ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『あさひが丘の大統領』1979~1980

2018-10-31 12:00:25 | 探偵・青春・アクションドラマ









 
今こんな番組を取り上げて誰が喜ぶねん?って言われるかも知れないけど、私が喜ぶから良いのですw いや、楽しみにして観ておられた方も、きっとおられる筈です。

1979年10月から’80年9月迄の1年弱、日本テレビ系列で水曜夜8時に放映された学園ドラマです。殉職という形で『太陽にほえろ!』を卒業したばかりのボンボン刑事=宮内 淳さんの初主演ドラマでもあります。

そして本作は日テレ伝統の「青春シリーズ」最終作で、フィルム撮影による学園ドラマとしても恐らく最後の作品だろうと思います。

青春シリーズってのは夏木陽介主演『青春とはなんだ』に始まり、竜 雷太『これが青春だ!』、浜畑賢吉『進め!青春』、村野武憲『飛び出せ!青春』、中村雅俊『われら青春!』そして『青春ド真ん中!』『ゆうひが丘の総理大臣』へと続いて来た、『太陽にほえろ!』と同じ岡田晋吉プロデューサーの製作によるドラマ群を指します。

同じく岡田プロデューサーの手による森田健作主演『俺は男だ!』や、松田優作『俺たちの勲章』、中村雅俊『俺たちの旅』、勝野 洋『俺たちの朝』等の「俺たちシリーズ」も、この「青春シリーズ」のカテゴリーに入るかと思います。

昭和後期に幼少から青春期を過ごされた方なら、上記の番組の内1つも観た事が無いという事は、まず無いんじゃないでしょうか? 好き嫌いは別にして……

そう、警察官をヒーローとして描く刑事ドラマが嫌いな方がいるように、教師がヒーロー的な存在として描かれる青春ドラマを観て「けっ!」と思ってた視聴者も少なくないかも知れません。

私は好きでした。別に警察は好きじゃないけど刑事ドラマは大好きなのと同じで、学校も先生も全然好きじゃないけど、ドラマはドラマとして切り離して楽しんでました。

夏木さんや竜さんの頃は私もまだ赤ちゃんですからw、再放送もされないし一度も観たこと無いんだけど、村野さん、雅俊さん、健作さんのは(主に再放送で)よく観てました。

やっぱり生みの親が『太陽にほえろ!』と同じ人ですから、描かれる人物像とか道徳観がとても近いんですよね。プロデューサーの名前なんか当時は知らなくても、感じるものは一緒だったんだろうと思います。

共通のキャストも多くて、松田優作さんは本来『われら青春!』の先生役でデビューする予定が『太陽』のジーパン刑事役に変更、その優作さんの紹介によって雅俊さんが先生役に抜擢された、みたいな裏話も枚挙に暇ありません。

夏木さんや竜さんの時代は先生が人格者として描かれ、英雄視されても決してウソ臭くなかったワケですが、時代が進むにつれて先生という存在が身近なものになり、悪く言えばどんどん価値が下がっちゃった。

だから、私が観てた村野さんや雅俊さんの時代は先生自身も未熟者で、失敗を重ねながら生徒達と一緒に成長して行くという、二重構造の青春が描かれてたように思います。

で、いよいよ『ゆうひが丘の総理大臣』まで来ると、もはや生徒達が先生に対してタメ口ですからね。確かに、同時代に学生だった私の身の周りでも、先生に対する畏怖とか敬意は無くなりつつありました。

そんな世の中をドラマが反映したのか、逆にドラマが世の中を変えてしまったのか、とにかく先生がヒーロー然として描かれると嘘っぽく見えちゃう時代になったワケです。

『ゆうひが丘~』のソーリ(中村雅俊)は型破りな先生で、ヒーロー然とした伝統的教師像を自ら破壊するようなキャラクターでしたが、その続編となる『あさひが丘の大統領』の主人公=大西 元(宮内 淳)は更に破天荒でした。

なにしろ徒名が「ハンソク」で、規則に縛られるのが大嫌いな不良学生がそのまま大人になっちゃった人物なんです。

例えば男子生徒達を引き連れて女子のシャワールームを覗きに行ったり、他校の生徒達と殴り合いの喧嘩をしたり等、生徒がどんなにグレようがこの先生よりはマシという始末w

そこまで行っちゃうともう、主人公が教師である意味すら無くなっちゃう気もしますが、そんなハンソク先生を厳しく諫め、昔ながらの質実剛健な理想教育を目指して奮闘するのが、当時20歳の片平なぎさ扮する「タックル」こと今井涼子先生でした。

あくまで教師として真剣に生徒と向き合い、正しい道へと導こうとするタックル先生だけど、それは時に理想の押しつけにもなり、生徒が背負う現実とはズレてたりする。生徒と同じレベルだからこそ生徒の気持ちがよく解るwハンソク先生には、それが我慢ならない。

この両者の激しいぶつかり合いを軸に描いて、一見ハチャメチャなお笑いドラマなんだけど、実は教師と生徒の関係が大きく変わりつつある時代の中で、教育はどうあるべきか?を懸命に模索してたドラマ……なのかも知れません。

だけど、表面的な悪フザケの部分ばかりが目立ってしまい、一般的な作品評価は低かったみたいです。全36話って事は3クール分の話数で、恐らく予定より1クール早い終了だったんじゃないでしょうか。

真意が視聴者に伝わらなかったとすれば、そこはやっぱ作劇として失敗だったと言わざるを得ないけど、それより何より「青春シリーズ」で描かれる楽しい学校生活が、もはや現実とあまりにかけ離れてたのかも知れません。

