(2005/ジム・ジャームッシュ脚本・監督/ビル・マーレイ、ジェフリー・ライト、シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン、ジュリー・デルピー/106分)
噂では、「かもめ食堂」や「ウィスキー」などと同じゆるい系のタッチらしいジャームッシュ監督。
数ヶ月前に、ご贔屓ブログでコメントが入り乱れた作品で、ゆるいタッチにあまり気乗りはしないんですが、2005年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを獲ったらしいので、一見の価値はあろうかとレンタルしてきました。ジャームッシュ作品は今回がお初でございます。
コンピューター事業で一儲けした元プレイボーイ、ドン・ジョンストン(マーレイ)。映画スターのドン・ジョンソンに名前は似ているが、ジョンソンではなく最後に「T」が入る。
とうに人生は後半戦に入っているのに、相変わらず結婚をする気もなく、同棲していた女性シェリー(デルピー)は愛想を尽かして出て行ってしまう。と、彼女と入れ替わりに、幾つかの郵便に混じってピンク色の封筒が届く。差出人の無いその封筒には、こんな手紙が入っていた。
『あなたと別れて20年。実はあの時私は妊娠していて、その後産まれたあなたの息子はもうすぐ19歳になります。そして、父親探しの旅に出ると家を出て行ってしまいました。』
インターネットにハマっているお節介な隣人は、調べてあげるから心当たりのある女の名前をリストアップしろと言う。
手紙は悪戯ではないかと疑いながらもドンは5人の名前を思い出す。忙しい仕事の合間をぬって、隣人はご丁寧にそれぞれの女性の住所を調べ上げ、地図を作成、航空券にレンタカーの手配までしてくれる。口では気乗りのしない風を装いながら、ドンは隣人の計画してくれた再会ストーリーに乗っかって行く。
赤ん坊を産んだ女性は誰か? はたして、まだ見ぬ息子に逢うことは出来るのか?
20年前に付き合っていたかつてのガールフレンド達に会いに行き、気恥ずかしくも懐かしい再会を重ねることによって自らの人生に思いを馳せる初老の男の物語であります。
映像に凝る作家には、映像美に拘る派と構図と“間”による語り口に拘る派がいると思うけど、ゆるいタッチ系の監督は概ね後者の方ですな。ジャームッシュも、シーンの繋ぎにフェイドアウトやインを使う人で、アウト後には一度スクリーンが真っ暗になるので、双葉さんはブラックアウトと呼んでおられました。ゆるいタッチではないですが、ソダーバーグの「ソラリス」にも、ショットの繋ぎにまるで瞳を閉じたような黒い画面がありましたね。
そして、そんな黒い“間”と共に、個別のシーンにも登場人物がジッと動かない静のショットもあり、あの静の“間”もゆるい系の作家の作品にはよく出るモノで、ジャームッシュさんの“間”はその中でも独特な感じがしました。あれは「ウィスキー」と同じように、観客の想像力が試されるショットですが、今回も私には『なんとなく分かる』程度でありましたな。
ご贔屓ブログのコメントでは、男性陣には主人公に共感できるという方が多かったですが、私より幾分若いと思われる方たちですのに、どうやら人生経験は私より深いようです。
▼(ネタバレ注意)
過去のガールフレンドの一人目はローラ(ストーン)。ドンと別れた後、レーサーと結婚するも事故で未亡人となり、露出狂気味のハイ・ティーンの娘との二人暮らし。家具の整理アドヴァイザーのような事をしながら自立していて、ドンとの久しぶりの再会を喜び、二十年ぶりのベッドインも楽しんでしまう女性だった。
二人目は夫と共に不動産業を営んでいるドーラ(コンロイ)。ちょっと神経質そうな元ヒッピー娘は旦那さんに溺愛されているが、旦那さんは子供を欲しがっているのにドーラは要らないと言っているらしい。三人での夕食はちょっと気まずい雰囲気だった。
三人目はカルメン(ラング)。ドンと付き合っている時は弁護士を目指していたが、売れっ子弁護士の時代に愛犬を亡くし、その後動物達と会話が出来る能力に目覚め、今は弁護士を辞めて動物行動学の博士号を取り、ペットに関する相談にのっている。
最近お茶の間のTV番組にも外人のこういうコミュニケーターが出てくるが、映画に出てくるのは珍しい。
