(2004/フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール共同監督/アンドレス・パソス、ミレージャ・パスクアル、ホルヘ・ボラーニ エルマン、ダニエル・エンドレール、アナ・カッツ、アルフォンソ・トール/94分)
5月7日のNHK-BS放送の録画。幾つかのご贔屓ブログで取り上げられていたのでタイトルを覚えていた映画です。
<サンダンス・インスティテュートとNHKの協賛による「サンダンス・NHK国際映像作家賞」の支援で製作された作品で、東京国際映画祭でグランプリに輝き、カンヌ映画祭でも国際批評家賞などを受賞した>とのこと。
舞台は南米ウルグアイ。内陸にあるパラグアイではなくて、ラ・プラタ川の河口の東側に広がる小国の方だ。
親から引き継いだであろう小さな靴下工場を営む初老の男ハコボ(パソス)が主人公。従業員は中年の大人しく真面目な女性マルタ(パスクアル)と若い女工が二人。
毎朝、工場の前でマルタが社長を待ち、遅れてきた社長がシャッターを押し上げて二人して中に入る。電灯をつけ、機械のスイッチを押す。マルタは先ず2階に上がり、社長のために紅茶をいれて持ってくる。ハコボは、最近壊れたブラインドの様子を見ながら、『すまんな。』と礼を言う。十年一日のように繰り返される朝の行事。特に優しく挨拶を交わすでも無く、淡々とした人生がお似合いの二人だ。この朝の出勤シーンは何度か繰り返し描かれ、仕事の合間に、窓辺に座って独りで煙草をふかしているマルタのショットも何度か出てくる。
ある日、ハコボが退社前のマルタに頼み事があると言う。それは、明後日に迫った亡き母親の墓石式にやってくる弟の手前、夫婦のフリをしてくれないかということだった。
ハコボは独身。母親は一年前に亡くなったんだが墓石を作ってなく、葬式に来れなかった弟が今回は休みをとってブラジルからやって来るという。『私一人では、弟の世話は大変なんだ。』とハコボは言うが、要するにいつまでも独身で居たというのは負けず嫌いの兄としては恥ずかしい事だし、母親の世話をしていた為に結婚できなかったと弟に思われるのも嫌だったのだろう。
こちらも独身のマルタは『2、3日のことでしょう?』と引き受けるが、(明後日の事なのに)夫婦のフリをするにはそれなりの準備があるだろうに、なかなかそっちの話を始めないハコボを心配する。とりあえず、『二人の写真が要るのでは?』と、写真館に行って写真を撮る。笑顔を作るのに、日本では『チーズ♪』などと言うが、ウルグアイではこう言うらしい。『ウィスキー♪』。【原題:WHISKY】
弟のエルマンは兄と違って気さくで明るい男だった。ブラジルで同じように靴下工場を経営していて、景気はよさそう。子供たちも大きくなっていて、大学生の娘は医者を目指しているとの事だった。
墓石の建立も終わり、ハコボは弟がすぐに帰るだろうと思っていたが、エルマンはせっかくだからマルタと三人でリゾート地に遊びに行こうじゃないかと提案する・・・。
ある程度映画慣れした人でないと、こういう作品は楽しめないのかも知れません。行間を読むというか、空気を読むというか。
仮の夫婦を頼まれた日の、会社帰りのマルタのバスの中の横顔。直接、家には帰らず(結局、マルタの自宅は出てこない)、何故か映画館に入っているマルタ。何の映画かは分からず、席に座っている彼女のシルエットだけが写される。
こういうシーンでの彼女の心情をどう読むか。観客の想像力が試される映画ですね。
▼(ネタバレ注意)
面白みのないハコボの元で、長年勤め続けたマルタ。多分、彼女はハコボを憎からず思っていたのでしょう。思いもよらぬ仮の夫婦の提案に、ひょっとしたらという思いもあったはず。それが、同じベッドで眠ろうが、同じホテルの部屋で過ごそうが、手も握らないハコボに落胆もしたはず。
そして、兄と違って冗談を言い、気を使ってくれるエルマンに惹かれる。
リゾートホテルでの最後の夜が、ハイライト。(ま、元々地味な作風なので、ドキドキすることはありませんが)
三人は食事の後の歌謡ショーを楽しみ、エルマンは生演奏でラブ・ソングを披露する。マルタが席を外した時にエルマンは、新しい機械でも買ってくれと、両親をまかせっきりにした詫びの意味も含めて兄貴にお金を渡す。
最後の夜だが、相変わらずマルタとハコボには何も起きない。
部屋に帰った後、ハコボは一人でカジノへ行き、ベッドで寝ていたマルタはエルマンの部屋のドアをノックする・・・。
翌日、空港で別れるエルマンに、『後で読んで。』とメモを渡すマルタ。
アパートに帰った後、謝礼だと小さな包みをマルタに渡すハコボ。実はそれは、エルマンにもらったお金を元手にカジノで儲けたお金だった。タクシーで帰途につくマルタの、哀しげな横顔。
ラスト・シーンが印象的。
序盤の出勤シーンが再現されるも、マルタの姿だけ見えない。紅茶もハコボがいれる。女工は、ラジオをつけていいかと聞く。ハコボは『勘弁してくれ。』と言った後、『マルタが来たら、彼女に聞いてくれ。』と言い直す。
さて、マルタはやって来るのか?
