福島、沖縄で精神科医師をしている蟻塚さんは、診療所を訪れる方々の声に耳を傾ける。
看護師としてサポートを続けるサポートチームのみなさんもご自宅を訪問し当事者のつぶやきに耳を傾ける。
その姿とは対照的に、福島の復興をアピールする政府。
津波によりお連れ合いを亡くした方、原発事故により生活が困窮し単身で働きに行っている間に息子さんが自死してしまい、自分を責め続けている方、沖縄戦で母親の背中でおんぶされている時に母親が米軍に撃たれて殺されるという経験をした方、当事者の証言に聞き入った。
いろんなしんどさを抱えながら、それでも生きようとしている福島、沖縄の人たちの声を伝える映画である。
辛さを人に話すことができない。
自分はなぜ生きているのかわからない。
何を頑張ればいいのかわからない。
こう思っている人たちに、ただ生きているだけでいい。私はあなたに救われていると伝える人たち。
鬱病ということで蟻塚医師のところに来た高齢者の話を聞くと、沖縄戦の体験が語られる。
死体の上を歩いて逃げた。
家族が殺されるのを見たなど、壮絶な体験が原因だということがわかっていく。
もうとっくに終わったはずの戦争が、体験者の人生のもっとも深いところにあり続けているということを知った。
福島原発事故から13年、語らずに語れずに、心の内に悲しみを、悔しさを、やりきれなさを、怒りを抱えて生きている多くの方々がいることを、この映画を通して知った。
「復興」という言葉の陰で、報道されない方々の声をこの映画は伝えている。
その人たちの囁く声には深い悲しみがあるが、それでもなんとか生きている姿に、背中を推される人も多いのではないだろうか。
精神科医でも看護師でもないけれど、医療従事者でなくても、私たちにできることはあるだろう。
同じ経験をしていなくても、福島、沖縄の人たちの語っていることに共感する人はいるだろう。
語ってくださった方々の声に耳を傾け、戦争や原発事故によって、何がもたらされるかを学び取って、できることを考えることくらいはできるだろう。
福島や沖縄の方々が、現状を知ってほしいという思いで実名で取材に応じてくださったと語る監督の島田陽磨さん。
6月2日(土)ポレポレ東中野にて。
<映画好き>