四人目はペニー(スウィントン)。山奥の辺鄙な所に住んでいて、家も庭も手入れがされてなく、いい暮らしではなさそうだ。ドンとの話では、二人の別れは彼女から離れていったようだが、ドンが子供のことでカマをかけると泣き出してしまう。一緒に暮らしているらしいバイク野郎にドンは殴られ、最後の最後に最悪の再会が待っていた。
結局、あのピンクの手紙の主は分からず、ドンは5人目の彼女のところへ。
彼女ミシェル・ペペは、旅のコーディネーターである隣人の調査の通り5年前に交通事故で亡くなっていた。途中の花屋で買った花束をそっと墓標に手向ける。
何故か、涙が湧いてくるドンであった。
ココ、この映画の中でも名場面と評された男性ブロガーもいらっしゃいました。ひょっとしたら泣けたかも知れない場面でしたが、オカシナ事にそれまであんなに粘った作りをしていたのに、あの場面は私にはあっさりした“間”と感じ、特に感慨は湧きませなんだ。涙の理由は色々と想像できますが・・・。
旅が終わり、手紙の主は分からなかったものの、ドンには次に気になることが出てくる。自分を捜しに来るかも知れない息子のことだ。似たような年格好の少年を街で見かける度に、『ひょっとして・・』という気になる。
映画は、そんなドンの表情を捉えながら終わる。ドンは再生したのか、それとも無限地獄に落ちてしまうのか・・・。
今回もゆっくり見れませんでしたが、ドンの心情に近づく努力をしながら見ると、より一層楽しめるでしょう。自分の人生に置き換えながら見ると、泣けるかもね。
▲(解除)

リアリズムを追求して行き着いた手法の、あの“間”と、ドラマチックではないエピソード。旅の途中のちょっとした点描も味があって面白いのですが、全体の印象としてはインパクトが弱い感じがします。その理由は、どうやらエピソードの間のあの繰り返し流される車の走行場面にあるようです。
サイドミラー越しに流れる風景。そして、エンドレスな雰囲気で流されるBGM(エチオピアの音楽らしいです)。
あのドライブしているドンの表情やらサイドミラーを入れた窓外の風景なんか、あんなに繰り返し流す必要はあったんでしょうかねぇ? 感覚の問題でしょうからしようがないですが、私にはどうもあそこで味が薄まったような気がしました。もう少し短く纏めても良かったような気がするんですがね。
「ストレンジャー・ザン・パラダイス(1984)」、「ダウン・バイ・ロー(1986)」。まだまだ、見るべき作品はあるようです。
[07.14 追記]
本日、レンタル返却前に再鑑賞。
成り行きが分かった上でドンに寄り添って見ると、ドライビングの“間”も流れに乗っていて気になりませんでした。意外にも歓迎されたローラとの再会から、徐々に怪しくなっていく雲行き。「真夜中のカーボーイ」のジョーを思い出してしまいました。
マーヴィン・ゲイの「♪I Want You」、最高!
お薦め度、★一つUPです。
噂では、「かもめ食堂」や「ウィスキー」などと同じゆるい系のタッチらしいジャームッシュ監督。
数ヶ月前に、ご贔屓ブログでコメントが入り乱れた作品で、ゆるいタッチにあまり気乗りはしないんですが、2005年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを獲ったらしいので、一見の価値はあろうかとレンタルしてきました。ジャームッシュ作品は今回がお初でございます。

とうに人生は後半戦に入っているのに、相変わらず結婚をする気もなく、同棲していた女性シェリー(デルピー)は愛想を尽かして出て行ってしまう。と、彼女と入れ替わりに、幾つかの郵便に混じってピンク色の封筒が届く。差出人の無いその封筒には、こんな手紙が入っていた。
『あなたと別れて20年。実はあの時私は妊娠していて、その後産まれたあなたの息子はもうすぐ19歳になります。そして、父親探しの旅に出ると家を出て行ってしまいました。』
インターネットにハマっているお節介な隣人は、調べてあげるから心当たりのある女の名前をリストアップしろと言う。
手紙は悪戯ではないかと疑いながらもドンは5人の名前を思い出す。忙しい仕事の合間をぬって、隣人はご丁寧にそれぞれの女性の住所を調べ上げ、地図を作成、航空券にレンタカーの手配までしてくれる。口では気乗りのしない風を装いながら、ドンは隣人の計画してくれた再会ストーリーに乗っかって行く。
赤ん坊を産んだ女性は誰か? はたして、まだ見ぬ息子に逢うことは出来るのか?
