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中国仏像、かけがえのない造形_大阪市立美術館「仏像 中国・日本」展

2019年10月16日 | 美術館・展覧会

天王寺・大阪市立美術館で「仏像 中国・日本」展が行われています。
大阪市立美術館が誇る中国の美仏コレクションを中心に、悠久の中国の仏像造形の歩みをしっかりと体感できる展覧会に仕上がっています。





目次

  • 大阪市立美術館の美仏コレクションの魅力
  • 中国で最初に仏教美術が花開いた北魏時代
  • 日本仏像のルーツ、隋唐時代にあり
  • 江戸時代になっても日本に影響を与えていた






大阪市立美術館の美仏コレクションの魅力

この展覧会に出展されている中国の仏像はすべて日本にあるもので、全国の美術館や寺から貸し出されています。
うち半分近くを大阪市立美術館の所蔵品が占めており、中国石仏では日本屈指の名品揃いで名高い「山口コレクション」が中でも秀逸です。

山口コレクションは、戦前に関西屈指の財閥だった山口家の中心人物の一人・山口謙四郎が蒐集したものです。
ちなみに謙四郎の兄・吉郎兵衛(四代目)は山口家の当主で、芦屋のモダンな邸宅は現在、彼の収集した日本の古美術コレクションを展示する適翠(てきすい)美術館になっています。

大阪市立美術館は、日本でも有数の個人コレクションの寄贈が多い美術館でもあります。
この展覧会で、社会党の衆議院議員だった田万清臣(たまんきよおみ)、小野薬品工業社長だった小野順造、両コレクションの美仏にもお会いすることができます。





中国で最初に仏教美術が花開いた北魏時代

展覧会のプロローグは、中国に仏教が伝来する前、紀元前3-4cの春秋戦国時代です。
仏像を偶像の一つととらえ、仏教礼拝の対象として造立される前に着目しているところに、この展覧会の奥の深さをうかがわせます。

【展覧会 公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「銀製男子立像」永青文庫は、兵馬俑よりも古い今から2300年以上前の銀の像です。
古代人の魂が今に伝わるように感じさせる造形は、10cmほどしかない小さい像ながら、圧巻のオーラを放っています。重要文化財です。

中国で最初に本格的に仏教美術が興隆したのは5-6cの北魏の時代です。
世界遺産の雲崗と龍門の石窟が、中国仏教美術の至宝としてよく知られています。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来坐像」大阪市立美術館

北魏時代466年に造られた銘が刻まれている「石造如来坐像」も目が離せません。
石仏らしいおおらかな温もりのある表現には、思わず手を合わせてしまいます。
山口コレクションの名品の一つです。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来三尊像」大阪市立美術館

「石造如来三尊像」は、日本古来の仏像配置の基本となった「三尊」形式の原点のように見受けられます。
どんな人々の祈りをも受容できると思わせる、包容力のある表現は感動的です。





日本仏像のルーツは隋・唐時代にあり

日本に仏教が伝来したのは、飛鳥時代が幕開けする直前の6c半ば。
聖徳太子が活躍する時代のおよそ半世紀前です。
遣隋使・遣唐使を通じて、仏教を軸とした中国の最先端文化が怒涛のように日本にもたらされます。
飛鳥・奈良時代は、日本が最も中国の文化を吸収していた時代でした。

「石造菩薩立像」大阪市立美術館は、隋時代初期のすましたような顔立ちが印象的な石仏です。
彩色が部分的に残されており、後の唐三彩のカラフルな描写を彷彿とさせます。
明らかに日本の仏像ではないと感じさせる名品です。
山口コレクションの重要文化財です。

「観音菩薩立像」堺市博物館は、隋時代の「木造」仏像として現存する世界唯一の作例とみられています。
日本の白鳳仏と共通する、エキゾチックなボディラインと抽象的な表情が印象的です。重要文化財です。

【所蔵者公式サイトの画像】 「銅造薬師如来坐像」奈良国立博物館

「銅造薬師如来坐像」は奈良時代に日本で制作されたものですが、お顔の表情は同時代の仏像とは異なります。
中国的な頬のふくよかさがあり、唐時代の中国仏像を範としたようです。

【Google Arts & Culture の画像】 「石造如来立像頭部(河南・龍門石窟奉先寺洞将来)」大阪市立美術館

「石造如来立像頭部」は、唐時代に造営された竜門石窟にあったものです。
西域文化の影響を強く受けた、唐時代らしいお顔立ちが強く印象付けられます。
実際に西域の人の顔を見ることがない日本の仏師には、なめらかな頬のラインや深い目の彫りは絶対に表現できないでしょう。
小野コレクションの名品です。





