少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

季節の中の診療室にて

2019-08-25 17:27:35 | 読書ブログ
施設の中の診療室にて(浪越健男/クインテッセンス出版(株))

エッセーには独特の魅力がある。最近読んで面白いと思ったのは、佐藤正午と、ドリアン助川だ。前者は恋愛小説の得意な作家。後者は、独特の経歴を持つミュージシャン&文筆家。逆に、エッセーの名手として評価の高い人でも、読んでみると、文体や技巧に見るべきものはあるものの、少しも心に響かない、ということもある。

紹介する本は、高校の同窓生のエッセー。昔から優れた歯科医師だと承知していたが、それは私が紹介するまでもなくこの本を読めばわかる。同窓生として、本のあれこれを論評するのは差し控えたい。が、読後に、15歳のとき、夕焼けの空の色や、季節の変わり目の光の変化、緑の鮮やかさなどに驚嘆し、自然の美しさをしみじみと感じていたことを思い出した。私自身は、そのような境地から遠く離れてしまったが、この本の著者は、そのような心をいまだに強く保っているのだろうと思った。

エッセーの好きな人には、読むべき1冊だと勧めたい。

アイム・トラベリング・アローン

2019-08-11 09:53:03 | 読書ブログ
アイム・トラベリング・アローン(サムエル・ビョルク/ディスカヴァー文庫)

ノルウェーの警察小説。推理小説の世界は深い泥沼で、足をとられると抜け出せない気がするので近づかないようにしているが、これだけ世に犯罪小説があふれていると、完全に避けるのは難しい。これは、ノルウェーの作品であることと、タイトルに魅かれて本屋で買ってしまった。

この作品の良さは、主人公の女性警官に負うところが大きい。過去の事件で心に深い傷を負っている、という設定は鬱陶しいが、それも物語に欠かせないピースになっている。6歳の少女の連続殺人という陰惨な事件ではあるが、主人公の異様な明晰さ、捜査チームの結束、簡潔で平易な文章などが混然となって、一種の軽快さを生んでいる。

続編がすでに翻訳されているので、いずれ読むことになると思う。