(1949/ジョセフ・L・マンキウィッツ監督・脚本/ジーン・クレイン、リンダ・ダーネル、アン・サザーン、カーク・ダグラス、ポール・ダグラス、ジェフリー・リン、セルマ・リッター、声のみ:セレステ・ホルム/103分)
劇場公開中の新作の次は、約60年前のクラシック映画を選びました。去年の正月に買っていた1コインDVDの鑑賞。
コロンビア大学を卒業後、新聞記者を経て、脚本家の兄の紹介で映画会社に字幕製作者として入社。その後脚本も手がけるようになり、プロデューサーの経験を経て、46年に監督デビューしたマンキウィッツの40歳の時の作品。この映画で、アカデミー監督賞と脚色賞をダブル受賞し、翌年の「イブの総て」でも監督賞と脚色賞をダブル受賞した。当に映画人として絶好調の頃の映画です。
「イブの総て」の後も二度監督賞にノミネートされ、最後のノミネート作品「探偵<スルース>(1972)」は、私は封切時に劇場で見ることが出来ました。
上記の二作以外には「裸足の伯爵夫人(1954)」くらいしか観たことがなく、複雑な人間心理の綾を描くのが巧い監督というイメージで、今作もお得意の回想形式を取り入れて、洒落た心理サスペンス+コメディ・タッチも入った品格ある作品でした。
マス釣りの出来る大きな川、チェーン・ストア、薬局、百貨店が並ぶ大通り、そして教会や学校もある“ありふれた小都市”。大都会まで列車で30分ほどの所にあるそんな町の、高級住宅地に住む三組の夫婦の話。
その町で一、二を争う名家の跡取りブラッド・ビショップ(リン)は、終戦後、戦時中に海軍で知り合ったデボラ(クレイン)と結婚している。幼なじみのジョージ・フィップ(K・ダグラス)は、同じく幼なじみのリタ(サザーン)と結婚して双子の子宝にも恵まれ、百貨店を経営しているポーター・ホリンズウェイ(P・ダグラス)はバツイチで、ローラメイ(ダーネル)と3年前に再婚している。
5月の第一土曜日。三人の奥さんは、子供会の世話で船に乗って近くの島へピクニックに行くことになっており、帰ってきてからは、地元のカントリークラブでのディナー・ダンスに夫婦して出かけることになっていた。ところが、ブラッドは仕事の都合で今夜は帰れないかも知れないと言うし、教師をしているジョージは、いつもの土曜日は魚釣りに行くのに、その日は朝からスーツを着て出かけて行った。
車で船着き場に着いたデボラとリンに、ローラメイは、『アディ・ロスが町を出たらしいわよ。』と言う。
アディ・ロス。ブラッドやジョージの幼なじみで、昔から何かと人の噂にあがる女性。頭が良くて資産家、社交的で気が利く彼女は男達の憧れの存在だった。デボラ達が船に乗り込もうとした時に郵便配達員がやって来て、三人宛のアディからの手紙を渡す。別れの挨拶と共に、そこにはこう書いてあった。
『今日、あなた達の内の一人のご主人と駆け落ちします。』
悪戯ではないかと思いながらも、三人の妻達はそれぞれ、駆け落ちの相手は自分の夫ではないかと思いながら一日を過ごすことになる。【原題:A LETTER TO THREE WIVES 】
冒頭から女性のナレーションで、町の紹介やら、ビショップ夫婦、フィップ夫婦の紹介がされる。それが噂のアディ(ホルム)の語りで、意味深な台詞も入り、ちょっぴりミステリアスなニュアンスも伝わってくる。
デボラは、ディナー・パーティーにとブラッドが薦めてくれたドレスが、先日見かけたアディが着ていたのと同じだったと気にしているし、リタはジョージが正装して出かけた理由を『(彼は)話してくれないのよ。』と言う。
子供たちの世話をしながら、三人はアディ絡みの夫との思い出を辿るのだった・・・。
▼(ネタバレ注意)
デボラはこの町にやってきて、初めてディナー・ダンスに行った日の事を思い出す。長く軍服を着ていたためにドレスは4年前に買ったモノしかない。初めてブラッドの友人達や町の人達と会うのに恥ずかしい、と劣等感にさいなまれている彼女を優しく励ましてくれたのがリタだった。
ダンス会場ではポーターとローラメイにも初めて会う。そして、アディ・ロスとも。
デボラ達のテーブルに、高価なお酒が届けられる。それがアディからのデボラへの歓迎のプレゼントだった。
リタはラジオの脚本家。ジョージの教師の給料だけでは高級住宅地に住むことは出来ない。それはジョージも割り切っていた。
