少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

刑務所の精神科医

2021-12-25 07:00:00 | 読書ブログ
刑務所の精神科医(野村俊明/みすず書房)

どこかで見かけたタイトルが、何となく気になっていて、図書館で見かけたので借りてみた本。

刑務所や少年院に勤務した経験を持つ精神科医のエッセー。

10年以上前に、「累犯障がい者」を取り上げた本が話題になったと記憶している。知的障がい者が万引きなどの罪を犯して刑務所に入って、出所しても福祉的なケアを受けることなく、またすぐに罪を犯して刑務所に戻ってしまう、そのような実態が放置されている、というような趣旨だったと思う。その後、刑務所を出るときに、福祉につなぐ仕組みも制度化されたようだが、たぶん、それですべて解決、というわけでもないのだろう。

この本では、精神障がい者の治療と刑罰をめぐる実態が描かれている。必ずしも累犯障がい者と同じ構造ではないが、結局、社会の歪みは、一番立場の弱い人たちのところで顕わになるのだなあと思う。あえて付記すれば、知的障がい者が精神障がいを併せ持つ割合は、かなり高い。

しんどい内容だし、手に入れにくいと思われるので、おススメはしません。おススメしない本を取り上げることも、たまにあります。ご容赦を。

宇宙を解く唯一の科学 熱力学

2021-12-18 07:00:00 | 読書ブログ
宇宙を解く唯一の科学 熱力学(ポール・セン/河出書房新社)

カルノー、ジュール、クラウジウス、マクスウェル、ボルツマン、プランク、アインシュタイン、シャノン、チューリング、ホーキング。蒸気機関に関する研究から始まった熱力学を、その発展に寄与した科学者の功績を紹介しながら、現代にいたるまでの全体像を描いた本。

原題は「アインシュタインの冷蔵庫」。アインシュタインが冷蔵庫の特許をとった話が出てくるが、アインシュタインの本質的な貢献は、光量子やブラウン運動に関するものだ。

ミスリーディングなタイトルを踏襲するように、日本語タイトルは「宇宙を解く唯一の科学」となっている。誇大だと思うが、たぶん、統計学は最強の学問、というのと同じような意味合いなのだろう。基本的に統計学の手法を用いているし、科学としての確からしさも群を抜いている。一般相対性理論はいつか、修正を迫られることがあるかもしれないが、熱力学の法則は、それよりもずっと長持ちするだろうと、たいていの科学者は考えている。

最後のほうでは、ブラックホールのエントロピーやホログラフィック理論が出てくる。格別に面白い、というほどではないが、熱力学の歩みと、最先端分野での応用がよくわかる、有用な本だと思う。

みみずくは黄昏に飛びたつ

2021-12-11 07:00:00 | 読書ブログ
みみずくは黄昏に飛びたつ(川上未映子/新潮社)

少し前に、村上春樹さんと翻訳家の柴田元幸さんの対談本を紹介したが、そういえばこういうのもあったなあと、図書館で気になっていた本を借りてみた。

対談というよりは、川上未映子さんから村上氏へのインタビュー。1回は『職業としての小説家』の刊行を記念して行われ、文芸誌に掲載された。その後、『騎士団長殺し』の執筆後に行われた3回分を加えて、1冊の本にまとめたもの。

『職業としての小説家』は、小説家であることについて村上氏が長年にわたって考えてきたことをまとめたもの。「書くことを通じてしか考えられない」と彼自身が主張する資質がよく現れた作品で、自身による作品論とも読める、価値の高い作品。それを題材に、村上氏の創作技法や小説家としてのスタンスに関する話題が繰り広げられる。

それに加えて、『騎士団長殺し』を中心に、村上作品をよく知る作家から村上氏に聞きたいことが遠慮なくぶつけられるロングインタビュー。この本と、『職業としての・・・』があれば、村上氏が自身の創作技法について語るときに語ることの多く(あえて「全て」とはいわない)を知ることができるのではないか。

村上作品を論じる資格はないし、論じる気もない、といってきたが、作品論を読むこと自体は、嫌いではない。

酔いどれ探偵/二日酔い広場

2021-12-04 07:00:00 | 読書ブログ
酔いどれ探偵/二日酔い広場(都築道夫/創元推理文庫)

<日本ハードボイルド全集>と銘打ったシリーズ。全7巻の予定のようだが、この一冊以外は読まないと思う。本屋で見かけて、都築道夫氏に敬意を表して買ってみたもの。分厚いけれど短編ばかりで、読みづらくはない。

『酔いどれ探偵』は、都築氏が翻訳していたエド・マクベインのシリーズを書き継いだもので、全6話。舞台はニューヨークで、私立探偵崩れのルンペン(この言葉、まだ生きているのだろうか。)が主人公。ハードボイルドってこんな感じだった。

『二日酔い広場』は元刑事の私立探偵が主人公で、全7話。昭和50年代の東京が舞台。私が東京に住んでいた時代に重なり、当時の空気感がよみがえる感じ。

都築氏の作品で私の好みは、『なめくじ長屋捕物さわぎ』や『退職刑事』のシリーズで、短編推理や捕物帖が好きになったのは、このあたりが始まりかなと思っている。好きな作家ではあるが全作品を追いかけたりはしていないので、たぶん、初見のはず。期待は裏切られなかった。