その一方で、同時期に放映スタートして大ヒットしたのが、あの『3年B組金八先生』(TBS)ですからね! 作品としてどちらが優れてるかの問題じゃなくて、たまたま時代の流れに上手く乗れたのが『金八』だった。それだけの話だろうと私は思います。

『金八』の放映は金曜夜8時って事で、裏番組の『太陽にほえろ!』を一時期は存続の危機にまで追い詰めましたからね。しかも学園ドラマ対決で『あさひが丘~』を完膚なきまでに叩きのめした形ですから、私は『金八』を恨みましたよマジでw

従って『金八』でブレイクしたトシちゃんだのマッチだのは許せなかったし、だから今でも若いイケメンが大嫌いなワケですよ!w いや、彼らに罪は無い。時代の変化、引いては日本人の心変わりを私は恨みます。

それは半分ほどジョークだとしても、やっぱ『あさひが丘の大統領』って作品はどうも過小評価されてると、私は今でも思ってます。ちゃんと観たらとても面白いドラマですから、機会があれば是非とも観て頂きたいです。(CSとかBSでちょこちょこ放映されてます)

教師役は他に宍戸 錠、秋野太作、金沢 碧、谷 隼人、樹木希林、由利 徹、高城淳一etc、警備員役に名古屋 章、横谷雄二。

生徒役は青春シリーズの顔だった井上純一&藤谷美和子の他、岡村清太郎、長谷川 諭、大村波彦、北村優子、上田美恵、壇まゆみといった面々。

また、下川辰平(長さん)や木之元 亮(ロッキー)がゲストとして登場、宮内さんの独り立ちを支援されてました。特に木之元さんは刑事役でロッキーそのまんま。ボンとのコンビ復活がメディアで話題になりました。

宮内さんはコメディ演技に磨きがかかってたし、根っからの実直さや情熱がストレートに伝わって来る20歳の片平さんも光ってます。

青春シリーズ後期の顔・井上純一さん最後の学生役も見所だし、何と言っても当時が旬だった藤谷美和子さんのキュートさは絶品です。テニス部なんでピチピチの生脚も拝めます。

メインライターは鎌田敏夫さん、音楽は木森敏之さんで、主題歌「新しい空」は吉田拓郎さんの作曲です。

主題歌と言えば、青春シリーズはどれも主題歌がホントに素晴らしかった! 「太陽がくれた季節」「帰らざる日のために」「さらば涙と言おう」「俺たちの旅」「時代遅れの恋人たち」etc……

久々にカラオケに行きたくなって来ましたw
 
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『太陽にほえろ!』1978~1979

2018-10-31 00:00:05 | 刑事ドラマ HISTORY









 
私がずっと応援して来た若手刑事=ボン(宮内 淳)のラストイヤーがやって来ました。普段にも増して視聴に熱が入った、とても思い出深いシーズンです。


#310 再会

ゴリさん(竜 雷太)が、第200回記念作で別離したかつての婚約者・道代(武原英子)と、七夕の夜に放送されたこの回で2年ぶりに再会します。

道代は既に結婚しており、ゴリさんは事件捜査の為に、彼女が夫と暮らす団地を張り込まなければならない……という辛いシチュエーション。

新米刑事ロッキー(木之元 亮)も登場から2年目に入って落ち着いて来た事もあり、『太陽にほえろ!』はベテラン刑事達の哀愁を描く事に、より力を注ぐようになって来ました。

そうなるとアクティブな描写は少なくなるしトーンも暗くなっちゃうしで、当時まだまだガキンチョの中学生だった私にとっては、あまり喜ばしい傾向とは言えませんでした。


#312 凶器

そんな若いファンのフラストレーションを感知されてたのか、ボス=石原裕次郎さんが「いっちょ派手なアクション物でもやろうや」と自ら提案されて製作されたのが、このエピソード。

空手で人殺しをするリーサル・ウェポン(人間凶器)な凶悪犯と、丸腰のボスが10分以上にも及ぶガチンコの死闘を繰り広げます。

当時から既に健康状態が芳しくなかった裕次郎さんですが、サポーターやマット等の防具を一切使わず、ハードな格闘アクションを全部ご自身でこなされたそうです。

ボスと対決する人間凶器を演じたのは、世界的アクションスターである千葉真一さん!……ではなく、その弟=矢吹二朗さん。


#322 誤射

銀行に立てこもる強盗犯と銃撃戦になり、長さん(下川辰平)の撃った弾丸が人質に命中し、重傷を負わせちゃう。なぜか長さんにはそういう、刑事を辞めたくなるような試練にぶち当たる、辛いエピソードが多いのでした。

この回をもって、七曲署捜査一係室のマスコットガール=アッコ(木村理恵)が番組を卒業する事になりました。ボンとほぼ同時期の加入でしたから、約3年もの間むさ苦しい刑事部屋に可憐な花を添えてくれたワケですね。


#323 愛は何処へ #324 愛よさらば

日テレ開局25周年の記念作品で、北海道ロケ編です。ゲストは当時歌手として人気だった清水健太郎さん。後のスニーカー刑事=山下真司さんもテスト出演で少し顔を出してます。

ボンのガールフレンド(純アリス)が健太郎に拉致されたと思いきや実は幼なじみで、ボンは決して悪い奴じゃない健太郎を射殺しなくちゃいけないシチュエーションにぶち当たります。

歴代の新人刑事はそこで射殺を経験し、傷つきながらも成長するんだけど、根っから優しいボンは撃てなかった。代わりにボスが、上空のヘリコプターからリボルバー拳銃で数百メートル先にいる健太郎の心臓を1発で撃ち抜くというw、石原裕次郎にしか許されない神技を披露します。