江戸時代になっても日本に影響を与えていた

遣唐使による交流が終わっても、留学僧を通じて中国文化は常に日本に持ち帰られていました。

【所蔵者公式サイトの画像】 「木造観音菩薩坐像(楊貴妃観音)」泉涌寺

京都・泉涌寺の至宝「楊貴妃観音」が放つまばゆい輝きは、常に観る者に安らぎを与えます。
正面から見ると伏し目がちに見えますが、下から見上げるとちょうど目線が合うように計算された造形も独特の趣です。
展示は10/12-10/20ですが、展覧会には泉涌寺留学僧が南宋から持ち帰った他の仏像が多数展示されています。
日本と一味異なる南宋仏の造形は、仏像という偶像芸術の魅力を一層高めてくれるでしょう。

「木造観音菩薩坐像」清雲寺も南宋仏の名品です。
片膝を立てて座りながら、観る者を誘惑するような目線が何とも艶めかしく感じられます。

【所蔵者公式Instagramの画像】 「木造韋駄天立像」萬福寺

江戸時代の中国仏像は、長崎の華僑寺院や京都・萬福寺の建立により、多くがもたらされました。
「木造韋駄天立像」は、まさに空から飛んでやって来たような躍動感の表現が抜群です。
歌舞伎役者が見えを切ったような目線とポーズの造形も、日本ではなかなか見られません。


日本の仏像を交えながら、中国仏像の変遷を追いかけた展示には、好奇心が全く途切れることはありませんでした。
加えて中国の美仏がこんなにも日本に伝来していることにも驚かされます。
大阪市立美術館の「仏像」をテーマにした企画展は、やはり奈良国立博物館と並んで「格別」です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



どんな部屋にも合う不思議なほとけ様


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利用について、基本情報

<大阪市天王寺区>
大阪市立美術館
特別展
仏像 中国・日本
中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:大阪市立美術館、読売新聞社、NHK大阪放送局、NHKプラネット近畿
会期:2019年10月12日(土)~12月8日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

JR・大阪メトロ「天王寺駅」、近鉄「大阪阿部野橋」駅、阪堺電車「天王寺駅前」駅下車
各駅から天王寺公園内を通って徒歩5~10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR大阪駅(梅田駅)→大阪メトロ御堂筋線→天王寺駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。有料の天王寺公園地下駐車場が利用できます。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京博「佐竹本三十六歌仙絵」展_中世の超絶技巧に驚愕:前編

2019年10月14日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で特別展「佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」が行われています。
 歌仙絵の最高傑作がちょうど100年前にバラバラになって以降、37作品中31作品が揃うという、過去最高の出席率を記録している”同窓会”です。



 目次

  •  「佐竹本」はなぜ美しいのか?
  •  「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?
  •  「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)


 「かけがえのない美術作品がどのようにして今に伝わっているのか」、展覧会では流転のいきさつにきちんとスポットをあてています。
 三十六歌仙絵の最高傑作の美しさは、歴代のオーナーはもちろん、観る者全員の心をとらえて離しません。
 内容が濃いだけにレポートも濃くなります。今回は前編です。





 「佐竹本」はなぜ美しいのか?

 日本美術は西洋美術とは異なり、単にモチーフを作品名としてきたため、同名の作品が数多く存在ます。
 そのため「~本(ぼん)」という、過去や現在の主だった所有者もしくは作者を指す表現で区別します。
 江戸時代の久保田(秋田)藩主・佐竹家に伝来したので「佐竹本」です。

 「三十六歌仙絵」とは、名立たる歌人の中から36人を厳選した、いわば”歴代歌人オールスター”です。
 平安時代半ばの藤原道長の時代に、文化人として最高峰にあった藤原公任(きんとう)が選定しました。
 鎌倉時代半ばにラインナップが定着し、現代に至るまで信奉を集めています。

 数ある三十六歌仙絵の中でも、佐竹本が最高傑作と目されるのは、何と言っても絵画としての美しさです。
 例えば、平安時代の絵巻物の登場人物は、皆一様に蟇目鉤鼻(ひきめかぎばな)で描かれており、顔の個性の違いはほとんどわかりません。
 一方、鎌倉時代半ばに造られたと考えられる佐竹本は、それぞれ顔つきが異なります。
 当時流行していた似絵の影響で、絵師は歌仙の個性をより明確に描き出そうとしたのです。

 各歌仙の顔の大きさは5cmほどしかありません。ぜひ単眼鏡を用意していきましょう。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 平兼盛」MOA美術館

