(1964/成瀬巳喜男 監督/高峰秀子、加山雄三、三益愛子、草笛光子、白川由美、浜美枝、北村和夫、藤木悠、十朱久雄、浦辺粂子/98分)
成瀬の「乱れる」を観る。初めてと思っていたけど、序盤からぼんやりと記憶があるような・・・。「乱れ雲」が好きなんだけど、これもイイなぁ。主人公らと同じような境遇の人がいたらバツが悪くならないかしら。なんて変なこと考えちゃいました。若大将が若い!酔っ払った時の喋り方がトシちゃんみたい。
[11月 1日 (Twitter on 十瑠 から)]
昭和38年頃の静岡県のとある地方都市。小さな酒店を一人で切り盛りしている長男の嫁、森田礼子(高峰)がこの物語の主人である。
18年前に嫁いできたが新婚生活はわずか半年足らず、夫は赴いた戦地で帰らぬ人となり、以来亡き夫に代わって一家の為に身を粉にして働いてきた。同居家族は年老いた義母(三益)と末の義弟、幸司(加山)。義父は数年前に病気で亡くなっていた。義妹が二人いるが、久子(草笛)も孝子(白川)も結婚して静岡市内に家庭を持っていた。
世は高度成長時代。田舎町にもスーパーマーケットが進出してきて、昔からある小さな商店には死活問題となっていた。
映画のオープニングがそのスーパーが開店1周年記念大売出しのコマーシャルを宣伝カーで放送しているシーンで、BGMに流れていたのは舟木一夫の「♪高校三年生」でした。
幸司は大学を出てサラリーマンになったが1年も経たずに辞めてしまい、店の手伝いをするでもなくのらりくらりと暮らしていた。
その夜も近くのバーで一人飲んでいるとボックス席の三人の男がホステス達にゆで卵の早食い競争をさせており、「馬鹿なことはやめろ」と文句を言った幸司と喧嘩となり、男たちに怪我をさせた幸司は警察の厄介になる。実はこの男達はスーパーマーケットの社員で、地元の商店仲間の日頃の鬱憤をついぶつけてしまったのだ。食べ物を粗末に扱う遊びにも腹が立ったのではあるが。
翌日警察からの電話に応じた礼子は、義母には言わずに幸司を警察まで迎えに行く。幸司は礼子に「申し訳ない」と口では謝るが、その様子はまるで実の姉に甘えているようにも見えたし、礼子の態度にも優しい気持ちが表れていた。二人の会話でこれが3回目の警察沙汰だったことが分かる。
久子が礼子に縁談話を持ってくる。
いつまでもこの家に縛っている訳にもいかず、そろそろ幸司も嫁をもらってもいい歳だし、そうした場合礼子も暮らしにくくなるのではないかと言うのである。しかし、礼子は再婚する気はないと、それ以上は話に乗らなかった。夫の遺影を今でも毎日のように拝んでいるような女性なのだ。
幸司の麻雀仲間の店主が商売の先行きを悲観して自殺するという騒ぎがあり、幸司は商社に勤める久子の夫に今の店をスーパーにする計画について相談をする。会社組織にした場合には礼子を重役にする、というのが幸司の第一条件だったが義兄(北村)は難色を示した。
幸司の兄の戦死公報が届いた日に店は空襲で消失し、一家は疎開をしたが、礼子だけは残って焼け跡にバラックを立てて店を続けた。今の店があるのも全て義姉さんのおかげなんだからと、幸司は母親にも力説するのだった。
幸司を訪ねて一人の女(浜)が店にやってくる。幸司が彼女のアパートに置き忘れた腕時計を持ってきたのだ。
礼子は蓮っ葉な印象の女に幸司との関係を知ろうと近くの喫茶店に誘った。女の話では1週間に一度くらいは逢っているらしい。しかもその時は泊まっていくと言う。
「それなら、次に幸司さんが来るまで預かってもらったら良かったのに」
「そうもいかないのよ。だって、付き合ってるのは幸ちゃんだけじゃないもの」。悪びれる風もなく、女はそう言った。
女が帰ったその夜、パチンコの景品をたくさん抱えて帰ってきた幸司に礼子は話を始めた。
会社を辞めたのはあの女と別れたくなかったからなのか? どこにも真剣さが見えないあんな女とは別れたほうがいい。結婚する気があるのなら、もっと良い人を紹介するから、などなど。幸司を代表にして店をスーパーにするという計画を義母から聞いて、本気で説教をする気になったのである。しかし幸司は今は誰を紹介されたって興味はないと言い切る。
結婚もせずにいつまでもあんな女とダラダラと付き合っている幸司を礼子は男として卑怯だと言う。
すると「卑怯とまで言われたから言うけども」と、幸司は礼子に意外な告白を始めるのだった・・・。
ご紹介したストーリーは前半部分の内容で、一見地方都市の家族のあれこれが、変わりゆく世相の中で散文的に描かれているように見えるかもしれませんが、実はこれは後半の義理の姉に対する弟の愛情の深さを描く為にあったというのが後で分かってきます。
幸司の告白はずっと義姉さんとこの家に居たかったから会社の転勤の要請に応じずに辞めたということ、好きだということはずっと黙っているつもりだったという事でした。