本来、この辺りでボンは殉職する予定だったそうです。登場から丸3年、ボンもロッキーの先輩になってすっかり頼もしく成長し、俳優・宮内淳の人気も絶頂期にありましたから、『太陽』を卒業して独り立ちする条件は全て揃ってました。

だけど、テキサスの時と同じように助命嘆願の投書が殺到したのと、番組をより大人向けにシフトしようという時期だったせいもあるのでしょう。殉職は回避され、ボンはもう1年残留する事になったのでした。

もちろん、ボンのファンとしては願ってもない事で、嬉しかったです。とても嬉しいんだけど、私が欲してた刺激とか新鮮味は、これでまた遠のいちゃいました。

『太陽』の長い歴史の中で、2年間もメンバーチェンジが無かったのは、唯一このボン&ロッキー時代だけです。せめてオープニングのタイトルバックだけでも一新して欲しかったけど、これも2年間不動でしたからね。

自信があったんでしょうか? 別に目先を変えなくたって、今の『太陽』人気が揺らぐ事は無いだろうって。この自信と安定志向、守りの姿勢が、果たして吉と出るか凶と出るか? しっぺ返しはもうちょい先、ボンの殉職後にやって来る事になります。


#325 波止場

ボンが死なない替わりにってワケじゃないでしょうが、この回から4代目にして最後のマスコットガール「ナーコ」こと松原直子(友 直子)が登場します。

なんと今回は一般公募によるオーディションで、選ばれた友直子さんは当時現役の高校生。まさか合格するとは夢にも思わず、学校に出演許可をもらうのに四苦八苦されたそうですw

なお、他の番組ではとっくに使用されてた覆面パトカー用の着脱式パトライトが、ようやく七曲署でもこの辺りから使われるようになりました。


#335 ある結末

殿下(小野寺 昭)の身代わりで重傷を負い、半身不随になった婚約者・三好恵子(香野百合子)が手術&治療の為にアメリカへと旅立ちます。

当初は2人を結婚させるプランもあったそうですが、女性ファン達から「私の殿下を結婚させないで!」との嘆願書(というより脅迫状)が殺到したお陰もあって、やっぱり七曲署の刑事は幸せになれないのでした。

全5作に及ぶ殿下の悲恋ストーリーを執筆されたのは、畑嶺明さん。後に殿下=小野寺昭主演の人気ドラマ『毎度おさわがせします』を手掛けられ、無名のアイドルだった中山美穂をブレイクさせる事になります。


☆1979年

この年は『太陽』スタッフによる探偵物で沖雅也主演の『俺たちは天使だ!』(日テレ)を筆頭に、水谷豊の『熱中時代/刑事編』(日テレ)、国広富之&松崎しげるの『噂の刑事トミーとマツ』(TBS)、石原プロの『西部警察』(テレ朝)、そして松田優作の『探偵物語』(日テレ) といったアクションドラマが創られ、人気を博しました。

それらほとんどの作品が軽妙酒脱なコメディータッチで、TVドラマの作風が大きく変わっていく’80年代の到来を予感させるものでした。ところが『太陽』は時代の流れに逆行するかのように、内容がどんどんシリアスになって行きます。


#339 暴発

そんな中でボン&ロッキーのコンビが活躍する回だけは明るく軽妙で、宮内淳さんは「ほんと俺達の回だけ中身が無いんだよな」とボヤかれてましたがw、私にとってはオアシスでした。

ゲストは当時デビューして間もなかった森下愛子さん。内容的には突出した回じゃないんだけど、最高にキュートな森下さんの魅力により、強く記憶に残るエピソードとなりました。

森下さんは後にセントラルアーツ製作のドラマ『探偵同盟』(フジ) のヒロインとして、宮内さんと再共演される事になります。

なお、横浜ロケ編でもある本エピソードを執筆されたのは、数多くのアクションドラマを手掛けておられる柏原寛司さん。この方が脚本を書くと、必ず横浜が舞台になるというジンクスがありますw


#325 ボン・絶体絶命

和製チャールズ・ブロンソンこと佐藤 允さん扮する警備員が、スーパーに押し入った強盗犯を殺しちゃう。正当防衛かと思いきや、実はマッドな殺人マシーンだったブロンソンが、ボンに襲いかかります。

いよいよボンの殉職が正式にアナウンスされ、この回に続いて#356『制服を狙え』#360『ボンは泣かない』と、月1本のペースでボン最後の活躍が描かれました。


#355 ボス

『青春』シリーズや『俺たち』シリーズのメインライターである鎌田敏夫さんは『ジーパン刑事登場!』から『太陽』に参加され、特に裕次郎さんの大ファンという事でボス編を数多く手掛けておられます。

そんな中でも、そのものズバリなタイトルである『ボス』は最高傑作と言われており、後に多くの刑事ドラマで模倣されたりもしました。

既に死刑が決まってる囚人が、実は共犯者として刑務所に入ってる男は無実だから釈放してやってくれ、とボスに訴える。もう何年も前に他の署で解決した事件であり、もし囚人の言う通りだとすれば冤罪を暴く事になってしまう。

そんな事をすれば警察組織はおろか検察や裁判所まで敵に回し、ボスの出世は絶望的になっちゃう。それでも、無実の人間が刑に服してるのを見過ごせないボスは、休暇を取って1人で捜査する。

そんなボスの刑事魂にも心打たれるし、こっそり捜査に協力する一係メンバー達との絆にも泣かされます。

特にラスト、自分が出世しないままじゃ部下も出世出来ないと嘆くボスに、「出世したけりゃ、ボスなんかとっくに追い越してますよ」なんて言っちゃう山さん(露口 茂)との、何年もつき合ってる仲間どうしならではの会話が最高でした。