 大晦日の慌ただしさをなげく平兼盛のうつむいた表情には、風流に長けた一流の文化人ならではの憂いを見て取れます(展示は11/10まで)。
 目線や唇の動きを交え、音や風に振り向くような一瞬をとらえた描写は、あたかも写真のように、歌に詠まれたシーンを感じさせます。
 佐竹本の絵師は藤原信実(のぶざね)と永らく伝えられてきましたが、最新の研究では否定的です。
 いずれにしろ、鎌倉時代の絵師の超絶技巧が強烈に印象付けられます。

 紙や絵具も超一級品で、贅沢な金泥もふんだんに使われています。
 鑑賞された多くの方は、中世の絵巻物としてはかなり美しいという印象を持つでしょう。
 高級で頑丈な素材に加え、保管状態が永らく良好でした。
 このように絵画作品を成立させるほとんどの要素とコンディションが、超一級なのです。

 現在は佐竹本のほとんどの作品は重要文化財です。
 100年前に「切断」されておらず、全員分が現存していれば、すでに国宝になっていた可能性が高いと思えてなりません。



 京博広報担当「トラりん」、営業お疲れ様です


 「流転100年」、佐竹本の数奇な運命とは?

 鎌倉時代半ばに製作されたと考えられている佐竹本は、江戸時代に京都・下鴨神社で見たという記録がある以外、佐竹家が所蔵することになった由縁を含め、伝来はまったく不明です。
 そんな謎めいた伝来に加え、現在の価値観では信じがたい絵巻の「切断」が行われたことが、佐竹本の流転の運命を強く印象付けています。

 絵巻/屏風/襖絵といった複数の画面に描かれた作品を「分割」することは、日本では古来、珍しくありません。
 大正時代に益田鈍脳によって行われた佐竹本の「分割」は、余りに高額なため、ばら売りで買い易くする方法として採用されました。
 佐竹本は刃物で物理的に「切断」したわけではなく、絵巻の継ぎ目をはがしています。厳密には「分割」が正しい日本語です。

 【展覧会 公式ミニ動画】 NHK もっと、佐竹本 三十六歌仙絵。

 1919(大正8)年の切断からちょうど100年後の今年2019年、展覧会図録の解説によると、全37点中3品が行方不明と見られます。
 残る13点が個人所有、17点が私立美術館・寺社所有、国所有が4点です。
 超一級の日本美術の所蔵先としては、個人所有が目立って多く、国所有がかなり少なくなっています。
 私立美術館・寺社所有の多くは、佐竹本を入手した数寄者が設立した美術館です。
 数寄者=茶人の間での佐竹本の人気の高さは、脈々と続いています。

 一方佐竹本の「流転の運命」を如実に物語る数字もあります。
 100年前の切断・分割販売から、まったく所有者が変わっていないのは、わずか2点しかありません。
 野村証券の創業者・野村徳七が引き当て、現在は京都・野村美術館に収まる「紀友則」と、住友家当主・春翠が購入し、現在は京都・泉屋博古館に収まる「源信明」です。
 自分を本当に大切にしてくれる主人と出会い、一級の美術品が安住の地を得るのはとても困難なのです。





 「佐竹本」を華やげる歌仙たち(前編)

 佐竹本三十六歌仙絵は、平成知新館の2Fに集中して展示されています。
 作品の配置にはかなり余裕があります。

 【展覧会公式サイト みどころ】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

 大伴家持、在原業平、紀貫之、小野小町といったビッグネームの歌人が続々登場します。
 「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」、雅な言葉の響きに記憶がありませんか?
 そう、古今和歌集の在原業平の名歌です。佐竹本にも登場します。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」出光美術館

 中世の歌人にとって、万葉集の時代の「柿本人麿」は、歌聖と呼ぶに等しい伝説的な存在です。
 古くから歌会に掛ける歌人の肖像画として珍重されたため、佐竹本以外にも多数が出展されています。佐竹本では、仙人のように悟りを開いたかのような表情で描かれています(展示は10/29-11-10)。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「佐竹本三十六歌仙絵 源信明」泉屋博古館

 源信明(みなもとのさねあきら)は、月を詠んでいるにもかかわらず、どこか浮かない表情で下を向いています。恋心が通じない信明の表情の描写が絶妙です(通期展示)。


 


 一人一人表情が異なるのが、やはり見事です。
 佐竹本の他の歌仙、他の歌仙絵、歌の名筆、江戸時代の歌仙絵と見応えはまだまだあります。
 100年前の「切断」で使われたくじ引き道具といった、珍品もあります。

