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神戸市立博物館リニューアル_神戸観光の目玉に大変身

2019年11月15日 | 美術館・展覧会

約2年間の改修工事を終えた神戸市立博物館がリニューアルオープンしました。
南蛮美術を筆頭に、館が誇る至宝を一堂に展示する「名品展」が、リニューアルの「披露宴」として行われています。



1Fホールは来館記念写真スポット

目次

  • 神戸市立博物館はリニューアルでどう変わった?
  • 神戸の至宝:南蛮美術の池永コレクション
  • ザビエルと銅鐸の部屋もできた
  • 1Fは入りやすく使いやすくなった


ここ数年は、全国的に美術館・博物館のリニューアル休館が目立っていました。
神戸市立博物館は、展示スペースが大きいことから、関西の大規模企画展の主要会場のひとつです。
2年近くに渡った休館中は、会場不足に起因する大物企画展の「関西飛ばし」を感じたことは否めません。
これには、同じく箱が大きい京都市美術館ならびに京都国立博物館の明治古都館と、休館時期が重なったことも影響しています。
京都市美術館も来年2020年3月にリニューアルオープンします。
展示会場としての箱は揃いました。
「関西飛ばし」はありえない。
そんな期待に、リニューアルした神戸市立博物館が応えてくれる予感を感じさせます。




神戸市立博物館はリニューアルでどう変わった?

神戸市立博物館の建物は何と言っても、旧外国人居留地を象徴するような重厚でレトロな印象が特徴でしょう。
それもそのはず、1935(昭和10)年に竣工した旧横浜正金銀行神戸支店が、1995年の阪神大震災にもびくともせず、今も使い続けられているのです。
今回のリニューアルは耐震補強が主目的ではありません。
1982(昭和57)年の開館以来、時代にそぐわなくなった利用者視点の使い勝手の改善に主眼が置かれました。
神戸市立博物館が誇る至宝の常設展示と、時代に応じたトイレやミュージアムショップといったアメニティの改善が、目に見えて「よくなった」と感じられるポイントです。



泰西王候騎馬図屏風の展示室


神戸の至宝:南蛮美術の池永コレクション

リニューアルオープンを飾る展覧会「名品展」は、自館コレクションの至宝を圧巻のスケールで披露する構成になっています。
新しくなったお披露目として、忠実に自館コレクションの魅力をプレゼンしています。
神戸市立博物館の「実力」をうかがい知る絶好の機会です。

神戸市立博物館は、1982(昭和57)年に「神戸市立南蛮美術館」と「神戸市立考古館」を統合し開設されました。
源流となった2つの館名は、現在も神戸市立博物館が誇る二大至宝を象徴しています。
その一つ「南蛮美術」は、神戸の資産家・池長孟(いけながはじめ)が蒐集したものです。

安土桃山時代から江戸初期にかけて、ヨーロッパからはるばるやって来た、今まで見たこともない異国文化を表現した作品が多数制作されました。
神戸市立博物館は、そうした「南蛮美術」では、日本最高峰のコレクションを誇ります。

【所蔵者公式サイトの画像】 「泰西王侯騎馬図」神戸市立博物館

「泰西王侯騎馬図」は、池長コレクションの最高傑作の一つでしょう。
サントリー美術館所蔵品と対を成す屏風です。
ヨーロッパの強国の帝王を描いたもので、当時の世界情勢がどのように日本に伝わっていたかをうかがい知ることができます。

こうした歴史の生き証人は、他にも多数展示されています。
「四都図・世界図屏風」は、リスボン・セビリア・ローマ・イスタンブールの4都市の繁栄の様子を描いた作品です。
400年前に遠く離れたヨーロッパの繁栄を伝えたこの絵を見た日本人は、どんな印象を持ったのでしょうか?
とてもロマンが拡がります。
「都の南蛮寺図」は、京都に1576(天正4)年に開設された教会を描いたものです。
秀吉が警戒する前、信長が受容したキリスト教の姿を見事に今に伝えています。

【所蔵者公式サイトの画像】 狩野内膳「南蛮屏風」神戸市立博物館

狩野内膳「南蛮屏風」は、南蛮美術の最高傑作として教科書でも頻繁に取り上げられています。
保存状態がよく、彩色のはがれはほとんどありません。
描写は緻密です。
黒人や虎の毛皮など、当時の日本人にとっては衝撃の「出会い」を、400年後の今に見事に伝えています。
重要文化財です。展示は前期のみです。

【所蔵者公式サイトの画像】 宋紫石「寒梅綬帯鳥図」神戸市立博物館

池長コレクションは、長崎を通じて日本の絵師たちに刺激を与えた絵画にも、目を見張るものがあります。
宋紫石「寒梅綬帯鳥図」はその中でも、傑作の一つです。
宋紫石は、1731(享保16)年に長崎に招かれて日本の絵師たちに衝撃を与えた清朝の宮廷画家・沈南蘋の画風を江戸で広めました。
それまでの日本には見られなかった写実表現を、中国から学び取っていることがストレートに伝わってきます。

