少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

書架の探偵

2021-07-31 07:00:00 | 読書ブログ
書架の探偵(ジーン・ウルフ/ハヤカワ文庫SF)

ジーン・ウルフといえば、20世紀最高のSFファンタジーとも呼ばれる「新しい太陽の書」シリーズの作者だったはず。その評判に魅かれてシリーズ4冊と完結編1冊をいっきに読んだのも、かなり昔のこと。読んでいる間は独特の物語に魅了されるのだけれど、振り返れば全体としてどのような話だったか、さっぱり分からない、という不思議な作品だった。再読すれば見通しがよくなるのかもしれないが、正直、そんな意欲はわかなかった。

で、ともかく最後まで読もうと覚悟して読み始めたが、意外にもすらすらと読めた。

主人公は、過去の作家を複製したクローン人間で、図書館に所属し、貸し出されるのを待っている、という設定。(一定期間、閲覧も貸出もなければ、焼却処分にされる!)ある日、金持ちの若い女性がやってきて、彼を10日間、借りたいという。

そのようにして始まる物語は、テンポよく、ときどき思いがけない方向に展開しながら、最終的に、当初の謎の解明と、殺人事件(題名に探偵とあるのだから、当然でしょう。)の解決にいたる。

本をテーマにした異色のSFだが、本格推理としてもきちんと成立している(ように見える)。読むべき1冊に加えたい。
なお、解説者は、詰将棋作家としても有名な方。

レンブラントをとり返せ

2021-07-24 07:00:00 | 読書ブログ
レンブラントをとり返せ-ロンドン警視庁美術骨董捜査班-(ジェフリー・アーチャー/新潮文庫)

久しぶりにこの人の作品を買った。『百万ドルをとり返せ』と『大統領に知らせますか』を続けて読んだのがもう40年余り前。その後、『ケインとアベル』のような長いのはパスして、短編集などを読んできた。

この作品は、長い長い物語の、1作目のようだ。作者は、長生きさえできれば、主人公が警視総監になるところまでを書くつもりでいるらしい。(すでに80歳を超えているが、1作でも多くの作品が書かれることをお祈りする。)

冒頭に作者からのお知らせがあり、シリーズの第一巻であることが書かれている。帯にも新シリーズ始動、とは書いてあるが、『ゴッホは欺く』からの連想で、もう少し短い話だと即断してしまった。

買ったことは後悔していないが、シリーズの第一巻でなければ、もう少し小気味の良い結末になったのでは、という思いはある。作中の敵役は、第二巻以降にもきっと登場する、と思わせる終わり方だ。

第二巻以降を読むかどうかは分からない。しかし、長いのが嫌いでない人にはお勧めで、この人のファンには大きな楽しみとなるのは、間違いない。




科学者になりたい君へ

2021-07-17 00:00:00 | 読書ブログ
科学者になりたい君へ(佐藤勝彦/河出書房新社)

著者は、宇宙物理学者。この人と米国のアラン・グースが、インフレーション理論の提唱者とされている。(共同研究ではなく、それぞれ独立に。)

インフレーション理論は、初期の宇宙が指数関数的に急膨張した、という理論。ビッグバン宇宙論の矛盾の多くを解消できることと、宇宙マイクロ波の観測結果から、まず間違いないと考えられているが、ノーベル賞をもらえる見込みはない。2020年には、ようやくブラックホールが受賞対象となったが、ペンローズ氏とともに特異点定理を発見したスティーブン・ホーキング博士は間に合わなかった。著者が存命中に、インフレーション理論が実証される見込みはないだろう。

この本は、世界的な宇宙物理学者として活躍した著者が、自らの生涯を振り返りつつ、科学者を目指す若い人へのメッセージを綴ったもの。読書感想文コンクールの課題図書にもなっている。

この人には多くの著作があるが、読みごたえがあるのは、『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった』で、インフレーションの過程では必然的に、無数のこども宇宙が発生することを解説している。最先端物理学では、いくつものバージョンの多元宇宙論が提唱されているが、そのはしりである。

で、最後に付け加えると、この人は香川県出身で、県人としては、空海に並ぶくらい、すごい人ではないかと思う。

私の少女マンガ講義

2021-07-10 07:00:00 | 読書ブログ
私の少女マンガ講義(萩尾望都/新潮文庫)

イタリアの大学での少女マンガに関する講義や、萩尾さんへのインタビューなどを取りまとめたもので、少女マンガの世界を理解するには、これ以上はない、という内容。

しかし、萩尾さん自身が書いているのはあとがきだけだったので、その点では期待はずれ。

本人が書いたものは、『一度きりの大泉の話』もあるようだが、私としては、『思い出を切りぬくとき』をお勧めしたい。

これは図書館で借りたが、文庫でも発売されている。代表作をバリバリ書いていた頃だから勢いがある。

萩尾さんのエッセーとしては、こちらが本命かと。



歴史は不運の繰り返し セント・メアリー歴史学研究所報告

2021-07-03 07:00:00 | 読書ブログ
歴史は不運の繰り返し セント・メアリー歴史学研究所報告(ジョディ・テイラー/ハヤカワ文庫SF)

まず、マービン・ミンスキーの言葉を紹介したい。

マービン・ミンスキーは、すでに故人だが、MIT人工知能研究所の創設者のひとりで、「人工知能の父」と呼ばれている。『知の逆転』(2012年/NHK出版新書)の中で、サイエンスライター吉成真由美氏のインタビューに答えて、次のような趣旨の発言をしている。

「私はSFしか読まない。それ以外の『一般文学』は、100冊読んだらみな同じだが、SFには何らかの新しいアイディアが入っている。」

紹介しようとする作品は、タイトルから容易に類推できるとおり、タイムトラベルをテーマとするSFである。(ちなみに、タイムトラベルをテーマとするSFで、ハインラインの『夏への扉』より優れた作品を、浅学にして私はまだ知らない。)

しかし、SFやファンタジーと称する作品の中には、舞台装置にSF的、ファンタジー的な設定を使いながら、古い物語を繰り返しているだけの作品もあり、近年、急激に増えている気がする。

もちろん、そのような評価軸とは別に、面白ければいいじゃないか、という主張もありうる。

この作品は、タイムトラベルが抱えるパラドクスに関する、新しいアイデアが少しは盛り込まれているような気がする。一方、読んで面白いか、と言われれば、それなりの評価が得られると思う。どのように評価するかは、各自で判断していただくしかない。ちなみにこの作品、私としてはR18指定としたい。(その要素は、私にとっては全く不要だったが。)

英国ではシリーズ化されているらしいこの作品、続編も追いかけるかどうかは、まだ、決めていない。