少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

暗殺者たちに口紅を

2023-10-27 19:53:41 | 読書ブログ
暗殺者たちに口紅を(ディアナ・レイバーン/創元推理文庫)

40年間、暗殺組織で勤務し、60歳で定年を迎えた4人の女性。退職記念クルーズに参加すると、彼女たちを殺すために送り込まれた組織の刺客に気が付いた。

帯や裏表紙の宣伝文句で、読んでみよう、と思った。読み始めるとすぐ、すいすいと読めることに気づき、それが最後まで続いた。時おり若い時の回想シーンが挿入されるので、現在と過去が交互に記述される、おなじみのスタイルかと思ったが、回想シーンは必要最小限で、煩わしさは感じなかった。

暗殺組織の名称が「美術館」で、その組織原理もよく考えられている。推理小説でもないし、ストーリーの先読みなどせずに、素直に楽しめばよい作品かと。

スパイ小説もそうだが、こういう作品は、シリーズ化するのは難しそうだ。作者は続編を書くことについて明確には語らず、絶対に書かないとはいわない、とだけ述べているそうだ。

題名がおしゃれなので、原題を確認すると、
"Killers of Certain Age"
直訳すれば「一定年齢の殺人者」だが、
certain age は、女性に関して 年配の意味で用いられる、との解説。

なお、画像は、書影とは無関係のイメージです。若すぎますが、まあ、若い時の記述もあるので。


そもそも島に進化あり

2023-10-20 19:56:04 | 読書ブログ
そもそも島に進化あり(川上和人/新潮文庫)

この著者は鳥類学者。作品を紹介するのは4冊目。

今作は、島の生物学。そもそも島とは何か、という定義から始まり、島に生物が到達する形態や、島での生物の進化と絶滅などが論じられる。

島は、大陸に比べて様々な資源が制約されているが故に、島特有の生態系が出現する。一方、それはある意味で大陸の縮図であり、地球もまた宇宙の中の孤島、ともいえる。

例によって、ガンダムやウルトラマンなどの他事記載や、無駄に多い脚注は、従来の著作と同様だが、今作ではあまり気にならない。(むしろ少なめ。)

『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』では、新たに出現した島に、鳥の調査に向かう様子が描かれていたと記憶している。この本では、そうした著者の長年の研究から得た、島の生物学に関する知見が取りまとめられている。鳥の研究から必然的に島の研究に至る様子が、よく表されていると思う。

結果として、進化に関する知識を深めるとともに、生態系が直面している危機を理解するために、非常によい著作に仕上がっていると思う。

なお、画像は、書影とは無関係のイメージです。

可燃物

2023-10-13 19:28:33 | 読書ブログ
可燃物(米澤穂信/文藝春秋)

群馬県警察本部捜査第一課 葛(かつら)警部が主人公の本格推理。

拝見しているブログで新刊が出ていることを知ったが、しばらく図書館では借りられそうにないので、出張先で持参した本を読み終えたのを言い訳に、購入することにした。

警察の捜査の中で生じた謎を、主人公が、すべての証拠に基づいて思考の限りを尽くして解きほぐす。作者がインタビューで、警察小説というよりは警察ミステリだと発言しているのを見かけたが、その意味合いが非常によく分かる。民間の探偵と異なり、警察官は、科学捜査や防犯カメラの映像など、すべての証拠を手に入れることができる。

また、作者は『米澤屋書店』で、「日常の謎」ではなく本格ミステリの範囲でも、新たな謎はいくらでも創れる、という趣旨のことを書いていたと思うが、それを実証する作品、とも言える。

凶器探し、動機探しなど、5編が収録されている。好みの作家の、短編推理。多くの作品が書かれることを祈りたい。


「版元ドットコム」の画像が「利用不可」の場合が増えているなと思っていましたが、調べてみると、しばらく前からほぼ使えなくなっているようです。著作権を侵害しないような撮影方法を工夫するのも面倒なので、当面、別の画像を掲載します。

3月のライオン(第17巻)

2023-10-06 19:52:18 | 読書ブログ
3月のライオン(第17巻)(羽海野チカ/白泉社)

3月のライオンの第17巻がようやく出た。連載雑誌を購読していないので、いつごろ出るか予測がつかないが、従来のペースからすれば半年は遅れている。

第16巻で始まった原始中飛車での戦いは、主人公桐山の、子供のような自由奔放な指し回しに、ライバルを自認する二階堂が堅実な手で応えようとするが・・・という展開。

気になるのは、作者が意図するストーリーに、棋譜がぴたりと当てはまっているのか、という点だが、そこは監修を務める先崎先生が、それなりの棋譜を選んでいるのだろう。私が調べた範囲では、どうも羽生善治VS村山聖の棋譜らしい。

一方、盤外のストーリーでは3姉妹の長女あかりが、和菓子屋で新たな試みをあれこれと工夫する様子が描かれる。

もともと将棋漫画というよりは、さまざまな困難に直面する人々が、癒されていく物語ではあったが、少し前から、主人公が将棋の世界でどのように成長していくのかが見えにくくなっている。たぶんそれは、藤井さんが、どんなフィクションも超える勢いで実績を積み重ねていることと無縁ではないのだろう。

どのような終局を迎えるのか全く読めないが、最後まで付き合っていきたいと思う。

書影は作者のイラストなので、当然、使用不可。なので、主人公が住む街の川と橋の写真を選んでみた。