【所蔵者公式サイトの画像】 沼尻墨僊「大輿地球儀」神戸市立博物館

池長コレクション以外にも、観る者を納得させる名品が揃っています。
日本最古の地球儀「大輿地球儀」は注目です。
木版印刷された世界地図を球体に張り合わせたもので、幕末に造られました。
サイエンスがいかに江戸時代に発達したかを今に伝える大珍品です。



ザビエル展示室


ザビエルと銅鐸の部屋もできた

今回のリニューアルの最大の目玉が、2F「コレクション展示室」です。
これまでなかった神戸市立博物館の主要なコレクションの常設展示エリアが設けられました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「桜ヶ丘4号銅鐸」神戸市立博物館

日本に4つしかない国宝・銅鐸の一つで、動物や農耕の様子を表した紋様の美しさが感動的です。
昨年2018年の東京国立博物館「JOMON」展では、縄文時代の土器や土偶の神秘的な美しさを強く印象付けました。
縄文の次は弥生の「銅鐸」、次のブームを予感させる見事な展示室が設けられました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「聖フランシスコ・ザビエル像」神戸市立博物館

「聖フランシスコ・ザビエル像」は、安土桃山時代にキリスト教が日本で根付いたことを明確に物語る傑作です。
大阪府茨木市の隠れキリシタンの旧家の蔵で、永らく眠っていました。
保存状態は極めてよく、400年以上前に出会った西洋文化の印象を見事に今に伝えています。
本物の展示は約2か月間ですが、それ以外はレプリカを鑑賞できます。



1Fカフェ&ミュージアムショップ


1Fは入りやすく使いやすくなった

1Fは、神戸の歴史を3次元で体感できる展示室に生まれ変わりました。

  • 国宝銅鐸が出土された古代
  • 平清盛が目を付けた天然の良港
  • 幕末の開港で花開いた異国情緒

旧居留地(横浜の関内に該当)時代を時系列に追ったジオラマは、日本の近代の発展をとてもわかりやすく表現しています。
常設展示でも2Fは有料ですが、1Fは無料です。
歴史的な建物空間の中で、館のある旧居留地の魅力をたっぷり堪能できます。

昭和の趣をひきずっていた「売店」が、令和の「ミュージアムショップ」として大変身したことも、リニューアル成果の象徴の一つです。
鑑賞する/しないに関わらず楽しめる「カフェ」は、とても入りやすい雰囲気にしつらえられています。
神戸の最大の魅力である異国情緒をしっかり楽しむことができます。

【神戸市立博物館公式サイト】 ミュージアムショップ
【神戸市立博物館公式サイト】 TOOTH TOOTH 凸凹茶房



博物館正面

神戸は横浜と共に、近年のインバウンド観光ブームに後れを取っていた感が否めません。
神戸ビーフ/スイーツ/パン/中華料理、日本を代表するような文化は神戸にはたくさんあります。
神戸市立博物館は、神戸の魅力を伝えるゲートウェイとして観光客に推奨できるスポットに、見事に「ヘンシン」しました。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



博物館の周辺、旧居留地は神戸の魅力のるつぼ


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利用について、基本情報

<神戸市中央区>
神戸市立博物館
リニューアル記念
神戸市立博物館名品展
-まじわる文化、つなぐ歴史、むすぶ美-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:神戸市立博物館、神戸新聞社
会場:3F/2F/1F展示室
会期:2019年11月2日(土)~12月22日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(土曜~20:30)

※11/24までの前期展示、11/26以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
【美術館による常設展示案内】 コレクション展示室 <2F有料エリア>
【美術館による常設展示案内】 神戸の歴史展示室 <1F無料エリア>




◆おすすめ交通機関◆

JR神戸線「三ノ宮」駅下車、西口から徒歩10分
阪急神戸線「神戸三宮」駅下車、東口から徒歩10分
阪神「神戸三宮」駅下車、西口から徒歩10分
地下鉄西神・山手線「三宮」駅下車、西出口1から徒歩10分
地下鉄海岸線「三宮・花時計前」駅下車、徒歩10分
ポートライナー「三宮」駅下車、徒歩15分
JR神戸線・阪神「元町」駅下車、東口から徒歩10分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
大阪駅→JR神戸線→三ノ宮駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都 泉屋博古館「花と鳥の四季」展_江戸花鳥画の写実表現はスゴイ

2019年11月11日 | 美術館・展覧会

京都・泉屋博古館で、住友コレクション自慢の江戸時代の花鳥画を披露する企画展「花と鳥の四季」が行われています。
狩野派・土佐派・琳派・文人画・円山四条派・若冲、江戸時代のオールスターによる花鳥画を俯瞰できる展示構成が素晴らしい展覧会です。





目次

  • カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力とは?
  • 江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?
  • 花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い






カチョウガ(花鳥画)、そのモチーフの魅力は?