#358 愛の暴走

看護婦を人質に取ってタンクローリーを暴走させる若者(中西良太)を追うロッキー。白衣姿がやけにエロチックな看護婦を演じたのは、当時19歳の石田えりさん。

翌週のゴリさん編『ジョギング・コース』には、やはり当時19歳だった岸本加世子さんがゲスト出演されました。


#362 デイト・ヨコハマ

この直後に松田優作主演ドラマ『探偵物語』のレギュラーに抜擢される、ナンシー・チェニーをゲストに迎えた横浜ロケ編。脚本はもちろん柏原寛司さんw(小川英さんとの共作)

本作でロッキーと早瀬令子(長谷直美)の偽装デートが描かれており、後に結婚へと繋がる伏線とも取れますが、当時はまだ2人をくっつけるプランは無かったみたいです。

この回は殉職直前のエピソードって事で、助演のボンも大活躍しました。そして、ジーパン殉職の時と同じように、ボンの真っ白なジャケットが真っ赤な血の色に染まる、次週予告の映像。それを観て私は、胸が締めつけられる想いでした。


#363 13日金曜日・ボン最期の日

そして、ついに… 私は万感の想いでその日を迎えました。7月13日、マカロニと同じ日にボンが殉職。「決して美人じゃない女性をかばって死にたい」という宮内さんのリクエストにより、根岸季衣さんがキャスティングされましたw

撃たれて致命傷を負ったボンが、同じく傷ついた根岸さんの為に助けを呼ぶべく、数百メートル離れた電話ボックスまで這っていく姿に、今観ても涙が止まりません。スマホで済んじゃう現在では成立しない作劇です。

4年間も親しまれたボンの殉職は、テキサス(勝野 洋)以来3年ぶりの殉職劇という事もあって、かなりスペシャルに扱われました。後任のスニーカー刑事はボンの仇討ちが目的で登場するし、その後もゴリさんやロッキーがボンの死を引きずる姿が描かれたりします。

そのお陰で、ボンがいなくなっても私は『太陽』地獄から逃れられないのでしたw そうやってファンを引き留める意図も製作側にはあったのでしょう。

ところがこの後『太陽にほえろ!』は、視聴率が急降下する事になっちゃいます。ボンの抜けた穴は確かに大きいんだけど、かねてから私が感じてたマンネリ感やフラストレーションを、多くの視聴者もまた胸に溜めてたのかも知れません。

そうして番組のパワーが知らず知らず衰えてたこの時期に、絶妙のと言うか最悪のタイミングでTBSが、暮れなずむ町の光と影の中、例のお化け番組を『太陽』の裏にぶつけて来たのでした。

なお、宮内淳さんはこの後『あさひが丘の大統領』『探偵同盟』といったドラマで主役を務められますが、あっさり役者稼業から足を洗ってテレビに出なくなっちゃいます。

どうしてあんなにボンが好きだったのか、宮内淳さんの一体どこがそんなに良かったのか、自分でも未だによく解りませんw

ジーパンやスコッチはもっとカッコいいし、大人になるとボスや山さんの渋さにシビれたりします。だけど一番好きな刑事は?と聞かれれば、やっぱ私は今でもボンなのでした。

(つづく)
 

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『悪魔が来りて笛を吹く』

2018-10-30 12:00:07 | 日本映画










 
『刑事珍道中』と同じく、角川映画の異色作にして「隠れた名作」とも言われてる、1979年公開の作品です。これも斎藤光正監督がメガホンを取られ、日テレ青春ドラマ&刑事ドラマのキャストがたくさん出演されてます。

原作者=横溝正史さんが自ら顔を出して「この恐ろしい小説だけは、映画にしたくなかった……」なんて、身も蓋もない事をおっしゃるTVスポットも話題になりました。角川書店のそういった戦略センスが、時代の空気を見事に掴んだ絶頂期でしたね。

だけど、私自身は進んで怖いものを見たい観客じゃないもんで、そのCMに釣られたワケではなく、本作を劇場まで観に行ったのは『太陽にほえろ!』のボンボン刑事=宮内 淳さんが重要な役で出演されてたからです。

まだ『太陽~』出演中の時期で、本来ならば掛け持ち出演は御法度なんだけど、『太陽~』でもレギュラー監督陣の一角を担ってた斎藤監督の熱烈なラブコールにより、例外的に実現したキャスティングでした。

斎藤監督が宮内さんに白羽の矢を立てられたのは、もちろん俳優としての力量や人柄を見越しての事でありつつも、同時に角川映画らしい「仕掛け」を目論んでの事だったと、私は推理します。

説明するまでもなく、本作は名探偵・金田一耕助が活躍する横溝ミステリーの一編ですから、真犯人が意外な人物であればあるほど、クライマックスは盛り上がるワケです。

もう40年近く前の映画ですから、ネタをバラしちゃいますが……

あの当時『太陽にほえろ!』は視聴率が常時30%を超える絶頂期にあり、その中でも宮内淳さんはブロマイドの売り上げトップ1を何ヶ月も独走するほど、アイドル的な人気を集めてました。

しかも宮内さん演じる「ボン」は、劇中に登場する刑事達の中でも一番のお人好しキャラで、大袈裟に言えば「日本で最も連続殺人犯のイメージから遠い男」だったワケです。

『太陽~』が俳優デビュー作で、掛け持ち出演は基本的に許されなかった当時の宮内さんは、まだ「ボン」の純朴なイメージしか世間に認知されてない。ゆえに、それを逆手に取って……