リタは、家にラジオ局の上司を呼んだ夜のことを思い出す。大学時代に脚本の勉強もしてしていたジョージにラジオ製作の仕事を紹介し、あわよくば一緒に脚本を書き、夫婦逆転している収入を夫優位にしようと思ったからだった。
お客が来る前に、あるプレゼントが届けられる。アディからのレコードのプレゼント。それはジョージの大好きなクラシックのLPで、その日はジョージの誕生日だった。優しいジョージはリタを許してくれたが、その夜の会食は最後は上司への対応で夫婦ゲンカになってしまい、ジョージは外に出て行ってしまった。
あの夜は、ポーターとローラメイも来てくれた。二人は辛辣な皮肉を言い合う夫婦になっていた。
ローラメイとポーターのエピソードが、三人の過去話の中では一番面白い。
既に百貨店を7つ経営し、バツイチになっていたポーターが初めてローラメイをデートに誘う所からスタートする。彼の店で働いていたローラメイを見初めたポーターだが、結婚する気はない。鉄道が側を通る度に台所が小刻みに揺れる、そんな家で育ったローラメイが、お色気を巧みに使った男女の駆け引きでポーターを落とすまでが面白く描かれている。
ポーターが結婚を渋っているのは一度失敗したからだけではない。アディへの想いが存在するのをローラメイは感じていた。
▲(解除)
ピクニックから帰った三人。
デボラに執事が渡してくれた『今夜は帰れそうにない。』という伝言はブラッドからではなく、ある女性からだった。
ジョージは、リタより先に帰っていた。
そして、ポーターが居ない家に帰り着いたローラメイは、同居している母親に『これからは二人で生きていきましょう。』と言うが、『ポーターがお前を捨てるわけはない。』という母親の言うとおり、しばらくして彼は帰ってくる。
さて、ラストシーンは、その日の夜のダンスパーティー。一体誰がアディと駆け落ちしたのか? それとも、あの手紙は・・・。
撮影はオスカー三度受賞のアーサー・C・ミラー。
音楽は大御所中の大御所、アルフレッド・ニューマン。リタやローラメイが回想に入る時に、BGMが台詞のように聞こえたり、物音が人間のお喋りに聞こえたりする面白い音の使い方がありました。こんな昔からあった技術とは知りませんでした。
ローラメイを演じたリンダ・ダーネルが色っぽくて素敵でしたが、忘れもしません、彼女はJ・フォードの名作「荒野の決闘(1946)」に酒場の女で出てましたネ。
セルマ・リッター! 家政婦の似合う女優№1! 今回も面白くて可笑しくて、強い印象が残りました♪
尚、アディの手紙の意図が納得いきかねているのと、三つに分けた回想形式というのが、ストレートな構成が好きな私としてはお好みに合わず、お薦め度は★一つマイナスしました。
後味は、とてもよろしいです♪
劇場公開中の新作の次は、約60年前のクラシック映画を選びました。去年の正月に買っていた1コインDVDの鑑賞。
コロンビア大学を卒業後、新聞記者を経て、脚本家の兄の紹介で映画会社に字幕製作者として入社。その後脚本も手がけるようになり、プロデューサーの経験を経て、46年に監督デビューしたマンキウィッツの40歳の時の作品。この映画で、アカデミー監督賞と脚色賞をダブル受賞し、翌年の「イブの総て」でも監督賞と脚色賞をダブル受賞した。当に映画人として絶好調の頃の映画です。
「イブの総て」の後も二度監督賞にノミネートされ、最後のノミネート作品「探偵<スルース>(1972)」は、私は封切時に劇場で見ることが出来ました。
上記の二作以外には「裸足の伯爵夫人(1954)」くらいしか観たことがなく、複雑な人間心理の綾を描くのが巧い監督というイメージで、今作もお得意の回想形式を取り入れて、洒落た心理サスペンス+コメディ・タッチも入った品格ある作品でした。
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その町で一、二を争う名家の跡取りブラッド・ビショップ(リン)は、終戦後、戦時中に海軍で知り合ったデボラ(クレイン)と結婚している。幼なじみのジョージ・フィップ(K・ダグラス)は、同じく幼なじみのリタ(サザーン)と結婚して双子の子宝にも恵まれ、百貨店を経営しているポーター・ホリンズウェイ(P・ダグラス)はバツイチで、ローラメイ(ダーネル)と3年前に再婚している。