絵に詳しくなかった頃、ハナトリガと読んでしまい、「お前は花鳥風月を知らないのか?」と、とても恥ずかしい思いをした記憶があります。
「カチョウガ」、確かにとても「風流」を感じさせる発音です。
絵画としてもやはり、生きものが持つ美しさを最大限に引き出した「風流」な表現が最大の魅力でしょう。

花鳥画は、大自然を雄大に描く山水画と共に、中国絵画の伝統的なモチーフです。
花鳥画が最も盛んになったのは宋代で、宮廷画家による写実的で緻密な画風「院体画」の主要モチーフとして今に伝わる名品が多く制作されました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「秋野牧牛図」泉屋博古館

本展には出展されていませんが、泉屋博古館の至宝である国宝「秋野牧牛図は、宋代の超一級品です。
大自然の中で生きる牛をモチーフに雄大に描いており、花鳥画とも山水画とも解釈できます。

日本では室町将軍が「唐物(からもの)」として珍重したこともあり、宋~元代の中国の花鳥画が盛んに輸入されました。
以来、伝統的なやまと絵と融合させた画風が狩野派で確立され、花鳥画は日本絵画においても主要なモチーフとして、すっかり定着していきます。

なお花鳥画には、植物や鳥だけでなく、動物・魚・昆虫といった生きもの全体を含めます。





江戸の絵師たちに衝撃を与えた沈南蘋(しんなんびん)とは?

江戸時代になると、生活を楽しむ余裕が町衆にまで広がり、生活空間や茶会を彩るツールとして、屏風・掛軸の形式で花鳥画のニーズがとても高まります。
動植物のモチーフは、季節感があって誰でも親しみやすいからです。
武家の間でも同じ頃、狩野派にマンネリが目立つようになっており、新しい画風が求められていました。

そんな花鳥画ニーズが高まるタイミングの1731(享保16)年、招かれて長崎にやって来たのが清朝の宮廷画家・沈南蘋です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →沈南蘋「雪中遊兎図」に注目!

沈南蘋による「雪中遊兎図」はかなり古風な趣があります。
沈南蘋は、清代に中国で主流だった文人画ではなく、宋~元代の院体画のような画風を得意としていました。

写実的で緻密な画風は、室町時代の唐物趣味を思い出させるように、瞬く間に人気に火が付きます。
沈南蘋自身の作品のほか、南蘋派と呼ばれた弟子たちの作品は、狩野派の次を担う絵師たちに大いに刺激を与えました。
その代表例が、伊藤若冲と円山応挙です。

特に応挙は、それまでの日本絵画には見られなかった、徹底的な写生を重視した描き方を確立します。
以降の日本画の主流として、円山・四条派が隆盛は続けることになります。

【美の五色】 円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

京都国立近代美術館で本展とほぼ同時並行で行われている「円山応挙から近代京都画壇へ」展でも、沈南蘋の影響が強い名品が多数展示されています。
泉屋博古館から徒歩15分ほどの距離です。
鹿ケ谷から岡崎にかけて、秋空の下で楽しむ京都の散策はいかがでしょうか?



泉屋博古館にほど近い紅葉の名所・永観堂


花鳥に込めた江戸の絵師たちの思い

今回の展覧会では、花鳥画の中でも写実表現が見事な作品が特に目立っています。

【所蔵者公式サイトの画像】 彭城百川「梅図屏風」泉屋博古館

彭城百川(さかきひゃくせん)は、柳沢淇園らとともに日本文人画の祖の一人で、与謝蕪村より20歳ほど年上の絵師です。
「梅図屏風」では、画面いっぱいの巨大な幹と枝を、きわめて緻密に表現しています。

「梅」は中国では「高潔の士」の寓意です。
文人画らしいモチーフをダイナミックに表現した名品と言えます。
その後池大雅など、文人画でも緻密な表現を得意とした絵師たちが、育っていくことになります。

【所蔵者公式サイトの画像】 伊藤若冲「海棠目白図」泉屋博古館

「海棠目白図(かいどうめじろず)」は、若冲作品の中でも愛くるしい表現が際立つ作品です。
描写は明らかに中国の花鳥画の影響を受けており、若冲が得意とした鶏の緻密な表現にもつながっていることがうかがえます。

淡い花びらが美しい中国のリンゴの仲間・海棠は、「美女」の寓意です。
その美女に花を添えるように、愛くるしいメジロが身を寄せ合うように枝にとまっています。
「目白押し」の語源となった様子は、若冲の手にかかると完璧な写実画に変身するのです。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応瑞「牡丹孔雀図」に注目!

何という美しい孔雀の羽のグラデーションでしょうか。
応挙の長男・応瑞(おうずい)にも、写生を重視する血が受け継がれていることがわかります。
孔雀に隠れるように地面から高すぎない位置に描かれた可憐な花びら、孔雀の胸のふくらみがわかる立体感ある表現、写真がなかった江戸時代には極上の写実画だったことは間違いありません。

この展覧会を見ると、同じ江戸時代でも時代が下るほどに、絵師たちは写実の腕を高めていることがわかります。
浮世絵でも同じですが、平和な時代にあって、絵師たちはたっぷりと先人の作品を見て学ぶ機会に恵まれていました。
そんな江戸絵画の潮流まで見えてくる素晴らしい展示構成を、泉屋博古館は自館コレクションだけで、できるのです。
館の実力を「否応なく思い知らされる」展覧会です。





泉屋博古館は来年2020年で開館60周年、館内では大々的な展覧会が予告されていました。
秋の「名品展」は住友コレクションの名品オールスターになるようです。
大注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



江戸の花鳥画はなぜ洗練されているのか?