もはや言うまでもなく、宮内さんは真犯人の役を演じられたワケです。映画の冒頭で、犯人が連続殺人へと至る発端となる出来事が描写されて、誰だか判らないようシルエットで撮られてるんだけど、ファンが見れば独特な走り方と声で、宮内さんだってすぐに判っちゃうw

それはご愛嬌としても、女性の股間から鮮血が床一面に広がり、階段へと流れ堕ちていく、この冒頭シークエンスはとても衝撃的だし、不吉な内容を予感させる素晴らしい演出だったと思います。

(ちなみに古谷一行さんが金田一に扮する連ドラ版では、宮内さんと同じ役をスコッチ刑事こと沖 雅也さんが演じておられました)

さて、この映画が良くも悪くも話題になり、横溝ミステリーファンの間じゃ賛否両論に分かれてるのは、金田一耕助を演じてるのが西田敏行さんだから。

金田一ミステリーは好きだけど、それほど金田一探偵に思い入れがあるワケじゃない私から見れば、西田さんの金田一は結構ハマってたように思います。それより、私のお目当てはボンボン刑事だったしw

それに、原作者である横溝氏が自ら「この恐ろしい小説…」って仰った通り、内容はとてつもなくドロドロした人間関係と、救いようもない愛の悲劇が描かれてますから、西田さんの明るさや人懐っこいキャラが、どれほど救いになったか分かりません。西田さんで良かったですよホントに。

簡単に書くと、戦後の混乱期に伯爵だか子爵だかがいる華族の屋敷内で、肉欲に溺れた男女が近親相姦を繰り返した挙げ句、生んじゃいけない子供を何人も生んじゃった。

で、それぞれ余所の家に引き取られた男の子と女の子が成長し、お互いそうとは知らずに愛し合ってしまう。知ってしまった時には子供を宿してて、絶望した2人は自らの手で堕胎しちゃうんですね。それが冒頭のシーン。

法律では裁きようのない罪を裁く為に、2人は復讐を誓ったワケです。もちろん、最後には自らの罪をも裁くべく……

悲劇はこの2人だけじゃないんです。金田一に調査を依頼した少女(斎藤とも子)は華族の末娘で、その汚れきった血が自分自身の身体にも流れてる事を、彼女も知る羽目になっちゃう。

そんな彼女を気遣い、犯人兄妹にも同情を寄せながら真相を暴いていく金田一。彼にとっても又、これは生涯において1、2を争うツラい事件だったかも知れません。

だから、癒しキャラの西田局長でないとこの映画はツラいんです。斎藤とも子さんの清楚な魅力も実に効いてましたね。本当に切なくて、泣けて来ちゃいます。

あと、事件の元凶とも言える、近親相姦の末に彼女らを産んだ母親役の、鰐淵晴子さん! 妖艶でありながら、無垢な幼女みたいに頼りない感じもあって、めちゃくちゃ説得力があるんですよね。一番ヤバいのはこういう女だよなあっていうw

宮内さんと禁断の恋に墜ちる妹を演じたのは、二木てるみさん。黒澤明監督の『赤ひげ』(’65)で史上最年少(当時)の助演女優賞に輝いた天才子役が、本作で宮内さん相手に濃厚な濡れ場&ヌードを演じておられます。

お馴染みの等々力警部には夏八木勲さんが扮するほか、池波志乃、梅宮辰夫、浜木綿子、中村玉緒、藤巻潤、三谷昇といった人達が脇を固め、青春シリーズから中村雅俊さんや秋野太作さんもカメオ出演されてます。もちろん角川社長も、そして横溝正史さんまで!w

山本邦山&今井裕によるサウンドトラックも素晴らしくて、この映画はホント、市川崑監督&石坂浩二主演のシリーズにも引けを取らない、まさに「隠れた名作」だと思います。

最近になってようやくDVD化されましたんで、興味がおありの方は是非!
 

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『刑事珍道中』

2018-10-30 00:00:05 | 日本映画









 
タイトルは「デカチンどうちゅう」と読みますw

脚本=鎌田敏夫、監督=斎藤光正と言えば角川映画『戦国自衛隊』のコンビですが、それ以前に日本テレビの『青春』シリーズや『俺たち』シリーズ、そして『太陽にほえろ!』でも数々の名作を残された二大巨匠でもあります。

『ニッポン警視庁の恥と言われた二人組/刑事珍道中』(’80) はこのお二方に加えて、企画に岡田晋吉プロデューサーも名を連ね、キャスト陣も『青春』『俺たち』『太陽』とほとんど同じ顔ぶれですから、まるで日テレ製作の映画みたいに感じるんだけど、なぜかこれは角川映画だったりします。

松田優作主演『野獣死すべし』と2本立てで公開され、私も当時映画館で観ました。『野獣死すべし』と言えば精神を病んだ元戦場カメラマンによる犯罪と、その末路を描いた超シリアスな作品です。それとこの『刑事珍道中』の組み合わせってのがまた、凄いコントラストでしたw

優作さんが角川で『蘇る金狼』を大ヒットさせた次の作品って事で、メインは『野獣死すべし』で『刑事珍道中』は添え物みたいな扱いでしたけど、蓋を開ければ「デカチンの方が面白い!」「角川映画の隠れた傑作!」といった声が聞こえるほど、実は評判の良かった作品なんですよね。

実際、私はDVDやCATVで4~5回はこの映画を観てるんだけど、何回観ても笑える! 公開から30年も経ってるのに、ちっとも色褪せてないんです。

ドジな刑事コンビ=中村雅俊&勝野 洋が手柄を競いながら事件を解決するという、何の変哲もないお話なんだけどw、それで4~5回観ても飽きないんだから、如何にコメディとして良く出来てるかって事ですよね。