 後期展示の作品を交え、後日後編として続きをレポートします。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 35年前に初めて絵巻の消息をたどったNHKの伝説のドキュメンタリー番組を書籍化


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 利用について、基本情報

 <京都市東山区>
 京都国立博物館
 特別展
 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美
 【美術館による展覧会公式サイト】
 【主催メディアによる展覧会公式サイト】

 主催:京都国立博物館、日本経済新聞社、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、京都新聞
 会場:平成知新館
 会期:2019年10月12日(土)~ 11月24日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

 ※会期中6回に分けて一部展示作品/場面が入れ替えされます。
  詳細は「展示替えリスト」PDFでご確認ください。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
 京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
 JR「京都」駅から徒歩20分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
 京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
 ※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
 ※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
 ※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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「日本の素朴絵」展 ゆるかわの名品が勢揃い_京都 龍谷ミュージアム

2019年10月11日 | 美術館・展覧会

京都・龍谷ミュージアムで行われている「日本の素朴絵」展を見てきました。
展覧会のサブタイトル「ゆるい、かわいい、たのしい美術」の通り、アニメのようにほのぼのとした日本美術を楽しむことができます。



目次

  • 美術用語としての「素朴絵」に注目
  • 素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも
  • ”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い
  • 庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ
  • 埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が



美術用語としての「素朴絵」に注目

この展覧会では、「うまい・へた」の物差しでははかれない、「ゆるく・とぼけた・あじわいのある」絵画を「素朴絵」と定義しています。
展覧会を監修した跡見学園女子大学・矢島新教授が、松涛美術館の学芸員時代以来、長年取り組んできたテーマです。
最初にこの用語を耳にしたとき、とても上手なネーミングだと感じました。
「ゆるかわ絵」というとベタすぎるのに対し、洗練されていてとても知的な美術用語っぽく聞こえます。

西洋絵画でも「素朴派」という用語がありますが、画家の特徴を示します。
アンリ・ルソーに代表される、19c末に活躍したプロの画家ではない、素人の日曜画家たちです。

「素朴派」という言葉はあまり知られておらず、そもそも西洋絵画のオールドマスターには「素朴絵」に該当する作品はほとんどありません。
展覧会を見て、日本美術の新しいジャンルの定義として「素朴絵」という用語がもっと知られるよう、応援したくなりました。
日本人も外国人もみんな、アニメを彷彿とさせる「素朴絵」を知ると、必ずや魅了されます。




素朴な”ゆるかわ”日本美術をテーマにした展覧会がこんなにも


2019年は、本展以外にも「素朴絵」にスポットをあてた展覧会が非常に目立っています。

  • 3月「ゆるカワ日本美術」福岡市博物館
  • 3月「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」府中市美術館
  • 7月「本展 東京会場」三井記念美術館
  • 7月「かわいいかわいい妖怪展」三次もののけミュージアム
  • 10月「大津絵 -ヨーロッパの視点から-」大津歴史博物館


他にも、江戸時代の”ゆるかわ”の画僧・仙厓(せんがい)にスポットをあてた展覧会が、近年は少なくありません。
「素朴絵」は、もはや日本美術の「サブカル」ではなく、広範囲にファンを獲得できるまでに進化してきたとまで感じさせます。



龍谷ミュージアムの中庭はいつ見ても心が落ち着く


”ゆるかわ”絵巻は鳥獣戯画より面白い

展覧会は5つの章で構成されています。

  • 第1章 絵本と絵巻
  • 第2章 庶民の素朴絵
  • 第3章 素朴な異界
  • 第4章 知識人の素朴
  • 第5章 立体に見る素朴


【公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第1章「絵本と絵巻」では、全国の美術館から集められた「素朴絵」の名品がずらり並んでいます。

日本民藝館蔵「つきしま絵巻」「うらしま絵巻」は室町時代の説話集・御伽草子の絵巻の一つです。
庶民にも理解しやすいよう、紙芝居のように物語がほのぼのと表現されているところが注目されます。
両作品を見ていて鳥獣戯画との違いが気になりました。
鳥獣戯画を楽しんだのは主に知識人です。
そのため動物によるパロディであっても、描写は洗練されています。
両絵巻のほのぼのとした人間臭い表現は、鳥獣戯画とは真逆です。
素朴さというたまらない魅力は、鳥獣戯画にはありません。