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利用について、基本情報

<京都市左京区>
泉屋博古館
秋季企画展
花と鳥の四季
住友コレクションの花鳥画
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:泉屋博古館、日本経済新聞社、京都新聞
会期:2019年10月26日(土)~12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「宮ノ前町」バス停下車徒歩1分、「東天王町」バス停下車徒歩3分
地下鉄東西線「蹴上」駅1番出口からから徒歩20分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30~40分
京都駅烏丸口D1バスのりば→市バス100系統→宮ノ前町

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には無料の駐車場があります。
※休日やイベント開催時は、道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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円山応挙から近代京都画壇へ、すべては応挙から始まる_京近美

2019年11月09日 | 美術館・展覧会

秋色の京都国立近代美術館で「円山応挙から近代京都画壇へ」が行われています。
応挙はなぜスーパースターと呼ばれるのにふさわしいか?
近代までつながった円山・四条派の潮流を俯瞰したこの展覧会から、その答えを知ることができます。




 目次

  •  応挙の写生画はなぜ大流行したのか?
  •  すべては応挙にはじまる。
  •  この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?



 


 応挙の写生画はなぜ大流行したのか?


 徳川幕府が全国の支配体制を完全に確立した大坂夏の陣から101年後、1716(享保元)年は江戸絵画の大きな節目の年になります。
 琳派のスーパースター尾形光琳が亡くなったのに対し、伊藤若冲と与謝蕪村が生まれました。
 この3人の名前を見ると、特に江戸絵画のファンの方は、江戸絵画の潮流の変化を連想されることでしょう。

 光琳までの江戸時代の最初の100年は、絵画は公家/寺社/御用商人といった一握りの上流階級だけのもでした。
 しかし若冲と蕪村が生まれた次の100年は、江戸/京都/大坂の三都で人口が増え、新興の町衆が増加していきます。
 そんな時代を象徴するのが、伊勢の松阪から京都に出て大成功を収めた三井家です。

 同じ頃、京都では若冲や蕪村の作品が脚光を浴びるようになりますが、両者の作品には中国文化をモチーフにした作品が少なくありません。
 新たな町衆は、暮らしを華やげるツールとして絵画に目を向けますが、中国文化は知識人のような教養がないと理解がしづらく、まだ敷居が高いものでした。
 時代はまさに「わかりやすい絵画」を求めていたのです。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています
  →円山応挙「写生図巻」千總蔵に注目!


 そんな時代にさっそうと登場したのが、応挙の「写生画」です。
 若冲と蕪村より17歳年下の応挙は若い頃、奉公先で遠近法を駆使した風景画「眼鏡絵」を描いていました。
 また最初に応挙のパトロンとなった三井寺円満院門主・祐常のために、動物や草花といった本草学、今で言う博物学の絵を描くようになります。
 祐常は、平和な時代サイエンスに目が向けられたことで当時流行していた、本草学に造詣が深い人物でした。

 出展されている「写生図巻」は、祐常のために描いた作品を、後に応挙自身が写したものです。
 正確に写し取ることが大好きだった応挙の個性が実によく表れています。
 この作品、博物学のためのスケッチではありますが、驚くなかれ重要文化財です。

 こうした影響で、応挙は写生画に本格的に取り組むようになったと考えられています。
 応挙はまさに時代のニーズに目覚めた「寵児」だったのです。



 京近美の前の大鳥居が青空に映える


 すべては応挙にはじまる。


 展覧会の序章のタイトルです。
 鑑賞を終えた後、展覧会の魅力を凝縮したすばらしいネーミングだと感じました。
 数多の近代日本画家の源流をたどると、ほとんどが応挙にたどり着くと言っても過言ではないからです。

 【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「松に孔雀図」大乗寺
【所蔵者公式サイトの画像】 円山応挙「郭子儀図」大乗寺

 展覧会は、いきなり大作から始まります。
兵庫県の日本海側にある古刹・大乗寺に描いた襖絵です。
 大乗寺では普段レプリカがはめられていますが、本物が京都に24年ぶりにやってきました。
 前後期でほとんどの作品が展示替えされる中で、この大作は通期展示されます。
 主催者の特別な思い入れを感じさせる、重要文化財です。

 「なぜこの大作を最初に持ってくるのだろう?」と当初感じましたが、展覧会を見終わるとその理由がひらめきました。
 大乗寺の襖絵は165面もある大作で、応挙が応瑞/呉春/芦雪など主要な弟子を総動員して完成させています。
 まさに応挙がいかに多くの弟子たちを育てたかを象徴する、記念碑的作品なのです。
 「すべては応挙にはじまる。」というタイトルに、最もふさわしい作品にほかなりません。

 近年の研究では、応挙は実際に大乗寺を訪れていないと考えられています。
 本物の襖絵の他、会場には大乗寺の室内写真も多く展示されていました。
 部屋によって大きく異なる襖絵の趣が、全体としてはとても調和していることがわかります。
 実際の空間を見ずに、これだけ完璧にきめる応挙のプロデュース能力の高さには、驚愕以外の言葉が見当たりません。



 並行開催コレクション展の近代京都画壇作品(一部を除き写真撮影OK)


 この展覧会はなぜ円山・四条派の潮流がわかりやすいのか?