先日CATVで放映されたのを観てて、これはまるでコメディの教科書みたいな作品だ!って、あらためて感心させられました。

1つ1つのオチは、簡単に読めたりするんです。人を笑わせたり泣かせたりするには、意表を突いてやるのが一番効果的だし手っ取り早いと思うんだけど、この映画はそれをしない。あくまで正攻法なんです。

例えばドリフの「志村!後ろ!後ろ!」とかダチョウ倶楽部の「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいな黄金パターンばっかりなんですよね。例えは良くなかったかも知れないけどw

ろくに犯人を逮捕した試しがない2人に、いつもカミナリを落とす課長(金子信雄)が、机をバンバン平手で叩くんだけど、そこに画鋲が転がってるワケですよw

最終的にその画鋲が手に刺さってアイタタタ!ってなるのは100%明らかなのに、それでも笑っちゃう。オチが分かってて笑うワケだから、観るのが2回目であろうが3回目であろうが同じなんです。

雅俊さんが犯人の情婦に誘惑され、マンションの部屋で2人きりになって「シャワーを浴びて来て」とか言われちゃう。もちろん犯人が仕掛けた罠です。

バカだからすっかりウキウキ気分でシャワーを浴びてる雅俊さんと、ベッドルームで犯人に殺される情婦、そして犯人から通報を受けた課長ら刑事部隊が部屋へ急行する姿が、カットバックで描かれる。

部屋に着いた課長らが情婦の遺体を見つけると同時に、半裸の雅俊さんが満面の笑顔でシャワー室から登場し、課長と鉢合わせw

100%そうなる事が分かってるのに、何回観ても笑っちゃう。見せ方(脚本、演出、撮影)と俳優さんの芝居が、まさに完璧だからこそ笑えるんだと思います。

こういった笑いは、万国共通だし時代の変化にも影響されません。チャップリン映画と同じで、台詞を翻訳しなくたって映像だけで世界中の観客を笑わせる事が出来る筈です。

今、こういう喜劇を創れる人って、かなり少ないですよね。日本だと三谷幸喜さんぐらいしか思い浮かびません。

まず元ネタありきの小ネタで笑いを取る、クドカンさんや堤幸彦さんとは質が全く違います。元ネタを知らない海外の人が『あまちゃん』を観ても、ほとんど笑えないだろうと思います。

『あまちゃん』が好きな人は『刑事珍道中』の笑いを「古臭い」って感じるかも知れないけど、10年先、20年先に両作品を観比べて、果たしてどっちが古臭く感じるか? きっと面白い現象が起こりますよ。

別にクドカンよりもデカチンの方がいい!って、決めつけてるワケじゃありません。そりゃあ、デカいに越した事はないけれど。

同じコメディでも質がそれだけ違うんだって事を言いたいだけで、どっちを好むかは人それぞれの感性で良いと思います。

それはともかく、本作は青春ドラマのスタッフ&キャストが集結してるだけあって、ただのドタバタ喜劇に収まる事なく、ちょっとホロリとさせられる青春映画にもなってます。

そして藤谷美和子、大楠道代、風祭ゆき、木ノ葉のこ等、時代を彩った女優さん達が登場し、それぞれヌードや水着、下着などセクシーな姿を披露してくれたりもします。

例によって角川社長もカメオ出演してるんだけど、シャレの効いた使われ方で、クスッと笑えます。春樹さん、絶好調でしたねw

音楽は近田春夫さんが担当し、主題歌「マーマレードの朝」は桑田佳祐さん作詞・作曲で、雅俊さんが唄っておられます。
 
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『最も危険な遊戯』―2

2018-10-29 12:00:15 | 日本映画










 
嵐の夜で欲情したのか、杏子(田坂圭子)がパンティー1枚の姿で、鳴海昌平(松田優作)のベッドに入って来ます。今どきパンティーなんて呼ばないですか?w

「不思議だと思ってるでしょ? あれほどアンタに痛めつけられ、死ぬような想いさせられたのに、なんで私が居郷の居場所を言わなかったのか……」

鳴海の乳首をいじりながら、いつになく艶っぽい声で杏子は囁きます。乳首をいじりながらです。

「それはね、私にとっては憎い男でも、居郷とは違うって事が、あの瞬間に私のカラダに感じたからよ。分かる?」

ところが鳴海は、乳首をいじられてるというのに全く彼女を相手にしようとしません。乳首をいじられてるというのにです。

「ふっ……もう寝なさいよ。ね?」

そう言って杏子の指を乳首からはねのけ、背を向ける鳴海。怒るかと思った杏子は、意外にも切なげに涙を流します。鳴海の隠れ家に住み着いたのは、あくまで自分の身を守る為かと思いきや、もしかすると彼女は……

なのに鳴海は、なんでここまで杏子を邪険に扱うのか? 乳首のいじり方が間違ってるんでしょうか? 愛など信じるつもりが無いのか、実は自分も愛してるがゆえに、彼女の幸せを考えて突き放そうとしてるのか?