【所蔵者公式サイトの画像】 「鼠草子絵巻」サントリー美術館

「鼠草子絵巻」も御伽草子ですが、こちらの描写には人間臭さは感じられません。
物語内容にあわせ、さまざまな描写の「素朴絵」が存在することに、見入ってしまいます。




大人も子供も展覧会を楽しめます


庶民も知識人も”ゆるかわ”を楽しんだ

第2章「庶民の素朴絵」では、大津絵(おおつえ)の名品が楽しめます。

【所蔵者公式サイトの画像】 「大津絵 鬼の三味線引図」大津市歴史博物館

大津絵とは、京都の一つ手前の東海道・大津宿で、江戸時代に旅人の土産物やお守りとして名物となった風刺画です。
「鬼の三味線引図」は放蕩する男性を風刺した作品で、まるでピクトグラムのように戒めへの思いが伝わってきます。後期のみ展示です。

第4章「知識人の素朴」では、江戸時代の知識人や著名な絵師も「素朴絵」を楽しんでいたことがわかります。

【所蔵者公式サイトの画像】 尾形光琳「竹虎図」京都国立博物館

「竹虎図」は、京都国立博物館のゆるキャラ「トラりん」になったことですっかり有名になりましたが、筆者はあの尾形光琳です。
琳派を代表する洗練された表現からは想像がつかないほど、ゆるく表現されています。
遊び上手だった光琳ならではの、”粋”でしょう。


埴輪や仏像にも”ゆるかわ”が

高槻市立今城塚古代歴史館蔵の埴輪は「力士」と名付けられています。
古墳時代に「力士」がいたのか?と叫びそうになりますが、その造形を見るとすぐに納得です。
あんこ型のおなかを手でたたこうとするような造形は、確かに「力士」にしか見えません。

満願寺蔵「薬師如来坐像」は、巨大な団子鼻が強烈な印象を醸し出します。
しかし仏像にしてはかなり胸板が厚く造形されており、団子鼻と妙にバランスがとれているところが、”傑作”です。



ミュージアムの裏にこんな絵になる建物があります

実に内容のしっかりした展覧会で、”素朴な”日本美術の名品を、これほどまでに多様に集めたことに驚かされます。
日本美術の多様性は」中世からすごかった」と、叫んでしまう展覧会でした。


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



展覧会監修・矢島教授が届ける”ゆるかわ”の決定版


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利用について、基本情報

<京都市下京区>
龍谷ミュージアム
特別展
日本の素朴絵 -ゆるい、かわいい、楽しい美術-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:龍谷大学龍谷ミュージアム、毎日新聞社、京都新聞、NHK京都放送局、NHKプラネット近畿
会場:2,3階展示室
会期:2019年9月21日(土)~11月17日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※10/20までの前期展示、10/22以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、2019年9月まで三井記念美術館、から巡回してきたものです。
※会場毎に展示作品が一部異なります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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「聖域の美」奈良 大和文華館_寺社の境内図は時代の記録写真

2019年10月09日 | 美術館・展覧会

奈良・大和文華館で特別展「聖域の美」が行われています。
寺社の境内図というあまり聞きなれないモチーフを主題とした展覧会ですが、展示の質の高さは大和文華館ならではです。



 目次

  •  中世の寺社は、大学であり企業でもあった
  •  宗教施設の境内図は西洋絵画では見かけない
  •  Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳
  •  Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内
  •  Ⅲ章 境内の記憶と再興
  •  Ⅳ章 にぎわう境内


 境内図や登場人物から、大河ドラマの時代考証のような生き生きとした空間の描写を楽しむことができます。
寺社境内図はいわば、いにしえの空間の記録写真のようなものです。


 中世の寺社は、大学であり企業でもあった

 現代の感覚で寺社と言えば、荘厳な空間、積み重ねた歴史、自然との調和といった、祈りと観光の場です。
 現代のようになったのは江戸時代になってからで、それまでの中世ははるかに大きい存在感を示していました。

 中世以前の日本は、最先端の知識は寺社に属するほんの一握りの人しか持っていませんでした。
 平安時代半ばに遣唐使を廃止して以降、中国から最先端の知識を持ち帰ったのはほとんどが留学僧だったからです。
 科学や産業から芸術に至るまであらゆる”知”を有し、現在の大学と企業を併せたような存在でした。
 大河ドラマで尊敬される「和尚さん」が描かれるのも、町一番の物知りだからです。


 宗教施設の境内図は西洋絵画では見かけない

 この展覧会を見て「西洋絵画で境内図を見たことがない」と、ふと感じました。

 聖堂を描いた絵画はたくさんありますが、組織としての教会の存在感をアピールすると言うよりも、町の名所を描いた風景画のように感じられます。
 聖堂の中に描かれた絵画でも、神話や聖書のシーンをモチーフにしたもの以外、見た記憶がありません。