 「異なる画家による同じモチーフの作品がまとまって展示されている。」
 会場で足を進めると、まもなく気づきます。
 応挙から近代にいたるまで、後世の画家たちがどのように先人に学んだかがとてもわかりやすくなっています。

 例えば、前期展示では、呉春「海棠孔雀図(かいどうくじゃくず)」京都国立博物館蔵と、長澤芦雪「牡丹孔雀図」逸翁美術館蔵が並んで展示されています。
 後期ではこれが、円山応挙「牡丹孔雀図」相国寺蔵と岸駒「孔雀図」千總蔵に入れ替わります。

 応挙「牡丹孔雀図」は、2年間だけ長崎に滞在した清の画家・沈南蘋(しんなんびん)に刺激されて描いた作品と考えられています。
 沈南蘋は写実的な花鳥画の大家で、応挙以外にも若冲が大いに刺激を受けています。
 若冲の鶏の絵の多くに、どこか中国的な趣を感じませんか?

 応挙は四条河原の見世物小屋で孔雀を見たと考えられていますが、観察力の高さには目を見張ります。
 緑の羽根の無段階グラデーションを、水彩の岩絵具で描いたテクニックも感動的です。
 応挙はとんでもなく「すごい」のです。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 呉春「海棠孔雀図」京都国立博物館

 呉春の「海棠孔雀図」には文人画的な趣が残っており、呉春が洒脱な写生画を完成させる以前の見応えのある作品として秀逸です。
 芦雪の「牡丹孔雀図」は、雀が目立って多く描かれています。
 どこか敷居の高い孔雀のモチーフから少し息抜きさせるような、芦雪らしい遊び心が感じられます。
 岸駒は写生画の正統派として、御所にも出入りしていました。「孔雀図」には、師の応挙を上回る気品の高さが感じられます。





 近代の京都画壇の名品にも釘付けになります。
 多すぎてとてもすべての魅力を伝えきれませんが、以下の作品画像をぜひご覧になってください。
 応挙のまいた種がいかに見事に後世に咲き誇ったかが、本当によくわかります

 前期展示
 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 木島桜谷「しぐれ」東京国立近代柔術館
 【所蔵者公式サイトの画像】 鈴木松年「瀑布登鯉図」敦賀市立博物館

 後期展示
 【所蔵者公式サイトの画像】 幸野楳嶺「敗荷鴛鴦図」敦賀市立博物館
 【所蔵者公式サイトの画像】 塩川文麟「嵐山春景平等院雪景図」京都国立博物館

 この展覧会の魅力をもう一つ。
 作品の所蔵者に「株式会社千總(ちそう)」という名前がとてもたくさんあります。
 戦国時代の1555(弘治元)年に創業した京友禅(呉服)の老舗で、江戸時代から京都を代表する富裕な町衆として知られています。
 いわば三井家と同じような家柄であり、江戸時代に蒐集した美術品を多数、今に伝えています。

 驚きの質の高いコレクションは、烏丸三条にある本社のギャラリー内で、作品を入れ替えながら公開されています。
 京都の優れた美術館として穴場中の穴場です。ぜひ訪れてみてください。

 【公式サイト】 千總ギャラリー





 来年春2020年3月21日に、3年に渡った改修工事を終え、リニューアルオープンする京都市京セラ美術館の地下入口が、京都国立近代美術館の前で姿を表していました。
 地下から入るとはルーブル美術館のようです。
 来年春が楽しみです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 行けなくなったら、買い忘れたら、展覧会公式図録


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 利用について、基本情報

 <京都市左京区>
 京都国立近代美術館
 円山応挙から近代京都画壇へ
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局
 会場:3F展示室
 会期:11月2日(土)~12月15日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

 ※11/24までの前期展示、11/26以降の後期展示でほとんどの展示作品が入れ替えされます。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、2019年9月まで東京藝術大学大学美術館、から巡回してきたものです。
 ※会場毎に展示作品が一部異なります。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
 【美術館公式サイト コレクション展案内】



 ◆おすすめ交通機関◆

 地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
 JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には駐車場はありません。
 ※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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京博「佐竹本三十六歌仙絵」展:後編_かけがえのない歴史の生き証人

2019年11月08日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で開催中の特別展「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」のレポート、先日の前編に引き続き、後編をお届けします。
会期後半の展示室をひときわ華やげているのは女流歌人「小大君(こおおきみ)」、100年の流転を経て京都で行われている同窓会最大の人気者です。
佐竹本三十六歌仙絵のメンバーは人気者を囲みながら、残り少なくなった集う時間をしっとりと楽しんでいるようです。



秋色の京博


目次

  • 「佐竹本」を華やげる歌仙たち(後編)
  • 三十六歌仙絵は「佐竹本」だけではない
  • 「切断」はやはり、すべきでなかったのか?






