(メイフラワー号の置物)
耕一はその頃、横浜の港でだるま船(はしけ船にエンジンを付けたもの)に乗って進駐軍貨物輸送の仕事をしていた。彼がまだ二十歳前後の頃である。
その仕事はなかなか実入りの良い仕事であり、また進駐軍の様々の活動が垣間見られて面白いものであった。
ある時、仕事仲間の友人からこんな相談を受けた。
「進駐軍の若い美人将校が、日本の男と友達になりたいと言っている。若くてハンサムな男が良いらしい。友達になってくれればお小遣いをたくさんあげると言っているが、どうだお前、ひとつやってみないか」
「!!」
むろん耕一に異存はない。異存がないどころかとても良い話だ。通常であれば、自分のような身分で若いアメリカ人の美人将校と友達になれるなどという事は、ありえない話だ。
耕一はつばを飲み込みながら二つ返事でOKした。
数日後、待ち合わせ場所に指定されたホテルへ、耕一は胸をときめかせて行った。そのホテルには将校クラブがあり、進駐軍の将校クラスが利用していたホテルであった。
耕一がホテルのロビーで待っていると、日本人の男が寄ってきて言った。
「お前が耕一か? そうか、俺は進駐軍将校の運転手だ。これから将校の家へ案内する」
耕一の乗った車は、本牧の米軍キャンプへ向かった。そこに将校用宿舎があるという。
車がキャンプのゲートを入ると、抜けるような青空の下に、きれいに手入れされた緑の芝が広がっていた。その緑の中に白くペンキ塗りされた小奇麗な宿舎が並んでいる。
「これがアメリカか・・・・・」
その時耕一は、別世界に入ってきたと思った。この夢のような別世界でこれから自分は美人の将校さんに会おうとしている。
「本当にこれが現実なのか・・・・・」
胸の高まりを必死に抑えながら、キャンプの中を走る車から、初めて見るアメリカの風景を凝視していた。
庭にきれいな花が咲いている宿舎の前で耕一が乗る車は止まった。
「ここが将校さんの家だ。中で彼女が待っているよ」
耕一が車から降りると、運転手はそう言って車を走らせた。
続く・・・・・・。
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