画面では、靴下工場の機械が動き続けている。(エンドクレジット)
▲(解除)
尚、脚本にも参加したフアン・パブロ・レベージャ監督は、2006年に32歳で亡くなったそうです。銃による自殺とのことでした。
5月7日のNHK-BS放送の録画。幾つかのご贔屓ブログで取り上げられていたのでタイトルを覚えていた映画です。
<サンダンス・インスティテュートとNHKの協賛による「サンダンス・NHK国際映像作家賞」の支援で製作された作品で、東京国際映画祭でグランプリに輝き、カンヌ映画祭でも国際批評家賞などを受賞した>とのこと。
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親から引き継いだであろう小さな靴下工場を営む初老の男ハコボ(パソス)が主人公。従業員は中年の大人しく真面目な女性マルタ(パスクアル)と若い女工が二人。
毎朝、工場の前でマルタが社長を待ち、遅れてきた社長がシャッターを押し上げて二人して中に入る。電灯をつけ、機械のスイッチを押す。マルタは先ず2階に上がり、社長のために紅茶をいれて持ってくる。ハコボは、最近壊れたブラインドの様子を見ながら、『すまんな。』と礼を言う。十年一日のように繰り返される朝の行事。特に優しく挨拶を交わすでも無く、淡々とした人生がお似合いの二人だ。この朝の出勤シーンは何度か繰り返し描かれ、仕事の合間に、窓辺に座って独りで煙草をふかしているマルタのショットも何度か出てくる。
ある日、ハコボが退社前のマルタに頼み事があると言う。それは、明後日に迫った亡き母親の墓石式にやってくる弟の手前、夫婦のフリをしてくれないかということだった。
ハコボは独身。母親は一年前に亡くなったんだが墓石を作ってなく、葬式に来れなかった弟が今回は休みをとってブラジルからやって来るという。『私一人では、弟の世話は大変なんだ。』とハコボは言うが、要するにいつまでも独身で居たというのは負けず嫌いの兄としては恥ずかしい事だし、母親の世話をしていた為に結婚できなかったと弟に思われるのも嫌だったのだろう。
こちらも独身のマルタは『2、3日のことでしょう?』と引き受けるが、(明後日の事なのに)夫婦のフリをするにはそれなりの準備があるだろうに、なかなかそっちの話を始めないハコボを心配する。とりあえず、『二人の写真が要るのでは?』と、写真館に行って写真を撮る。笑顔を作るのに、日本では『チーズ♪』などと言うが、ウルグアイではこう言うらしい。『ウィスキー♪』。【原題:WHISKY】
弟のエルマンは兄と違って気さくで明るい男だった。ブラジルで同じように靴下工場を経営していて、景気はよさそう。子供たちも大きくなっていて、大学生の娘は医者を目指しているとの事だった。
墓石の建立も終わり、ハコボは弟がすぐに帰るだろうと思っていたが、エルマンはせっかくだからマルタと三人でリゾート地に遊びに行こうじゃないかと提案する・・・。
ある程度映画慣れした人でないと、こういう作品は楽しめないのかも知れません。行間を読むというか、空気を読むというか。
仮の夫婦を頼まれた日の、会社帰りのマルタのバスの中の横顔。直接、家には帰らず(結局、マルタの自宅は出てこない)、何故か映画館に入っているマルタ。何の映画かは分からず、席に座っている彼女のシルエットだけが写される。
こういうシーンでの彼女の心情をどう読むか。観客の想像力が試される映画ですね。
▼(ネタバレ注意)
面白みのないハコボの元で、長年勤め続けたマルタ。多分、彼女はハコボを憎からず思っていたのでしょう。思いもよらぬ仮の夫婦の提案に、ひょっとしたらという思いもあったはず。それが、同じベッドで眠ろうが、同じホテルの部屋で過ごそうが、手も握らないハコボに落胆もしたはず。
そして、兄と違って冗談を言い、気を使ってくれるエルマンに惹かれる。
リゾートホテルでの最後の夜が、ハイライト。(ま、元々地味な作風なので、ドキドキすることはありませんが)
三人は食事の後の歌謡ショーを楽しみ、エルマンは生演奏でラブ・ソングを披露する。マルタが席を外した時にエルマンは、新しい機械でも買ってくれと、両親をまかせっきりにした詫びの意味も含めて兄貴にお金を渡す。
最後の夜だが、相変わらずマルタとハコボには何も起きない。
部屋に帰った後、ハコボは一人でカジノへ行き、ベッドで寝ていたマルタはエルマンの部屋のドアをノックする・・・。
翌日、空港で別れるエルマンに、『後で読んで。』とメモを渡すマルタ。
アパートに帰った後、謝礼だと小さな包みをマルタに渡すハコボ。実はそれは、エルマンにもらったお金を元手にカジノで儲けたお金だった。タクシーで帰途につくマルタの、哀しげな横顔。
ラスト・シーンが印象的。
序盤の出勤シーンが再現されるも、マルタの姿だけ見えない。紅茶もハコボがいれる。女工は、ラジオをつけていいかと聞く。ハコボは『勘弁してくれ。』と言った後、『マルタが来たら、彼女に聞いてくれ。』と言い直す。
さて、マルタはやって来るのか?