「佐竹本」を華やげる歌仙たち(後編)

バラバラになった佐竹本三十六歌仙絵を集めた展覧会=同窓会は、以前にも一度だけ開かれています。
今から30年以上前の1986(昭和61)年、東京・サントリー美術館で全37点の内20点が出展され、同窓会への出席率は54%でした。
今回は全37点の内31点が出展、出席率は83%と大幅に上昇しました。
ひとえに主催者による所蔵者への働きかけの努力の”たまもの”です。
展示替えが行われた会期後半戦も、そんな努力がひしひしと伝わってくるとても内容の濃い展示が続いています。

【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

2F展示室で目立って人だかりができているところがあり、もしやと思ったらやはり、「小大君」大和文華館蔵でした。
十二単のような重ね着の、すべての裾が少しずつ見えるグラデーションのような描写は、それをまとう女性の気品を否応なく高めています。
またその裾は画面いっぱいに描かれており、ウェディングドレスのように、あるいは羽をいっぱいに広げた孔雀のように、それをまとう女性の美しさを演出しているように思えてなりません。
後ろ姿で描かれた「小野小町」に比べ、ストレートに女性らしさを表現しているところが「小大君」の最大の魅力でしょう(展示は11/6-24)。





【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 大中臣頼基」遠山記念館

大中臣頼基(おおなかとみのよりつね)は、顔の描写がまず目を引きます。
目がとても細いのに対し、眉はとても太いのですが、その両極端が妙にバランスが取れているのです。
京から遠く離れた筑波山の紅葉の美しさを読んだ見識の高さも、表情に見事に表現されています(展示は10/29-11/24)。

【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 源順」サントリー美術館

源順(みなもとのしたごう)は、都の風流人としての茶目っ気をも感じさせる、目線の描写が見事です。
池に映る中秋の名月を詠んだ歌にあわせ、絶妙の角度で水面を見つめる目線を描いています(展示は11/6-24)。

【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 「公家列影図」京都国立博物館

歌仙たちの豊かな表情にはまさに驚きの連続ですが、それを可能にしたことをうかがわせる証(あかし)が、1Fで展示されています。
「公家列影図」は、似絵(にせえ)のような写実的な表現で、著名な公家の顔の特徴を集団的に描いたものです。
平安時代は人物の顔の描写はみな同じでしたが、鎌倉時代になると一人一人描き分けるようになりました。
「公家列影図」は、そうした表情の描き分けを学ぶ手本になったと考えられています(通期展示)。





三十六歌仙絵は「佐竹本」だけではない

著名な歌人をその作品と共に描いた「歌仙絵」は、中世以降のやまと絵のモチーフとして江戸時代まで人気を保ち続けました。
この展覧会では、佐竹本以外にも見事な歌仙集や歌仙絵が多数出展されています。

「三十六人家集」本願寺蔵は、平安時代末期に写本された現存最古の三十六歌仙の歌仙集です。
歌仙の肖像はありませんが、料紙そのものや金銀泥による草花の下絵の美しさと上質感は際立っています。
三十六歌仙分がほぼ完存していることもあり、文句なしの国宝です。

背景を装飾するために紙をコラージュのように貼り合わせており、平安貴族の美意識を見事に今に伝えています(頁替、通期展示)。

【所蔵者公式サイトの画像】 「上畳本三十六歌仙絵 源重之」MOA美術館

上畳本(あげだたみぼん)とは、貴人専用の一枚の大きな畳(上畳)に歌仙が座った姿を描いていることにちなんだ名称です。
佐竹本よりやや制作時期が降る上畳本も江戸時代以前に分割されており、佐竹本より少ない16点しか現存していません。
この展覧会には内4点が出展されています。

「源重之」は、佐竹本もこの展覧会に出展されていますが、描写はわずかに異なります。
髪の毛や目線の繊細さや紙の光沢は佐竹本ほど認められませんが、上畳に座っているという構図が何と言っても個性的です。
古風な趣と気品の高さが見事に伝わってきます(展示は11/6-24)。

江戸琳派の天才・鈴木其一の名作「三十六歌仙図屛風」が、展覧会のトリを務めています。
三十六人を一堂に描いており、歌は書かれていません。
其一らしい華やかな色使いが見事で、まるで同窓会のように集まって談笑している描写が強く印象に残ります。



佐竹本の分割が行われた応挙館(現在は東京国立博物館に移築)


「切断」はやはり、すべきでなかったのか?

展覧会を見終わった後もやはり、「もし分割されずに絵巻で残っていたら」という思いを禁じることはできませんでした。
みなさんはいかがでしょうか?