その答えは、最後の最後に明かされる事になります。

さて翌日、鳴海は依頼主である東日電気会長=小日向(内田朝雄)に前払い金を返却すべくオフィスを訪ねます。せっかく救出した社長を殺されてしまった以上、仕事は失敗に終わったと認めざるを得ません。

ところが小日向は、鳴海にまた新たな仕事を依頼するのでした。それは、今回の利権争いの黒幕である大物フィクサー・足立(見明凡太郎)の暗殺。

それが一体何を意味するのか、プロットがワイルド過ぎて私にはよく解らんのですがw、とにかく鳴海は依頼を受け入れ、再び秘書の土橋(草野大悟)から前金を受け取るのでした。

ライフルのスコープを望遠鏡代わりに、足立の屋敷を下見する鳴海ですが、阿藤快や苅谷俊介といった身体も顔もゴツい男達に襲撃&拉致される羽目になります。

そして連れ込まれた場所は「城西警察署」の留置場。城西署と言えば、黒岩団長(渡 哲也)や徳吉刑事(松田優作)がいる所轄署です。という事は苅谷俊介さんはベンケイですねw

あの夜、誘拐グループのアジト(病院跡)に潜み、居郷と鳴海を狙撃したのは、この現職の刑事達なのでした。リーダーは桂木警部(荒木一郎)。人が良さそうな風貌なのに、眼つきは氷のように冷たい男です。

演じる荒木一郎さんはミュージシャンとしても名が知られた方で、後にボンボン刑事こと宮内 淳さんがカヴァーする『君に捧げるほろ苦いブルース』も荒木さんの曲です。

「鳴海昌平、31歳。どうだね景気は?」

「中小企業だからね。オタクほど儲かってないっスよ」

部下達にさんざん鳴海を殴らせ、この件から手を引くように釘を刺した桂木警部ですが、そんな事で引き下がる鳴海昌平ではありません。

解放されるや否や、鳴海はターゲット=足立の情婦である高級クラブのママを探し出し、居場所を聞く為に着物を脱がせますw

「小さなオッパイなんだねぇ。ここんとこ刺すけど、いい?」

情婦なんかより秘書とかの方がよく知ってそうなもんだけど、秘書を脱がせるより情婦を脱がせる方が楽しいに決まってますからねw

恒例のオッパイ攻撃で足立の居場所を聞き出した鳴海は、再び隠れ家で戦闘準備を始めます。すっかりアル中みたいになった杏子が、そんな鳴海にすがります。

「ねぇ、お願い。やめて。どんなに恐ろしい相手なのか、アナタにはまだ本当に分かってないのよ。無茶だわ! 現職の刑事とギャングを敵に回して、アナタ勝てると思ってるの!?」

例によって鳴海は、杏子の言葉を完全無視します。

「ねぇ、聞いて? 桂木は裏の事情を知ってる私を、きっとどうにかしようとするに決まってるわ。アナタには私を守る責任があるのよ! お願い、やめて。行かないで……」

準備を終えた鳴海は、バーボンを一杯ひっかけて隠れ家を出て行くのでした。

そしてビルの屋上からライフル1発で見事に足立を仕留めるのですが、それを待ってたかのように周囲のビルから警察の狙撃部隊が現れ、鳴海を狙って一斉射撃を開始します。上空を飛ぶヘリから無線で指示を送るのは、もちろん桂木警部。

さらにパトカー軍団も駆けつけ、完全に包囲されてしまう鳴海ですが、ロープを使ってビルを降下するというワイルドな手段で、何とか下水道に逃げ込んでピンチを脱します。

そして隠れ家に戻るんだけど、前回「閉店したバーの跡地っぽい」って書いたのは間違いで、この場面を見るとボウリング場の跡地ですねm(_ _)m そう言えばトレーニングの場面でボウリングの球とかピンを使ってましたもんね。

で、鳴海が戻って来たら驚いた! 一足早く侵入した桂木警部の一派が、今まさに杏子を拉致して車に押し込んでるのでした。

さて、鳴海はどうしたか? 口うるさい居候がいなくなってせいせいするのかと思いきや、なんと発進した桂木の車を全力疾走で追跡するのでした。鳴海にとって杏子は、とっくに用済みだった筈なのに……

鳴海は、杏子を乗せた車を延々と、必死に追いかけます。この日本において「走る姿が最も美しい俳優」と云われた優作さんの疾走です。スラッと長い手足、引き締まったボディー、華麗なるフォーム……私に無いものばっかりですw

「止まって! お願い! 来ちゃいけない! 私はどうなってもいいの! お願いだからやめて! 止まってぇ!」

杏子はやはり、鳴海を愛してしまったんですね。

「あなたを困らせようと思って……あなたのそばにいたくて……来ちゃいけない! 止まってよぉ!」

杏子を救う為に走る鳴海もまた、彼女を愛してる。だからこそあえて冷たくしてた……と解釈するしか無いと思うんだけど、さぁ果たして……?

桂木は鳴海を始末すべく、人けのない港の倉庫街へと誘い込みます。猛スピードでひき殺そうとする車を横っ飛びで避けた鳴海は、マグナム44を構え、1発で運転手=苅谷さんの眉間を撃ち抜きます。

マグナムで撃たれたら頭がバラバラになっちゃいそうなもんだけど、この映画ではそういった描写はありません。マグナム用の拳銃でも(44スペシャル弾など)マグナムじゃない弾丸が撃てる筈なんで、命中精度を優先して威力の弱い弾丸を使ってると解釈しておきましょう。それにしても優作さんは、長銃身のマグナムが本当によく似合う!

