屋敷廊下の先には、渡り廊下でつながれた離れがあった。
床の間付きの和風座敷である。
代貸に案内されてその座敷に入ると、大きな座卓の上には仕出料理の大皿がいくつも並んでいた。
そして、下座に組長が座っている。
「賭場は大分賑やかになってきましたな、さあどうぞこちらへ」
組長は、床の間を背にした上座に市長を座らせると、
「市長は越後の酒がお好きでしたな。知り合いから「越の寒梅」を取り寄せましたので、ご賞味下さい。さあ、まずは一献」
そう云いながら市長の杯に熱燗徳利を傾けた。
「それじゃ、遠慮なく頂戴しますよ」
市長は、グィッと杯を空けた。
「ところで組長、浜の防波堤工事は順調のようですな」
「ええ、弟がえらい張り切ってやってますよ。市長から大きな仕事を回してもらったお陰で、あの土建会社もやっと息を吹き返しました。他の土建屋仲間が羨ましがっていますよ。ハハハハーーー」
「まあ、しっかりやってもらってよ。いい仕事をしてくれれば、また次の仕事も考えさせてもらいますよ」
「いつも有難うございます。ところで、来年は選挙があるんでしょう。色々と物入りになりますな・・・。私も出来る限りの応援させてもらいますぜ。何でも申し付けて下さい。さあ、もう一杯」
市長と組長がそんな話をしていると、代貸が座敷に入って来て親分(組長)に耳打ちした。
「なに、あのタヌキがまた俺に用事が有るって? まあ少し待たせておけ」
組長は不機嫌そうにそう云って、自分の杯を空けた。
続く・・・・・・・。
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