現代人の常識では、物理的に美術品の形を変えてしまうことはありえません。
しかし江戸時代までは、絵巻や冊子になった歌集を分割して交換・贈答することが普通に行われていました。
安土桃山時代以降に茶会が盛んに行われるようになると、床の間を飾る掛軸の需要が高まります。
季節や客人の好みに応じて掛軸を使い分けられる方が便利であり、分割にためらいをもたなかったのです。
掛軸を中心に作品名に断簡(だんかん)と付くものをよく耳にしますが、「分割したきれはし」という意味です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「手鑑 藻塩草」京都国立博物館

この展覧会にも出展されている国宝・手鑑「藻塩草」京都国立博物館蔵(頁替、通期展示)は、「本願寺本三十六人家集」の内の人麻呂集が、安土桃山時代に分割されたものの一部です。

佐竹本の分割が行われた1919(大正8)年は、こうした常識の過渡期だったと思われます。

  • 分断しなければ、日本人には高すぎて買い手が現れない
  • アメリカの大富豪なら買えるが、かけがえのない傑作が日本から流出してしまう
  • 分割は昔から行われてきたこともあり、許してもらえるだろう

益田鈍翁や画商たちは苦渋の決断をしました。
新聞も「切断」というセンセーショナルな見出しで報道し、世間を驚かせました。

益田鈍翁は1929(昭和4)年にも「分割」を主導しています。
西本願寺が大学設立資金を得るために、「本願寺本三十六人家集」の一部売却を鈍翁に相談したのです。


【所蔵者公式サイトの画像】 藤原定信「石山切 貫之集下」和泉市久保惣記念美術館

本願寺が「三十六人家集」を天皇から下賜された際の本拠地にちなんで、鈍翁が「石山切」と名付けた断簡が3点、この展覧会にも出展されています。
和泉市久保惣記念美術館の所蔵分は、二頁対になっており、一般売却ではなく特別に配給されたものです(展示は11/12-24)。

経済的事情により文化財に手を加えることは、実は現在でもゼロではありません。代表例は建物です。
ビルや町屋など、老朽化や使い勝手の悪さから、取り壊して建て替えられる例が続出しています。
近年は外壁を再利用して趣を残すような工夫はされていますが、取り壊していることには変わりはありません。
欧米では、地震がなく石造りで頑丈な建物が多いこともあり、文化財として価値のある建物を取り壊すようなことはありえません。



来年春の京博は「西国三十三所」

日本は建物以外では世界一、いにしえの美術品を今に伝えている国です。
流転の運命にさらされた佐竹本も、日本で生まれたからこそ、生き延びてこられたのでしょう。
世界の中でもかけがえのない歴史と文化の生き証人です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


展覧会でも一番人気の小大君(こおおきみ)


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利用について、基本情報

<京都市東山区>
京都国立博物館
特別展
流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都国立博物館、日本経済新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、京都新聞
会場:平成知新館
会期:2019年10月12日(土)~ 11月24日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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黄不動の彫像、世界最古のビザ_大津 三井寺の至宝が特別公開

2019年10月19日 | お寺・神社・特別公開

大津市の三井寺(園城寺)で、天皇陛下ご即位記念の特別参拝・公開が行われています。
 国宝の仏画・黄不動を模した、まばゆい輝きを放つ「金色明王立像」や、世界最古のビザで知られる国宝など、三井寺が誇る至宝にたっぷりとお会いできます。
 紅葉もとてもいい感じです。





 目次

  •  日本有数の苦難に見舞われながらも、日本有数の至宝を伝える
  •  幻想的な金堂内陣で、黄不動尊にお会いできる
  •  文化財収蔵庫にも国宝が勢揃い



 日本有数の苦難に見舞われながらも、日本有数の至宝を伝える

 中世の延暦寺との抗争や、秀吉による謎の闕所(けっしょ、寺領没収)など、三井寺は数々の苦難を乗り越え生き抜いてきたことから「不死鳥の寺」と呼ばれています。

 延暦寺との抗争では数十回以上焼討にあっていますが、開祖の智証大師・円珍(ちしょうだいし・えんちん)が中国から持ち帰った経典や大切な仏像を、その都度避難させています。
 三井寺は中世では常に、藤原氏・源氏・足利氏といった時の権力者と良好な関係を築いていました。
 時の権力者にとっては扱いが厄介な延暦寺を、けん制する思惑もあったと思われます。
 焼討後に伽藍の復興が都度進んだのも、こうした権力者による庇護があったためでしょう。

 秀吉による闕所の際も、国宝の智証大師像や黄不動尊などの三井寺の至宝は京都に避難させ、難を逃れています。
 闕所は3年で解かれ、三井寺を不憫に思った高台院の寄進で、現在の国宝の金堂が再建されます。
 現在の寺観は、ほぼこの頃に整えられたものです。

 寺の宝を守り続ける不屈の精神が、日本トップクラスの文化財の質と量を誇る現在の三井寺を形作りました。
 今回特別公開される至宝には、そんな苦難を生き抜いてきた「生命力」が備わっているように感じてなりません。





 幻想的な金堂内陣で、金色明王にお会いできる

 特別公開には複数のプログラムが用意されていますが、期間を通して行われるのは「金堂内陣」「文化財収蔵庫」の2か所だけです。
 金堂の内陣は絶対秘仏の本尊・弥勒菩薩を安置する最も神聖な場所であり、普段は公開していません。
 金銅の室内で通常拝観できるのは、内陣をぐるりと一周する外陣だけです。

 【特別公開公式サイトの画像】 「黄不動尊立像」「護法善神立像」三井寺

 その内陣には、いずれも重要文化財の「金色不動明王(黄不動尊)立像」「護法善神立像」が安置され、両秘仏との結縁(けちえん)の儀式を受けた後に、お会いすることができます。