思いもよらぬ告白に礼子は動揺します。礼子が19歳で嫁に来た時、幸司はまだ7歳の子供だったのですから。可愛い弟と思って接してきたのに、まさかそんなことを思っていたなんて・・・。
オリジナル脚本が高峰秀子の夫で後に映画監督にも進出する松山善三。礼子の故郷が山形県の新庄市になっていますが、横浜生まれながら岩手県盛岡市の大学を中退した松山の経歴で納得しました。
既にカラー映画も沢山出てたはずなのに、この映画はモノクロです。相変わらず成瀬監督の語り口は滑らかで淀みがなく、モノクロのおかげもあるかもしれませんが、俳優たちの演技もさりげなく微妙な感情を描き出しています。
▼(ネタバレ注意)
弟に告白されて動揺する礼子。
自分でも分からない内に幸司を意識してしまい、むしろ彼が家に居ない時がホッとする毎日。それまで雇っていた配達の店員が辞めていったのも良かったのか悪かったのか。
スーパーの件や、自分を心配した義妹からの結婚話などにヒントを得たのか、礼子はこの家を出ていく決心をします。その為に好きな人がいるという嘘も準備して、尚且つ事前に幸司にも余計な事を言わないようにと釘を刺して。
後半は礼子が故郷の山形に帰る列車のロード・ムーヴィー。黙って同じ列車に乗り込む幸司。満員列車で離れ離れに時をやり過ごす二人の距離が、段々と近づいていく様子が微笑ましくも初々しい。まるで新婚旅行のようでもあり、駆け落ち旅行のようでもある。礼子にとっては姉弟での旅にも思えたのかも知れませんが。
礼子は故郷の手前、大石田駅で途中下車し、銀山温泉に泊まることにします。生まれ故郷に幸司を連れて帰るわけにもいかず、ひと晩かけて説得し、静岡に帰らせるつもりだったのです。しかし、幸司の想いは予想以上に強く固く・・・。
突き放したような悲劇的な閉幕には驚きましたなぁ。高峰秀子の名演技!
▲(解除)
映画サイトでは前半と後半でムードが違うのが失敗だとの意見も散見しますが、僕はムードの違いは感じませんでした。むしろ、ジャンルは違いますがフランスの「恐怖の報酬」のように、“あの前半あっての、この後半”という印象が観る回数を重ねるたびに強くなりました。
三益愛子は優柔不断な母親を好演。
草笛光子、白川由美の義妹も如何にもな感じがよく出ていました。(僕の狭い経験からですが)商売人の子供達ってあんな風に割り切っているのが多いですよね。義理の姉の努力は認めるも、「森田屋」という看板あってこその店の再興である、その程度にしか考えてないのだと思います。
1961年に「大学の若大将」がスタートして、すでに青春スターとして歩き出していた加山雄三が幸司役。おぼっちゃまらしさと大学出の知性が自然と滲み出るのが適役ですが、そこに義姉に対する一途な愛情をも感じさせる青臭さが意外な程に合っていました。
そしてなんと言っても、薄幸のヒロイン役の高峰秀子が最高。30代最後の出演ですね。
ラストシーンのクローズアップが圧巻ですが、ヒロインの心情が色々と考えられるので、じつはもやもやとしております。「ノー・マンズ・ランド」等のラストのもやもやはぶつけ先があるんですが、これは何にぶつければいいのかと。このもやもやで★一つマイナスにしました。
※ おまけのYouTube動画(仲代達矢が語る成瀬巳喜男と高峰秀子)
成瀬の「乱れる」を観る。初めてと思っていたけど、序盤からぼんやりと記憶があるような・・・。「乱れ雲」が好きなんだけど、これもイイなぁ。主人公らと同じような境遇の人がいたらバツが悪くならないかしら。なんて変なこと考えちゃいました。若大将が若い!酔っ払った時の喋り方がトシちゃんみたい。
[11月 1日 (Twitter on 十瑠 から)]
*
昭和38年頃の静岡県のとある地方都市。小さな酒店を一人で切り盛りしている長男の嫁、森田礼子(高峰)がこの物語の主人である。
18年前に嫁いできたが新婚生活はわずか半年足らず、夫は赴いた戦地で帰らぬ人となり、以来亡き夫に代わって一家の為に身を粉にして働いてきた。同居家族は年老いた義母(三益)と末の義弟、幸司(加山)。義父は数年前に病気で亡くなっていた。義妹が二人いるが、久子(草笛)も孝子(白川)も結婚して静岡市内に家庭を持っていた。
世は高度成長時代。田舎町にもスーパーマーケットが進出してきて、昔からある小さな商店には死活問題となっていた。
映画のオープニングがそのスーパーが開店1周年記念大売出しのコマーシャルを宣伝カーで放送しているシーンで、BGMに流れていたのは舟木一夫の「♪高校三年生」でした。
幸司は大学を出てサラリーマンになったが1年も経たずに辞めてしまい、店の手伝いをするでもなくのらりくらりと暮らしていた。