 日本の寺社の境内図は、正倉院に東大寺の境内図が収められており、奈良時代にまでさかのぼることができます。
 中世から膨大な数の作品が現在に伝わっており、「寺社の境内図」というテーマで展覧会を構成できるほどです。

 この違いはなぜなのか、歴史や文化の違いから考察してみました。

  •  キリスト教の聖堂は町の中心の広場に面してあり、特別なエリアという概念はない。日本の寺社は郊外にあって壁で囲まれており、境内が特別なエリアと感じさせる。
  •  中世のキリスト教会は、領主をもひれ伏せさせる権力を持っており、ブランドをアピールする必要がなかった。日本では政治権力を握る寺社はほとんどなく、貴族や武家など有力な支援者の獲得を競った。
  •  キリスト教は宗祖・キリストと聖書という絶対的な信奉対象がある。仏教は宗祖・釈迦がのこした聖典がなく、釈迦よりも各寺院の開祖を重んじることが多い。

 日本では寺社の境内の壮麗さや賑わいを絵画で伝えることによって、自らのブランドをアピールしてかったと感じています。
 信者や経済的利益の獲得競争という、リアルな歴史が生み出した産物の一つが「境内図」でしょう。

   


 Ⅰ章 聖域の静謐と荘厳

 展覧会は4つの章で構成されています。
 日本の寺社境内図の変遷を、時代背景を追いながら理解できるようになっています。

 Ⅰ章「聖域の静謐と荘厳」では、鎌倉時代までの作品で構成されています。
 神聖な場所として境内の様子が荘厳に描かれた作品が多く、高貴な趣が感じられます。
 仏教はまだ庶民からは距離があったことをうかがわせます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「一字蓮台法華経」大和文華館

 大和文華館が、原三渓から受け継いだトップクラスの名品が展覧会の幕を開けます。
 いちじれんだいほけきょう、平安時代末期に制作された経典です。国宝です。
 絵巻物語のように貴族と僧侶が祈りをささげる姿が描かれており、仏教に深く帰依していた当時の貴族階級の空気を見事に表しています。
 色彩がよくのこり、大切に守られてきた作品だと感じさせます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「日吉曼荼羅図」大和文華館

 ひえまんだらず、比叡山の守護神である日吉大社の境内図で、それぞれの社殿に鎮座する本地仏(ほんじぶつ)が描かれています。
 平安時代は、仏が人々を救うために神の姿で現れると信じられおり、本地仏とは神の本来の姿を指します。
 如来や菩薩として描かれた神の姿は緻密で、金泥で装飾されていることからとても荘厳です。
 高貴な人の祈りの対象として制作されたと考えられています。重要文化財です。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 「高野山水屏風」京都国立博物館

 こうやせんずいびょうぶ、金剛三昧院に伝わった屏風で、大門から奥の院に至る高野山上の全景を描いた珍しい屏風です。
 僧侶や人々に加え動物の様子までもがリアルに描かれており、さながら洛中洛外図の高野山版といった趣の名品です。
 重要文化財です。



 大和文華館の玄関


 Ⅱ章 物語をはぐくむ場所 縁起と境内

 Ⅱ章「物語をはぐくむ場所 縁起と境内」では、鎌倉時代後半から制作されるようになった大型の掛幅(かけふく)に描かれた縁起物語や境内図が登場します。
 掛幅とは天井からつるす巨大な掛軸のような絵画で、一度に大勢に布教するために製作されたと考えられています。
 庶民にも仏教が拡がっていく時代だったことがうかがえます。

 【所蔵者公式サイトの画像】 「かるかや」サントリー美術館

 かるかやとは説教の物語の一つで、遍歴僧らが中世に各地で布教するために用いた、現代で言う紙芝居のような趣の作品です。
 マンガのように親しみやすく人物や風景が描かれており、とてもほのぼのとしています。


 Ⅲ章 境内の記憶と再興

 Ⅲ章「境内の記憶と再興」は、室町時代に製作された境内図で構成されます。
 寺社は戦乱・火災・天災で伽藍を失うことが幾度もあり、再建時に往時の姿をイメージするために造られた境内図も少なくないようです。
 「慧日寺絵図」恵日寺蔵は、会津で中世に繁栄した、今はなき巨大伽藍の姿を目にすることができます。とても重厚感のある作品で、発掘調査の際にも参考にされました。