 護法善神立像(ごほうぜんしんりゅうぞう)は智証大師の守護神で、母のような女神としてあがめられてきました。
 平安時代末期の造立ですが、中国風の衣装には彩色がかなり残っています。
 穏やかな女性のお顔立ちで祈る者を見つめる姿は、キリスト教のマリア像のようです。
 普段は、子供の成長を祈る5月中旬の千団子祭の1日しか公開されません。

 黄不動尊立像(きふどうそんりゅうぞう)は、日本の仏画の最高傑作の一つで、三井寺が最も大切にする至宝でもある国宝・黄不動を模して鎌倉時代に彫像されました。
 私は仏画の黄不動にもお会いする機会を得たことがありますが、この彫像は本当に仏画とそっくりです。
 それどころか、彫像であるため立体感がわかりやすく、荒々しさと美しさを兼ね備えた黄不動尊の見事なプロポーションがよりわかりやすくなっています。
 不動明王としての神秘性をことさら増す金色のボディの輝きは、内陣の光が抑えられた空間の中では、まるで後光がさしているようです。
 黄不動尊も智証大師の守護神で、中国へ渡る途上の危機の際に現れ、智証大師を救ったと伝えられています。
 普段は、今回の特別公開の対象となっている国宝・智証大師像と共に唐院大師堂に安置されていますが、定期的な公開は行われていません。
 今回の特別公開はとても貴重な機会になりました。



 唐院の潅頂堂と三重塔


 智証大師ゆかりの建物と文化財を収蔵する唐院エリアは少し高台にあり、三井寺にとっては金堂と共に最も神聖なエリアです。
 今回の特別公開では11/16~12/8の期間限定で、重文の潅頂堂・三重塔に加え、初公開となる長日護摩堂の3つの堂宇が公開されています。
 潅頂堂は後水尾天皇、三重塔は徳川家康が寄進したものです。
 桃山・寛永文化の優美な趣が、借景の山の緑と青い空にとてもよく映えています。



 文化財収蔵庫に展示される国宝の解説パネル


 文化財収蔵庫にも国宝が勢揃い


 文化財収蔵庫は、三井寺の寺宝の常設展示施設です。
 普段は国宝・勧学院客殿の狩野光信筆の重文・障壁画の”本物”を中心に展示が行われていますが、今回の特別公開では2点の「至宝中の至宝」が、展示に加わっています。
 いずれも智証大師が中国から持ち帰ったもので、国宝です。

 【特別公開公式サイトの画像】 「五部心観」「越州都督府過所&尚書省司門過所」三井寺

 1点目は「五部心観(ごぶしんかん)」です。
 9cに唐で造られた現存世界最古の金剛界曼荼羅で、繊細な墨線で金剛界を構成する諸尊をとても緻密に描いています。
 諸尊を供養する僧の描写もとても写実的で、唐における絵画表現のレベルの高さを実感できる傑作です。

 2点目は「越州都督府過所&尚書省司門過所」で、世界最古のビザ(査証)として知られています。
 円珍が平安時代半ばの855年に長安に向かう際に、越州と尚書省の2か所で現地の官吏から発給された過所(かしょ)です。
 交付した官庁名と旅行者名、目的地、旅行目的、発給日が記載されており、通行許可証として現代のビザと同じ体裁です。
 約1,200年前です。世紀の大珍品です。





 三井寺はいつ訪れても、建物や仏像をはじめさまざまな文化財の質の高さには感銘を受けます。
 今回の特別公開でも、訪れる者は100%、心を豊かにして家路につくことになるでしょう。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 淡交社の古典的名著「古寺巡礼」シリーズ


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 利用について、基本情報

 <滋賀県大津市>
 園城寺(三井寺)
 ご即位記念 「秘仏結縁」
 【寺による行事公式サイト】

 特別ご開扉 国宝・金堂内陣参拝(会場:金堂)
 特別公開 三井寺の至宝(会場:文化財収蔵庫)
   会期:2019年10月1日(火)~12月8日(日)

 特別公開 国宝・勧学院客殿(会場:勧学院)
   会期:2019年10月1日(火)~10月20日(日)

 特別ご開帳 国宝・智証大師坐像(中尊大師)(会場:唐院大師堂)
   会期:2019年10月29日(火)〜11月4日(月)

 特別公開 重文・唐院潅頂堂、長日護摩堂、重文・三重塔(会場:唐院)
   会期:2019年11月16日(土)~12月8日(日)

 以下、共通
   原則休館日:なし
   入館(拝観)受付時間:8:00~17:00、「三井寺の至宝」は8:30~16:00

 ※この特別公開は定期的に行われるものではありません。

 園城寺(三井寺)
 【公式サイト】http://www.shiga-miidera.or.jp
 【寺による観光公式サイト】http://miidera1200.jp/



 ◆おすすめ交通機関◆

 京阪石山坂本線「三井寺」駅下車徒歩10分、「大津市役所前」駅下車徒歩10分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
 京都駅→JR湖西線→大津京駅→京阪石山坂本線→大津市役所前駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には有料の駐車場があります。
 ※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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