今年の7月に亡くなった作家で活動家の小田実さんには直接お会いしたことはなかったが、学生時代著書はよく読んだ。有名な「何でも見てやろう」にはじまりソクラテスを裁いた普通の市民たちを描いた「大地と星輝く天の子」など小説が面白かった、一番印象に残り、私自身ものの見方に影響を受けたのは鳥瞰図(ちょうかんず:空からみる視点)と虫瞰図(ちゅうかんず:虫の目で見る視点)を合わせ見るという発想だ。政治家の話は大局に立ってという「俯瞰の目線」(鳥瞰図)を主張することが多いが市民の目線は現場のしかも自分の身体のサイズ、身の丈に合った視点だ(虫瞰図)。多くの人の議論や問題解決の手法はどちらかに寄っていることが多いが小田さんはいつも自分が現場の当事者であり、かつ大きな世界という視点で物事を見ていって身の丈サイズの考え方が世界サイズで見たときにどうか?を常にと問うておられた。むしろそれを常に実践した人だったと思う。
私の学生時代は山口の田舎だったし、学生運動の方も残り火がかすかにくすぶっているような時代だったので団塊の世代のように激しい時代を経てないが、それでも不思議と回りにはヘルメットをかぶっている人が多かった。その人たちの中には真剣に革命が起こることを熱く語り、私にそのときどっちにいるかを鋭く問い詰める人もいた。つまり体制派か反体制派か、ということだ。そんなときによく自分で考えたのは体制派でもなく反体制派でもない、人間派だった。どんな社会になっても人間は人間だ。しかし、難しい理論を吹っかけてくるひとにはこれは通じなかった。
一人の人間としてどう生きるか、その一人一人の人間が集まってできた地域でどう生きるか。地域がいっぱい集まった日本という国、・・・世界、小田さんの虫瞰図、俯瞰図はこの一人の人間、しかも大阪人らしく「どうしようもない人間」としてという発想が強調されていた。哲学や政治、社会学、文学とすべてのジャンルから人間を問うが、結局一人一人の人間という存在で行き着くのは、そんなにたいそうなものではなく、怖いことにはやはり怖がり、嫌なことは嫌だというどうしようもない人間としてダイナミックに肯定していく生き方。説得力があったし、そうはいってもいつも当事者として行動する作家であり、哲学者であり、普通の人だった。
このブログも普通の人々の生き方を伝えるとしたように、毎日のように全国各地の方々との出会いの中で感じること、発見すること、一緒に仕事する中でわかることが次々と湧き出てくる。久しぶりに山江村の松本さんがコメントをくれたが、籾摺り(もみすり)に追われているといいつつも何か心に響いたことを伝えてくれることでまたこちらもうれしく、元気をもらう。
学生時代詩吟をしていて杜甫の「貧交行」(ひんこうこうと読む。・・だったか、うろ覚え)という詩に「手を翻せば雲となり、手を覆せば雨、紛々たる軽薄なんぞ数うるを用いん。君、見ずや・・・」と続く。人の心は移ろいやすく、時流に流されるが、どん底に落ちた時にこそ、本当の人のつながりが見える、心と心が通い合う男同士の交わりほど大事なものはないというような詩だ。春秋時代の管仲(かんちゅう)と鮑叔(ほうしゅく)の友情を詠んだ。
松本さんをはじめ本当につながりあえる人たちが全国にいることがもっとも大切な財産だ。
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