5月の第一土曜日。三人の奥さんは、子供会の世話で船に乗って近くの島へピクニックに行くことになっており、帰ってきてからは、地元のカントリークラブでのディナー・ダンスに夫婦して出かけることになっていた。ところが、ブラッドは仕事の都合で今夜は帰れないかも知れないと言うし、教師をしているジョージは、いつもの土曜日は魚釣りに行くのに、その日は朝からスーツを着て出かけて行った。
車で船着き場に着いたデボラとリンに、ローラメイは、『アディ・ロスが町を出たらしいわよ。』と言う。
アディ・ロス。ブラッドやジョージの幼なじみで、昔から何かと人の噂にあがる女性。頭が良くて資産家、社交的で気が利く彼女は男達の憧れの存在だった。デボラ達が船に乗り込もうとした時に郵便配達員がやって来て、三人宛のアディからの手紙を渡す。別れの挨拶と共に、そこにはこう書いてあった。
『今日、あなた達の内の一人のご主人と駆け落ちします。』
悪戯ではないかと思いながらも、三人の妻達はそれぞれ、駆け落ちの相手は自分の夫ではないかと思いながら一日を過ごすことになる。【原題:A LETTER TO THREE WIVES 】
冒頭から女性のナレーションで、町の紹介やら、ビショップ夫婦、フィップ夫婦の紹介がされる。それが噂のアディ(ホルム)の語りで、意味深な台詞も入り、ちょっぴりミステリアスなニュアンスも伝わってくる。
デボラは、ディナー・パーティーにとブラッドが薦めてくれたドレスが、先日見かけたアディが着ていたのと同じだったと気にしているし、リタはジョージが正装して出かけた理由を『(彼は)話してくれないのよ。』と言う。
子供たちの世話をしながら、三人はアディ絡みの夫との思い出を辿るのだった・・・。
▼(ネタバレ注意)
デボラはこの町にやってきて、初めてディナー・ダンスに行った日の事を思い出す。長く軍服を着ていたためにドレスは4年前に買ったモノしかない。初めてブラッドの友人達や町の人達と会うのに恥ずかしい、と劣等感にさいなまれている彼女を優しく励ましてくれたのがリタだった。
ダンス会場ではポーターとローラメイにも初めて会う。そして、アディ・ロスとも。
デボラ達のテーブルに、高価なお酒が届けられる。それがアディからのデボラへの歓迎のプレゼントだった。
リタはラジオの脚本家。ジョージの教師の給料だけでは高級住宅地に住むことは出来ない。それはジョージも割り切っていた。
リタは、家にラジオ局の上司を呼んだ夜のことを思い出す。大学時代に脚本の勉強もしてしていたジョージにラジオ製作の仕事を紹介し、あわよくば一緒に脚本を書き、夫婦逆転している収入を夫優位にしようと思ったからだった。
お客が来る前に、あるプレゼントが届けられる。アディからのレコードのプレゼント。それはジョージの大好きなクラシックのLPで、その日はジョージの誕生日だった。優しいジョージはリタを許してくれたが、その夜の会食は最後は上司への対応で夫婦ゲンカになってしまい、ジョージは外に出て行ってしまった。
あの夜は、ポーターとローラメイも来てくれた。二人は辛辣な皮肉を言い合う夫婦になっていた。
ローラメイとポーターのエピソードが、三人の過去話の中では一番面白い。
既に百貨店を7つ経営し、バツイチになっていたポーターが初めてローラメイをデートに誘う所からスタートする。彼の店で働いていたローラメイを見初めたポーターだが、結婚する気はない。鉄道が側を通る度に台所が小刻みに揺れる、そんな家で育ったローラメイが、お色気を巧みに使った男女の駆け引きでポーターを落とすまでが面白く描かれている。
ポーターが結婚を渋っているのは一度失敗したからだけではない。アディへの想いが存在するのをローラメイは感じていた。
▲(解除)
ピクニックから帰った三人。
デボラに執事が渡してくれた『今夜は帰れそうにない。』という伝言はブラッドからではなく、ある女性からだった。
ジョージは、リタより先に帰っていた。
そして、ポーターが居ない家に帰り着いたローラメイは、同居している母親に『これからは二人で生きていきましょう。』と言うが、『ポーターがお前を捨てるわけはない。』という母親の言うとおり、しばらくして彼は帰ってくる。
さて、ラストシーンは、その日の夜のダンスパーティー。一体誰がアディと駆け落ちしたのか? それとも、あの手紙は・・・。
撮影はオスカー三度受賞のアーサー・C・ミラー。
