民の証言もあり、所轄の刑事たちは容疑を固めつつある。それでも何も言わないユカに、高杉は焦燥します。
「ユカちゃん、あんた一体、誰を庇ってるんだ?」
「誰も庇ってなんかいません」
「俺は絶対信じないからな。ユカちゃんの無実を証明してみせるから、俺が!」
高杉の勘を信じた特命課の刑事たちは、現場に落ちていた一粒のダイヤモンドを手掛かりに、被害者が宝石密輸に関わっていた可能性を見いだし、彼女はその組織の人間に殺されたと睨みます。
実に都合の良い事に、ちょうどその宝石密輸ルートを摘発する為に、桜井刑事(藤岡 弘)が潜入捜査を既に開始していた!
「出所間近な麻薬密輸犯」を装って刑務所にいた桜井は、素晴らしくグッドなタイミングで宝石密売犯の1人と接触し、まんまと宝石取引の代行を引き受けるのでした。このチョー強引な展開、笑っちゃう程のご都合主義も『特捜最前線』の魅力なんですよねw
一方、高杉は執念の捜査により、昨夜、加害者が若い男と激しく抱き合ってる現場を、家政婦(佐々木すみ江)が目撃していたことを突き止めます。そして、同じ光景をユカが見てしまった事も……
その男の顔を家政婦は見ていないけど、ユカがいた場所からは見えた筈。恐らくそいつが真犯人なのに、ユカは尊敬する母親の不倫を認めたくなくて、その事実を胸の内に封印しようとしてる。
「私が殺したのよ! あんなにいいお母さんを私が殺したのよ!!」
そうして主張を曲げないユカの頬を、高杉が叩きます。
「子供みたいに駄々こねるんじゃない!」
高杉は、東北の農家で8人兄弟の三男坊として生まれ、幼い頃から働きづめの兄弟たちが、刑事になりたいという高杉の夢を叶えてやるべく、無理をして上京させてくれた生い立ちをユカに話します。
「別に自慢して言ってるんじゃねえんだぞ。もっと自分を大事に生きろって言ってんだ。もっと自分を大切にしろって言ってんだ」
さらに高杉は、ユカが化粧嫌いであることを友人たちから聞き込み、ユカが化粧品を買った店までも調べ上げていた。
昨夜、その店で口紅とアイシャドウを買い、その場で化粧したユカの行動を、高杉が自分で再現して見せます。
「あんた、自分の母親の嫌なとこを見た。不潔な母親の子供であることが我慢ならなかった。だから自分も不潔になろうとした!」
高杉は口紅とアイシャドウを塗りたくった顔でw、真剣にユカの心理を読み解きます。
「自分で見てどうだ? カッコいいか!? 昨日は夜のオンナの役、今日は母親殺しの罪を被る哀れな娘の役か? ガッチリと受け止めらんねえのかよ!? 母親がなんだ!? 母親が他の男と抱き合ってるのがなんだ!? そんな事が、殺人の罪を被るほど大変な事なのか!」
台詞のシリアスさと、厚化粧した西田さんの顔とのギャップが凄まじくw、このコメディすれすれのチョー泥臭い演出もまた、『特捜最前線』ならではの魅力です。
しかし高杉の熱意も虚しく、ユカは主張を曲げません。高杉のいない所で、特命課の刑事たちも必死に説得を試みますが……
「どんな人ですか? 奥さん……高杉さんの」
「はあ? あのねえ、高杉は今、キミの為に危険を冒して飛び回ってるんだよ!」
「危険?」
高杉がユカの無実を証明する為に動けば動くほど、真犯人に狙われる可能性が高くなる。しかも高杉は、今週いっぱいで所轄署の係長に栄転することが内定してたのでした。
「高杉さんは、自分の出世をフイにしかねないことを承知で、キミの為に突っ走ってるんだ!」
「………母と一緒にいたのは………」
ついにユカは、母親と抱き合ってた男が、若い叔父の上月であることを告白します。
それを聞いた高杉は単独で上月を逮捕に向かい、返り討ちに遭って足を負傷します。それで取り逃がしちゃうんだけど、高杉は重要な事実を上月から聞き出してました。
「ユカちゃん! 母さんね、ユカちゃんの母さんね、抱き合ってたんじゃなかったんだ! 運び屋だってね、何も知らずにやらされてたんだ!」
ユカの母は宝石密輸に利用されてたことに気づき、張本人の上月を問い詰め、警察に通報しようとして彼と揉み合いになった。その様子が、何も事情を知らないユカと家政婦には抱き合ってるように見えたワケです。
「お母さん、立派な人だったんだよ。良かったねユカちゃん。良かったね!」
だけど上月を取り逃がしたのは痛かった。彼は速攻で組織に消されてしまい、肝心の母親殺しの真犯人は不明のまま。頼みの綱は出所した潜入捜査の鬼=桜井刑事のみ!
獄中で宝石取引の代行を依頼された桜井は、密輸の主犯にして母親殺害の真犯人=ユカの家庭教師との接触に成功。負傷した高杉も駆けつけ、密輸組織の連中もろとも、ついに逮捕するのでした。
この時、逃げようとする組織の車に飛びつき、そのまま運転手を窓から引きずり出す桜井=藤岡弘さんの、捨て身かつスピーディーなアクションがまた、ド迫力! このダイナミズムも『特捜最前線』の大きな魅力です。
さて、事件が解決し、無事に栄転も決まり、高杉が特命課を去ろうというその日に、ユカからの手紙が届きます。
その手紙には、特命課全員に対する感謝の気持ちと、父親の海外転勤について行くことを決めた、その理由が綴られてました。
『日本にいるのがツラくなったからです。私は、ある人を好きになってしまいました。こんな気持ちは初めてです。でも、それは許されない事なのです。その方は、私の気持ちを知りません。そして、その方は、妻子のある方だったんです』
「あらら、まずいね、それ」
その妻子ある男に腹を立てる高杉ですが、他の刑事たちは皆、それが高杉の事であると理解するのでした。
まだ少女であるユカが、なんでイケメンには程遠い中年男の高杉に恋をしてしまったのか、その理由は言うまでもありません。私が女でも惚れちゃうと思いますw
『特捜最前線』の第1話から出演されてた西田敏行さんですが、売れっ子になり過ぎて2年目からは欠場する回が増え、ケジメをつけるべく今回で降板となりました。
劇中で高杉が同僚たちに「またどうせ、すぐ会えますから」って繰り返し言ってるのは、西田さんがまた番組に復帰すること前提の降板だったから。でも、実際は第351話のゲスト出演のみで終わっちゃいました。
ヒロインのユカに扮した森下愛子さんは、当時21歳。'77年に女優デビューし、翌年の映画『サード』で早くもヌード&濡れ場を披露。このレベルの女優さんが10代で当たり前のように脱いじゃう、本当に素晴らしい時代でした。
'79年は『明日の刑事』『太陽にほえろ!』そしてこの『特捜最前線』と、刑事ドラマへのゲスト出演が続きました。'81年の『探偵同盟』ではレギュラーを務め、ヒロインとしてボンボン刑事=宮内淳さんと共演されてます。
そして'86年に吉田拓郎さんと結婚。一時期は芸能活動を休止されたものの、'99年に復帰。現在も活躍中で、宮藤官九郎さんのドラマ等にレギュラー出演されてます。
本当に、いくつになっても可愛い人です。