「年が明けて何かが変わる…。」そんな思いを抱いていたのかどうかは分からないが、12月の最後の日に彼女は思いもかけないことを口にした。
「私、1月から教室へ行く!」
「そう!それは良かった。じゃあ、ここに来て私と勉強するのは今日が最後だね。嬉しいけど、何か寂しくなっちゃうな〜」と、私。
彼女は終始ニコニコしながら話した。
「あのね、今日からばあちゃんちへ行くんだ。それでね、1月の5日までずっといるんだよ。」
「それはいいね。ゆっくりできるね。おばあちゃんも一緒に…」
「うん、ママも集中して勉強できるし喜んでるよ。」
「そうだね、家族のみんなにとってサイコーの冬休みだね。」
彼女の母親が鍼灸師の資格を取るため、必死で頑張っているということを常々彼女の口から聞いている。
そのために、彼女もおばあちゃんも全面的に協力している様子もうかがえる。
おばあちゃんも、病を抱えた息子と必ずしも丈夫でない夫との暮らしが大変な様子も彼女の話から想像できる。
おばあちゃんは週末を除く毎日、夕方、電車で通って来て泊まり、翌朝に帰って行く。
彼女と関わるようになって以来、はからずも一つの都市家族の一端を垣間見ているような気がする。
一人の子どもが学校へ登校する背景には、様々な人間の思いや動きがあり、その家族固有の存立条件があり、決して一様にはとらえることができない。
だからこそ教員には何が求められるのか、言わずもがな…である。
さて、威勢よくクラス復帰宣言した彼女はどうだったのか…。
その日は母親が、登校する子どもたちを見守る当番だったようで、彼女は母と近所の子と一緒に校門をくぐったらしい。
ところが、昇降口までやって来て突然足が止まってしまったらしい。
結局そのまま母親と帰宅したという。
それを知らずに出勤した私は、しばらくしたら教室を覗きにいこうかな…と考えながら職員室へ入ったら、同僚から「◯◯さん、来たんですが、帰っちゃいました」と聞かされた。
やっぱり、そうだったのか…。
きっと彼女自身の頭の中では、「冬休み」が言わばそれまでの日常を切断して新たな日常が始まることにかけていたのではないだろうか。
しかし、年末最後の時の高揚感が、冬休み後の初日には同様に沸き起こることがなかったのだろう。
彼女の気持ちを想うと、何かいたたまれないものを感じた。
(つづく)
<すばる>
「私、1月から教室へ行く!」
「そう!それは良かった。じゃあ、ここに来て私と勉強するのは今日が最後だね。嬉しいけど、何か寂しくなっちゃうな〜」と、私。
彼女は終始ニコニコしながら話した。
「あのね、今日からばあちゃんちへ行くんだ。それでね、1月の5日までずっといるんだよ。」
「それはいいね。ゆっくりできるね。おばあちゃんも一緒に…」
「うん、ママも集中して勉強できるし喜んでるよ。」
「そうだね、家族のみんなにとってサイコーの冬休みだね。」
彼女の母親が鍼灸師の資格を取るため、必死で頑張っているということを常々彼女の口から聞いている。
そのために、彼女もおばあちゃんも全面的に協力している様子もうかがえる。
おばあちゃんも、病を抱えた息子と必ずしも丈夫でない夫との暮らしが大変な様子も彼女の話から想像できる。
おばあちゃんは週末を除く毎日、夕方、電車で通って来て泊まり、翌朝に帰って行く。
彼女と関わるようになって以来、はからずも一つの都市家族の一端を垣間見ているような気がする。
一人の子どもが学校へ登校する背景には、様々な人間の思いや動きがあり、その家族固有の存立条件があり、決して一様にはとらえることができない。
だからこそ教員には何が求められるのか、言わずもがな…である。
さて、威勢よくクラス復帰宣言した彼女はどうだったのか…。
その日は母親が、登校する子どもたちを見守る当番だったようで、彼女は母と近所の子と一緒に校門をくぐったらしい。
ところが、昇降口までやって来て突然足が止まってしまったらしい。
結局そのまま母親と帰宅したという。
それを知らずに出勤した私は、しばらくしたら教室を覗きにいこうかな…と考えながら職員室へ入ったら、同僚から「◯◯さん、来たんですが、帰っちゃいました」と聞かされた。
やっぱり、そうだったのか…。
きっと彼女自身の頭の中では、「冬休み」が言わばそれまでの日常を切断して新たな日常が始まることにかけていたのではないだろうか。
しかし、年末最後の時の高揚感が、冬休み後の初日には同様に沸き起こることがなかったのだろう。
彼女の気持ちを想うと、何かいたたまれないものを感じた。
(つづく)
<すばる>