画面では、靴下工場の機械が動き続けている。(エンドクレジット)
▲(解除)
尚、脚本にも参加したフアン・パブロ・レベージャ監督は、2006年に32歳で亡くなったそうです。銃による自殺とのことでした。
・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】 
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こういう小品が放送されるのは良いことですね。
但し、これを取り上げているブログはあんまり見かけませんが。
>女は自分の枠を破戒できるけど、男って案外と日常の枠を破壊出来ないのかしらね。そんなこともチラッと思ったわ。
作ったのは男性でしょうから、その辺、意識していたのかも知れないですね。
本作、十瑠さんもあれこれ考えながらご覧になってらしたみたいね。私も十瑠さんみたいにあれこれ考えたストーリーを書きたくなったけど、でも、これはそれぞれの人生なのだから…な~んて考えたりしてね。知らず知らず彼らに寄り添って観ているんですよね。
監督が自殺されたんですか?
知らなかったです。
オカピーさんが指摘されているようにカウリスマキに加えジム・ジャームッシュのテイストですね。
女は自分の枠を破戒できるけど、男って案外と日常の枠を破壊出来ないのかしらね。そんなこともチラッと思ったわ。
コンゴとも宜しくです!
大方の人と同じく私も後半の方が好きでして、例えば、海辺の店のゲーム機(UFOキャッチャー?)でカメラを取ろうとしている兄貴を尻目に、マルタとエルマンが砂浜で談笑している場面なんかが妙に記憶に残っています。
ホテルのトイレで考え事をしているマルタとか、カジノに行く前に廊下の椅子で新婚カップルの話を聞いているハコボとかも・・。
特に前半、どうということもない工場での日常が3回も繰り返されますよね。でも、日々、微細な変化があって、ヒロインのマルタが少しずつ綺麗になっていく。
なんだか、すっごく微笑ましいような、滑稽な味が絶妙で良かったです。
ここまではプロフェッサーご指摘のカウリスマキ調ですね。
後半はロード・ムーヴィーになって、ジャームッシュのテイストに近いでしょうか。
大方の人は後半の方が動きがあって好きなのかもしれませんが、私は前半の日常描写が好き。ちょっと後半は退屈しました^^;
結局、3回も繰り返した工場の描写が、最後の最後で効いてきて、マルタのいない日がやってくる。寂しい、侘しい・・・それでいて、ハコボには以前と同じ日々がこれからも続いていく。
いい味の映画でした。
私は本作を、監督の自殺を知ってから衛星で観ました。
惜しいですよね。ウルグアイという、ほとんど映画が作られない国の新進気鋭の青年監督なのに。監督のご冥福を祈りつつ・・・。
コレも微妙な作品でしたが、嫌みはなかったですネ。
実は、カウリスマキもジャームッシュも未見でして、先日、某ブログでコメントの白熱した「ブロークン・フラワーズ」は、もう少しでレンタルするところでしたが、諸事情により延期となりました^^。
田宮さんは「悪名」とか、TVの「高原へいらっしゃい」とか好きでした。極度の鬱病からの自殺だそうで、残念なことでした。
観た当時はカウリスマキ的なミニマリズムを感じたのですが、内容的にカウリスマキで、タッチ的には寧ろジム・ジャームッシュのほうが近いかもしれません。どちらもミニマリズムの代表的作家ですけど。
確かに行間が読めない方には厳しい作品かもしれませんね。
そうですか、自殺ですか。
若いみそらで、何があったのかなあ。
最近見直した「華麗なる一族」では青年実業家(仲代達矢)が猟銃自殺。この映画に出演した田宮二郎が真似して、数年後に猟銃自殺したのを思い出します。
何だか、年をとると、妙に昔のモノがつい昨日のことのように感じられたりするモンですが、姐さんの記事も、はっきり覚えてました。ウルグアイとか、ウソの夫婦の設定とか・・。
>もうあのテンポの映像は観れないのね。
もう一人のストール監督の方も脚本に携わっているし、頑張って欲しいですね。
ああいう呼吸の映像が作れる人は、他のジャンルでもイイ写真を撮ると思うんですけどねぇ。
すんごく懐かしい気がするわ~。(^^)
今読んだら笑っちゃった。
だってすんごいシンプルな書き方でえらくショート!(笑)
それが今ではどうでしょ。誰かさんのおかげで(笑)写真もいっぱい入れれるようになって・・・益々・・・ホニョモニョになって・・・(^^;)
えっ!監督さん、お亡くなりになったの?
自殺?32歳・・じゃ本作の後すぐにじゃないの~。
なにがあったんでしょう。
遅ればせながらご冥福を。
もうあのテンポの映像は観れないのね。合掌。