20年前に付き合っていたかつてのガールフレンド達に会いに行き、気恥ずかしくも懐かしい再会を重ねることによって自らの人生に思いを馳せる初老の男の物語であります。
映像に凝る作家には、映像美に拘る派と構図と“間”による語り口に拘る派がいると思うけど、ゆるいタッチ系の監督は概ね後者の方ですな。ジャームッシュも、シーンの繋ぎにフェイドアウトやインを使う人で、アウト後には一度スクリーンが真っ暗になるので、双葉さんはブラックアウトと呼んでおられました。ゆるいタッチではないですが、ソダーバーグの「ソラリス」にも、ショットの繋ぎにまるで瞳を閉じたような黒い画面がありましたね。
そして、そんな黒い“間”と共に、個別のシーンにも登場人物がジッと動かない静のショットもあり、あの静の“間”もゆるい系の作家の作品にはよく出るモノで、ジャームッシュさんの“間”はその中でも独特な感じがしました。あれは「ウィスキー」と同じように、観客の想像力が試されるショットですが、今回も私には『なんとなく分かる』程度でありましたな。
ご贔屓ブログのコメントでは、男性陣には主人公に共感できるという方が多かったですが、私より幾分若いと思われる方たちですのに、どうやら人生経験は私より深いようです。
▼(ネタバレ注意)
過去のガールフレンドの一人目はローラ(ストーン)。ドンと別れた後、レーサーと結婚するも事故で未亡人となり、露出狂気味のハイ・ティーンの娘との二人暮らし。家具の整理アドヴァイザーのような事をしながら自立していて、ドンとの久しぶりの再会を喜び、二十年ぶりのベッドインも楽しんでしまう女性だった。
二人目は夫と共に不動産業を営んでいるドーラ(コンロイ)。ちょっと神経質そうな元ヒッピー娘は旦那さんに溺愛されているが、旦那さんは子供を欲しがっているのにドーラは要らないと言っているらしい。三人での夕食はちょっと気まずい雰囲気だった。
三人目はカルメン(ラング)。ドンと付き合っている時は弁護士を目指していたが、売れっ子弁護士の時代に愛犬を亡くし、その後動物達と会話が出来る能力に目覚め、今は弁護士を辞めて動物行動学の博士号を取り、ペットに関する相談にのっている。
最近お茶の間のTV番組にも外人のこういうコミュニケーターが出てくるが、映画に出てくるのは珍しい。
四人目はペニー(スウィントン)。山奥の辺鄙な所に住んでいて、家も庭も手入れがされてなく、いい暮らしではなさそうだ。ドンとの話では、二人の別れは彼女から離れていったようだが、ドンが子供のことでカマをかけると泣き出してしまう。一緒に暮らしているらしいバイク野郎にドンは殴られ、最後の最後に最悪の再会が待っていた。
結局、あのピンクの手紙の主は分からず、ドンは5人目の彼女のところへ。
彼女ミシェル・ペペは、旅のコーディネーターである隣人の調査の通り5年前に交通事故で亡くなっていた。途中の花屋で買った花束をそっと墓標に手向ける。
何故か、涙が湧いてくるドンであった。
ココ、この映画の中でも名場面と評された男性ブロガーもいらっしゃいました。ひょっとしたら泣けたかも知れない場面でしたが、オカシナ事にそれまであんなに粘った作りをしていたのに、あの場面は私にはあっさりした“間”と感じ、特に感慨は湧きませなんだ。涙の理由は色々と想像できますが・・・。
旅が終わり、手紙の主は分からなかったものの、ドンには次に気になることが出てくる。自分を捜しに来るかも知れない息子のことだ。似たような年格好の少年を街で見かける度に、『ひょっとして・・』という気になる。
映画は、そんなドンの表情を捉えながら終わる。ドンは再生したのか、それとも無限地獄に落ちてしまうのか・・・。
今回もゆっくり見れませんでしたが、ドンの心情に近づく努力をしながら見ると、より一層楽しめるでしょう。自分の人生に置き換えながら見ると、泣けるかもね。
▲(解除)