音楽は大御所中の大御所、アルフレッド・ニューマン。リタやローラメイが回想に入る時に、BGMが台詞のように聞こえたり、物音が人間のお喋りに聞こえたりする面白い音の使い方がありました。こんな昔からあった技術とは知りませんでした。
ローラメイを演じたリンダ・ダーネルが色っぽくて素敵でしたが、忘れもしません、彼女はJ・フォードの名作「荒野の決闘(1946)」に酒場の女で出てましたネ。
セルマ・リッター! 家政婦の似合う女優№1! 今回も面白くて可笑しくて、強い印象が残りました♪
尚、アディの手紙の意図が納得いきかねているのと、三つに分けた回想形式というのが、ストレートな構成が好きな私としてはお好みに合わず、お薦め度は★一つマイナスしました。
後味は、とてもよろしいです♪
・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 
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けっこう好きな作品です。^^特にリタの夫ジョージが大好きです。カーク・ダグラスっていう役者さんなんですね。あのDVD、誰がどの役をやってるか書いてないからわからなくて^^;やっぱりすごくお詳しいですね^^
さっそく記事にしました。TBさせていただきます。では。
全体を通せば【マンキウィッツ限界説】なのですが、その予言の通り、彼はその後「裸足の伯爵夫人」が認められるくらいで、アメリカ人が期待したほどはパッとしなくなりました。
60年代半ばに「三人の女性への招待状」というのを作り数年後にTVで見たことがあります。それなりに面白かったと思いますが、何しろガキの時分ですのでよく憶えておりません(笑)。
さらに「探偵スルース」は評判を呼びましたが、双葉さんはそれほど喜ばず、☆☆☆★★どまりでした。「人形を出しすぎる」という寸評を憶えています。まだ子供だったので、ちょっと圧倒されてしまいましたが、今観たらどうなんでしょうか。
十瑠さんのご感想は如何でしたか?
マイケルは、今はキャサリン・ゼタ・ジョーンズの旦那さんですな。
お父さんの映画だと、「探偵物語」というのも記事にしていますので、未見でしたら是非観て下さい。
お薦め度=五つ★です!
「スルース」を観た時は、☆☆☆★★という評価を読んだ後だったので、『フーン、そんなもんかぁ』という印象しか持たなかったと思います。
新作でオリヴィエを観たこと、ラストでアッと驚くどんでん返しがあったこと、そんなことを思い出します。
アンソニー・シェイファーの本ですし、ミステリーファンとしては、是非とも、もう一度観たい作品ですネ。
探偵物語の記事、読ませていただきました。今度ぜひ見てみます。紹介ありがとうございます^^
「スルース/探偵」を公開時に見られたんですか!羨ましい。私は先日WOWOW放映でやっと念願かなって鑑賞しました。
スッキリと眠れそうな幕切れも嬉しいし・・♪
>「スルース/探偵」を公開時に見られたんですか!羨ましい。
上のオカピーさんへのコメントにも書きましたとおり、内容は忘れてしまってるんですけどね。
ヒッチコックも何作か新作で観ましたし、ワイラーも新作でみるチャンスがあったんですよ。
オジンですね
話術映画というのは僕の造語で、他の方が使っているのはまずお目にかかれませんが、まあ良い造語じゃないでしょうか(笑)。
>アディの手紙の意図が納得いきかねている
この映画最大の難点ではあるかもしれません。
当方は話術映画と割り切って観ていたのでさほど気にはなりませんでした。
それよりその後の公衆電話の扱いが面白くて、僕はご機嫌でした。こういう映画的なシーンが見たいんですよね、映画ファンは。
>リンダ・ダーネル
角度によってドリュー・バリモアに似ているなあと感じました。リンダのほうがやや面長ですが、新発見!
ワイラーとかワイルダーにも多少その気がある作品もあるような・・。この辺は脚本家との連携しだいで、本と演出を独りで担当したマンキウィッツならではの話術映画かも知れませんな。
>公衆電話の扱いが面白くて・・・
最後は、岸を離れていく船の上から三人がそれぞれ公衆電話を眺めている、そんなシーンでしたかね。
>リンダのほうがやや面長ですが
僕はドリューちゃんにはあまり魅力を感じないので連想しませなんだ。
以前ポートレイトクイズに書きましたが、ジーン・アーサーの斜めからの表情にドリューを思い出したことがありました。