少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

ビッグ・ クエスチョン

2019-07-15 13:29:55 | 読書ブログ
ビッグ・ クエスチョン(スティーブン・ホーキング/NHK出版)

この人が一般向けに書いた本は、日本語で出版されたものはかなり読んでいる。宇宙の始まりに神は必要ない、という主張をはじめ、徹底した論理的思考の持ち主だから、この人の意見は信用できると思っている。たとえば、この世界は、局面に応じて5種類の超弦理論と超重力理論の組み合わせで説明できる、とか、弱い人間原理は、コペルニクス原理の自然な拡張である、など。

この本では、神の存在、宇宙の始まり、地球外生命など10個の大きな問題を取り上げている。彼は多分世界一有名な無神論者だったが、物理学者の中にも無神論者でない人が多数いることを考えると、キリスト教の呪縛がどれほど大きいか、日本人の想像に余るところがある。

特に印象に残ったのは、「AIとは賢明につきあうべき」と、「人類は宇宙に出ていくべき」の2つ。AIも宇宙開発も、何やら米中の覇権争いの主戦場になりそうな雲行きだけに、重い提言だと思う。

おおいなる眠り

2019-07-08 22:40:03 | 読書ブログ
おおいなる眠り(レーモンド・チャンドラー/ハヤカワ・ミステリ文庫)

村上春樹訳のチャンドラーを、7冊全部、読み終えた。より暴力的で、法の限界まで踏み込むマーロウや、簡単に女と関係を持ってしまうマーロウなど、年齢とキャリアに応じて様々なバリエーションがあるが、一貫しているのは、独特の意味合いでのタフさと、それに見合う気の効いたセリフと。

以前に紹介した『ロング・グッドバイ』がベストだと思うが、細かいランク付けはせずに、全体を通しての印象を少し。

まず、村上春樹の文章と作品世界の相性のよさ。原文に忠実な訳に努めていると思うが、彼が作品に惚れ込んでいることは十分に伝わってくる。
もうひとつは、アメリカという社会の複雑さ。民主主義を成り立たせるさまざまな仕組みが息づき、極めて合理的な社会制度を築き上げる一方で、銃規制に失敗し、さまざまな分野で顔役が幅をきかせる、不思議の国アメリカ。それはマーロウが活躍した時代だけでなく、現代ともつながっている気がする。トランプ大統領という悪夢は、まちがいなく、アメリカの一面だと思う。