リアリズムを追求して行き着いた手法の、あの“間”と、ドラマチックではないエピソード。旅の途中のちょっとした点描も味があって面白いのですが、全体の印象としてはインパクトが弱い感じがします。その理由は、どうやらエピソードの間のあの繰り返し流される車の走行場面にあるようです。
サイドミラー越しに流れる風景。そして、エンドレスな雰囲気で流されるBGM(エチオピアの音楽らしいです)。
あのドライブしているドンの表情やらサイドミラーを入れた窓外の風景なんか、あんなに繰り返し流す必要はあったんでしょうかねぇ? 感覚の問題でしょうからしようがないですが、私にはどうもあそこで味が薄まったような気がしました。もう少し短く纏めても良かったような気がするんですがね。
「ストレンジャー・ザン・パラダイス(1984)」、「ダウン・バイ・ロー(1986)」。まだまだ、見るべき作品はあるようです。
[07.14 追記]
本日、レンタル返却前に再鑑賞。
成り行きが分かった上でドンに寄り添って見ると、ドライビングの“間”も流れに乗っていて気になりませんでした。意外にも歓迎されたローラとの再会から、徐々に怪しくなっていく雲行き。「真夜中のカーボーイ」のジョーを思い出してしまいました。
マーヴィン・ゲイの「♪I Want You」、最高!
お薦め度、★一つUPです。
・お薦め度【★★★★=ちょいとオジさん、友達にも薦めて】 

私は本作を、もう4度も観ているバカ野郎です(笑)
妻には「また観てるの? 好きだね~」と、白い目で視られています(笑)
でも、本作が今の時点では今年のベスト・ピクチャ!
「繰り返し流される車の走行場面」は、酩酊を誘うジャームッシュ流ですが、私は大好きなのです~(汗)
こんな地味な作品じゃなく、もっと派手で面白さが分かりやすい傑作が出て来ないかな~と、そろそろ焦ってます(笑)
これが年間NO.1になっちゃうのも、どうなんだろうって(汗)
そりゃ又、凄い。
じっくりと見れると思って借りたんですが、2度目がなかなか時間がとれませんでした。(少しだけ2回目見ました)
>酩酊を誘うジャームッシュ流・・・
ポーランド映画「夜行列車」、ルルーシュの「男と女」あたりにはそんな気分になりました。
ドンにどれだけ共感を覚えるかで違うんでしょうね。
ドンちゃんの気持ちは、理解したいような、したくないような微妙な感じです。
本作の間も絶妙で、その絶妙な間が生み出すおとぼけに大人の味わいが加わり、ちょいと感慨にふける私であります。
優一郎さんには及ばぬものの、本年鑑賞作品ベスト10には間違いなく入ってきます。最終的にどの位置に来るか、それが問題。音楽賞は半ば決定。
私としては「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と「ダウン・バイ・ロー」がお奨め。
前者は見方によっては大して面白い話ではないですが、短いスパンによる徹底したブラックアウト処理による可笑し味に、「とんでもない映画が出てきた」と思いましたね。
後者は「スト・パラ」やトリュフォー映画を観て「全く解らん」と言い、推薦者たる私を青くさせた(笑)わが姉が面白いと言ったくらいだから、もっと一般的な面白さがあると思われます。
とにかく、初ジャームッシュおめでとうございます。^^
エンディングはしっかり聞いてないんで、コメントできないですが、ドライブ・シーンのエチオピア・ミュージックは確かにとぼけた味がありました。
>とにかく、初ジャームッシュおめでとうございます。
はい。お奨めの2作品、リストアップいたしました。^^
ジャームッシュは全然無知の状態で観たのですが、それがよかったんでしょうかね。今の私にはぴったり波長が合いまして、逆に癒されてしまいました(笑)。
や、内容は決してコメディではありませんし、シリアスなものですけどね。TBを送らせていただきましたので、ご笑覧あれ。
しかも波長がお合いに。よろしおすなぁ~。
上に書いている2作品はレンタル店で確認済みなので、そのうち見ようかと思ってます。