 Ⅳ章 にぎわう境内

 Ⅳ章「にぎわう境内」は、戦国の世が終わり平和な生活を謳歌する人々の様子が生き生きと描かれた作品が登場します。

 【文化庁・文化遺産オンラインの画像】 狩野松栄「釈迦堂春景図屏風」京都国立博物館

 しゃかどうしゅんけいずびょうぶ、春の嵯峨釈迦堂に参拝する人々がとても明るい表情で描かれています。
 桜の下では酒宴が開かれており、商店で品定めをしている人もいます。
 今まで見た境内図に比べ、描かれた人の多さとにぎやかな雰囲気は一目瞭然です。





 寺社の境内図と言う一見不思議なテーマ設定に惹かれて鑑賞しましたが、寺社の姿から日本の歴史を学べたように感じられ、大いに満足できました。
 展示作品は全国の美術館や寺社から集まっており、名品がきちんと選りすぐられていることもわかります。
 是非お勧めです。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 中世の寺社境内でどのような文化や経済が行われていたのか?

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 利用について、基本情報

 <奈良県奈良市>
 大和文華館
 特別展
 聖域の美 ―中世寺社境内の風景―
 【美術館による展覧会公式サイト】

 会期:2019年10月5日(土)~11月17日(日)
 原則休館日:月曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

 ※10/27までの前期展示、10/29以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



 ◆おすすめ交通機関◆

 近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

 JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
 JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には無料の駐車場があります。
 ※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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嵐山らしい美術館が誕生_福田美術館 開館記念コレクション展

2019年10月07日 | 美術館・展覧会

京都・嵐山でしか体験できない空間が10/1にオープンしました。福田美術館です。
 開館記念「福美コレクション展」では、江戸・近代の日本美術の名品を渡月橋と大堰川の絶景をのぞみながら楽しむことができます。



 目次

  •  福田美術館とは?
  •  最先端の鑑賞提案
  •  近代京都画壇の名品をカバーしている
  •  江戸絵画の名品もカバーしている


 嵐山の絶景をのぞみながら、質が高くブレのないコレクションを味わうことができます。
 快適な鑑賞を後押しする、日本の美術館では稀有な鑑賞システムも整えています。
 嵐山を訪れる機会がありましたら、ぜひ訪れてみてください。
 とても斬新な印象を受けることほぼ間違いなしです。



 福田美術館とは?


 館名はコレクターを表しています。消費者金融大手・アイフルの創業者で、現在も社長を務める福田吉孝氏です。
 出身地の京都でアイフルを10代で創業し、日本屈指の大富豪として知られるようになった立志伝中の人物です。

 美術館創設のために15年を費やし、約1,500点を蒐集しました。
 京狩野から近代の竹内栖鳳らまで、京都で活躍した絵師たちの名品を俯瞰することができます。
 江戸の風俗画・浮世絵、竹久夢二、加山又造や近代西洋絵画も一部所蔵しており、京都画壇の名品とは一味違う刺激を与えてくれます。



 縁側のような開放感のある廊下


 美術館は、渡月橋から2分ほど歩いた川沿いにあります。
 廊下に2フロアぶち抜きの巨大なガラス壁が設置されています。
 目に飛び込んでくる嵐山の四季折々の絶景と清々しい陽光が、名品を見る前にワクワク感を高めてくれます。
 「今、私は嵐山にいる」、展示室に入る前にこの廊下を通るだけで、強く実感できます。


 最先端の鑑賞提案


 写真撮影OKとスマホ無料音声ガイド、この2点が日本の美術館ではまだまだ珍しいシステムです。

 「福美コレクション展」では、著作権が有効な作品を除いて、ほぼ「写真撮影OK」です。ただしフラッシュはNG。
 なお「撮影OK」といっても、「第三者の顔をそのまま投降」「商用利用」といった最低限のNG利用は意識しなければなりません。

 スマホ無料音声ガイドは、作品リストに表示されているQRコードで指定サイトにアクセスし、利用することができます。
 アプリのダウンロードは不要で、ヘッドホンだけのレンタルもあります。
 公開サイトへのアクセスですので、鑑賞後にあらためて作品解説を楽しむこともできます。

 企画展に頼らず館蔵品を売り物にしたい美術館にとって、ファンづくりを重視した興味深い最先端の鑑賞提案です。



 美術館入口


 展示エリアは3つに分かれています。1Fが近代日本画、2Fが江戸絵画、渡月橋をのぞむパノラマギャラリーが近代西洋絵画です。


 近代京都画壇の名品をカバーしている


 【美術館公式サイト:コレクション】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

 1Fではまず、竹内栖鳳らしい超繊細なモフモフ感の「猛虎」が観る者を出迎えてくれます。
 その隣には同じく栖鳳の「金獅図」が並んでいます。
 栖鳳の猛獣画は、この両作品のように口を開けて描かれている作品が目立ちます。
 荒々しい息遣いを感じさせるところが栖鳳流です。

