母似の弟は、私とは違って、小さい頃から周りから可愛いねと褒められた。
「パッチリした目だね」「女の子みたい」
一方、父に似た私はお世辞にも可愛いとは言えない容姿の子供だった。
3歳だった弟は、母の不注意で沸騰したてのお湯をまともにかぶってしまった。
入院は数ヶ月に及び、
退院後も通院や手術を繰り返した。
顔にお湯がかからなかったのは不幸中の幸いだったが、
弟の手足には、大きなケロイドが残った。
看病疲れと、幼い子にやけどを負わせてしまった罪悪感で、母は精神的に追い詰められていた。
「お母さん、弟くんが入院してる時
病院の窓から飛び降りちゃおうかと何度も思ったの」
と、幼い私に母は語った。
また繰り返し母が言っていたことがある。
「やけどをしたのがヨーコちゃんじゃなくて良かった。
男の子ならケロイドもズボンで隠せるけど、
女の子だったらスカートも履けなかったし。
お嫁にいけないかもしれないもん」
子供だった私はそれを聞いて、悪い気持ちにはならなかった。
少なくとも、大やけどを負ったのが自分でなくて良かったと母が言ってくれているのだから、
弟に申し訳ない気持ちになりながら、
微かに、背徳的な嬉しさを感じていた。
母の発言の本質に気付くのは、その何十年も後のことだった。