ところで車はバランスを失って派手に横転しますが、そのショットにワイルドな撮影スタッフ達がモロに映り込んでますw 車が予定よりも早く転がってしまい、映り込んでる部分がカット出来なかったのかも知れません。

でも、観客の視線は転がる車に向いてますから、意外と気づかないもんなんですよね。私も今回、画像を撮る為にコマ送りして初めて気づきました。言い訳しようが無いほどハッキリ映ってますw

天地が逆さまになった車から出て来た刑事達を、1人につき弾丸1発ずつで確実に抹殺して行く鳴海。杏子を盾にした桂木には撃たれますが、いつの間にか腹に鉄板を仕込んでいたという、マカロニウェスタンばりのワイルドなオチで、一件落着。

そして、黙って杏子と見つめ合う鳴海は、熱くてワイルドなキスだけで想いを伝え、また何処かへと走り去って行くのでした。

鳴海の仕事はまだ終わってません。再び足立の情婦を捕まえ、居場所を聞き出そうとします。

「アンタが殺したんでしょ!」

「とぼけんなよ、この野郎。ありゃ替え玉だろうがっ!」

鳴海がライフルで仕留めたのは、ホンモノの足立じゃなかった。実は暗殺を依頼した小日向会長と足立はグルで、鳴海は組織ぐるみの芝居に利用されたワケです。それが彼らにどんなメリットをもたらすのか、人一倍マイルドな私にはサッパリ解りませんがw

「そうよ。警察を敵に回したら、とても勝ち目は無いと思ったのね」

「……脱げ。ほら脱げよ。好きなんだろお前、可愛がってやるよ。脱げ脱げ脱げ」

そう、理屈はどーでもいい、とにかく脱げば良いのです。エロス&バイオレンスさえあればオールOK! ほら脱げ脱げ脱げ!

「足立はどこだ? 足立はどこだ? 足立はどこだって聞いてんだっ!!」

オッパイ攻撃で居場所を聞き出した鳴海は、小日向会長の屋敷に突入し、用心棒たちを片っ端から素手で殴り倒して行きます。やっぱ強いやん!w 怒りのパワーに勝るものは無しって事ですよね。

そしてマグナムに弾丸を装填しながら、小日向会長と密談中だったホンモノの足立の前に鳴海は現れます。

「足立精四郎さんですね。あんたには別に恨みは無いんですけど、そこの小日向さんに頼まれて。約束を果たさせて貰います」

クールに足立の眉間を撃ち抜いた鳴海は、すぐそばにいる我が依頼主に報告します。

「小日向さん……約束は終わったよ。金は振り込んでくれたんだろうね」

「あ……ああ、振り込んだ。ご、ご苦労だったな」

「はい。さて次はプライベートな問題だ。あんたね、ちょっと悪ノリし過ぎだったよ」

銃口を向けられ、慌てて命乞いする小日向会長の片脚に1発ぶち込んだ鳴海は、不敵な笑みを浮かべながら最後の台詞をキメます。

「今のは約束手形です。これからもよろしく。素敵なゲームをありがとう」

何度観ても鳥肌が立ちます。ストーリーがよく解んなくたって、素晴らしいものは素晴らしい。

話の筋なんか二の次でいいんです! 大切なのはエロス&バイオレンス! すなわち躍動する肉体の美しさと格好良さなんだから! 映画って本来そういうものなんだって事を、あらためて教えられたような気がします。

翌日の新聞で、桂木警部らは「身元不明の遺体」、足立精四郎は「心不全のため死去」と報じられ、全ては闇に葬られました。

そしてVeryワイルドな仕事を終えた鳴海昌平は、冒頭シーンで見せたオフの顔に戻り、ストリップ小屋でヌードショーを見ながら居眠りするのでしたw

角川映画『人間の証明』のテーマ曲をBGMに、麦わら帽子で局部を隠しながらw、ステージで踊ってるのは岡本 麗さん。当時はもっぱら脱ぎ要員で起用される女優さんでした。

「ねぇアンタ。寝てんだったらウチ帰ってよ」

「ああ、ごめん。ねぇ、今日終わったらさ、アレさせてくんないかしら?」

「ふん、誰がアンタなんかと。私はね、草刈正雄みたいなのが趣味なんだよ。帰ってよ!」

「くっそぉ……カリ正雄め……」

世間でライバル視されてた草刈正雄さんを、優作さんはよくこうやってネタにしてましたw 松田優作&草刈正雄の2ショットも観てみたかったですね。

さて、岡本 麗さんに蹴飛ばされてストリップ小屋から出て来た鳴海は、前を通りかかった高級車の後部席を見て驚きます。どっかの政治家みたいなオヤジに寄り添う、その女性は……

「きょ、杏子ちゃん!? おい! おい! ちょっと待ってくれ! おい! 俺だよ! 停まってよ! おーいっ!」

今度はドテラ姿で車を追いかける鳴海は、とうとう本当の気持ちを叫んでしまいます。

「こんな事になるんだったらよ、格好なんかつけないでよ、杏子もやっときゃ良かったんだよ! おーい、停まってくれーっ!!」

つまり、杏子に対してずっと冷たくしてた本当の理由は、単に「格好つけたいから」だったワケですねw ハードボイルドを気取りたかっただけなんです。中学生か!w

だけどそれじゃ、杏子が拉致された時に走って車を追いかけた、あの必死な姿は何だったの?って事になりますから、やっぱこの映画は、1回きりのセックスから始まった、ある種の純愛ストーリーなんでしょう。

オン時は徹底してワイルドなバイオレンスヒーローだけど、オフになると滑稽な近所のお兄ちゃん。そんな2つの顔が同居するキャラクターこそがアクションスター=松田優作の真骨頂であり、この「遊戯シリーズ」は前期・優作さんの代表作と言って良いんじゃないかと私は思います。

特にこの第1作は、その二面性が実にバランス良く作用し、サービス満点のエロスとバイオレンスによって昇華した最高傑作じゃないでしょうか? ワイルド過ぎて難解ではあるけれどw
 

コメント (7)
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