 上村松園「軽女悲離別図」は、大石内蔵助が江戸に下る前夜の愛妾・お軽との別れを描いています。
 松園ならではの、お軽の凛とした気概の描写がとても清らかに感じられます。

 木島櫻谷「遅日」は、春が近づく温かみのある柔らかな情景を、墨だけで表現した絶品です。
 近年評価が高まる櫻谷のスゴ腕を感じさせます。



 展示室の様子

 「黒き猫」で知られる菱田春草は、「白き猫」を描いてもさすがです。「梅下白猫」は猫の真っ白な毛並みが陽光に輝いており、梅と合わせて早春の情景を見事に表現しています。

 「切支丹波天連渡来之図」は竹久夢二が、東寺流行していた南蛮趣味を見事に表現しています。宣教師と遊女と言う不思議な組み合わせが、京都画壇の作品にはない夢二の個性を強烈に感じさせます。

 福田コレクションは近代京都画壇を代表する画家を俯瞰しており、それぞれの作品からは画家の個性を充分に感じ取ることができます。
 続いてご紹介する江戸絵画も然り、ぶれることなく名品をカバーしています。


 江戸絵画の名品もカバーしている


 深江芦舟が「草花図屏風」で六曲一隻に描いた四季の移ろいには、師の光琳の洗練さよりも、宗達と伊年作品のような柔らかい華やかさが感じられます。
 重要文化財にふさわしい名品です。

 「茶筵酒宴図屏風」は、談笑する人たちが囲む赤い机の色を際立たせることで、与謝蕪村一流の洒脱感を表現しています。
 白い肌に浮かぶ口紅のようにとても効いています。

 伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」は、12羽も描いた”鶏”に単調さはなく、それぞれの個性が見事です。
 若冲はん、流石です。

 「薬玉図」は、”構図の妙”が何と言っても魅力的な長沢芦雪らしい名品です。
 垂れ下がるツツジの花と葉だけを画面上に描き、下には茎はありません。
 右下隅に落款を入れることで下の空間を引き締めています。
 こちらも、芦雪はん、流石です。

 

 北斎「墨堤三美人図」は、印象派作品のように鮮やかに、都市の日常の光景として隅田川に佇む女性を描き出しています。
 オーダー品の肉筆画だからこそ、北斎にこんな優雅な表現を可能にさせています。

 2Fパノラマギャラリーでは、カミーユ・ピサロ「エラニーの積み藁と農婦油」が注目されます。
 西洋絵画は少数の展示ですが、正面に見える渡月橋と共に、濃厚な日本美術にひたった余韻に、爽やかな風を送り込んでくれます。

 パノラマギャラリーの下はカフェ、東京や大阪で話題の「パンとエスプレッソと」です。
 福田美術館の隣でいつも外国人観光客で大行列のアラビカ・コーヒーとは異なり、静寂の空間の中で極上のコーヒーと渡月橋の絶景を楽しむことができます。

 隣接する嵯峨嵐山文華館とのお得な共通チケットも発売されています。
 美術館が少なかった嵐山に、福田美術館が新たな魅力を加えました。

 展覧会は11/20からのII期展示で大幅に展示替えされます。2回行きましょう。



 アラビカの大行列は相変わらず、


 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



 現代の京都画壇の人気の実態や如何に?


 → 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
 → 「美の五色」 サイトポリシー
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 利用について、基本情報

 <京都市右京区>
 福田美術館
 開館記念
 福美コレクション展
 【美術館による展覧会公式サイト】

 主催:福田美術館、日本経済新聞社、京都新聞
 会期:2019年10月1日(火)~2020年1月13日(月・祝)
 原則休館日:火曜日
 入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

 ※11/18までのI期展示、11/20以降のII期展示で展示作品/場面が全面的に入れ替えされます。
 ※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

 ※この美術館は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
  フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。
 ※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




 ◆おすすめ交通機関◆

 JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅下車、南口から徒歩12分
 京福電鉄・嵐山本線(嵐電、らんでん)「嵐山」駅下車、徒歩4分
 阪急電鉄・嵐山線「嵐山」駅下車、徒歩11分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
 京都駅→JR嵯峨野線→嵯峨嵐山駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には障がい者や車いすの方だけが利用できる駐車場があります。
 ※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。

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