その夜も近くのバーで一人飲んでいるとボックス席の三人の男がホステス達にゆで卵の早食い競争をさせており、「馬鹿なことはやめろ」と文句を言った幸司と喧嘩となり、男たちに怪我をさせた幸司は警察の厄介になる。実はこの男達はスーパーマーケットの社員で、地元の商店仲間の日頃の鬱憤をついぶつけてしまったのだ。食べ物を粗末に扱う遊びにも腹が立ったのではあるが。
翌日警察からの電話に応じた礼子は、義母には言わずに幸司を警察まで迎えに行く。幸司は礼子に「申し訳ない」と口では謝るが、その様子はまるで実の姉に甘えているようにも見えたし、礼子の態度にも優しい気持ちが表れていた。二人の会話でこれが3回目の警察沙汰だったことが分かる。
久子が礼子に縁談話を持ってくる。
いつまでもこの家に縛っている訳にもいかず、そろそろ幸司も嫁をもらってもいい歳だし、そうした場合礼子も暮らしにくくなるのではないかと言うのである。しかし、礼子は再婚する気はないと、それ以上は話に乗らなかった。夫の遺影を今でも毎日のように拝んでいるような女性なのだ。
幸司の麻雀仲間の店主が商売の先行きを悲観して自殺するという騒ぎがあり、幸司は商社に勤める久子の夫に今の店をスーパーにする計画について相談をする。会社組織にした場合には礼子を重役にする、というのが幸司の第一条件だったが義兄(北村)は難色を示した。
幸司の兄の戦死公報が届いた日に店は空襲で消失し、一家は疎開をしたが、礼子だけは残って焼け跡にバラックを立てて店を続けた。今の店があるのも全て義姉さんのおかげなんだからと、幸司は母親にも力説するのだった。
幸司を訪ねて一人の女(浜)が店にやってくる。幸司が彼女のアパートに置き忘れた腕時計を持ってきたのだ。
礼子は蓮っ葉な印象の女に幸司との関係を知ろうと近くの喫茶店に誘った。女の話では1週間に一度くらいは逢っているらしい。しかもその時は泊まっていくと言う。
「それなら、次に幸司さんが来るまで預かってもらったら良かったのに」
「そうもいかないのよ。だって、付き合ってるのは幸ちゃんだけじゃないもの」。悪びれる風もなく、女はそう言った。
女が帰ったその夜、パチンコの景品をたくさん抱えて帰ってきた幸司に礼子は話を始めた。
会社を辞めたのはあの女と別れたくなかったからなのか? どこにも真剣さが見えないあんな女とは別れたほうがいい。結婚する気があるのなら、もっと良い人を紹介するから、などなど。幸司を代表にして店をスーパーにするという計画を義母から聞いて、本気で説教をする気になったのである。しかし幸司は今は誰を紹介されたって興味はないと言い切る。
結婚もせずにいつまでもあんな女とダラダラと付き合っている幸司を礼子は男として卑怯だと言う。
すると「卑怯とまで言われたから言うけども」と、幸司は礼子に意外な告白を始めるのだった・・・。
*
ご紹介したストーリーは前半部分の内容で、一見地方都市の家族のあれこれが、変わりゆく世相の中で散文的に描かれているように見えるかもしれませんが、実はこれは後半の義理の姉に対する弟の愛情の深さを描く為にあったというのが後で分かってきます。
幸司の告白はずっと義姉さんとこの家に居たかったから会社の転勤の要請に応じずに辞めたということ、好きだということはずっと黙っているつもりだったという事でした。
思いもよらぬ告白に礼子は動揺します。礼子が19歳で嫁に来た時、幸司はまだ7歳の子供だったのですから。可愛い弟と思って接してきたのに、まさかそんなことを思っていたなんて・・・。
オリジナル脚本が高峰秀子の夫で後に映画監督にも進出する松山善三。礼子の故郷が山形県の新庄市になっていますが、横浜生まれながら岩手県盛岡市の大学を中退した松山の経歴で納得しました。
既にカラー映画も沢山出てたはずなのに、この映画はモノクロです。相変わらず成瀬監督の語り口は滑らかで淀みがなく、モノクロのおかげもあるかもしれませんが、俳優たちの演技もさりげなく微妙な感情を描き出しています。
▼(ネタバレ注意)
弟に告白されて動揺する礼子。
自分でも分からない内に幸司を意識してしまい、むしろ彼が家に居ない時がホッとする毎日。それまで雇っていた配達の店員が辞めていったのも良かったのか悪かったのか。
スーパーの件や、自分を心配した義妹からの結婚話などにヒントを得たのか、礼子はこの家を出ていく決心をします。その為に好きな人がいるという嘘も準備して、尚且つ事前に幸司にも余計な事を言わないようにと釘を刺して。
後半は礼子が故郷の山形に帰る列車のロード・ムーヴィー。黙って同じ列車に乗り込む幸司。満員列車で離れ離れに時をやり過ごす二人の距離が、段々と近づいていく様子が微笑ましくも初々しい。まるで新婚旅行のようでもあり、駆け落ち旅行のようでもある。礼子にとっては姉弟での旅にも思えたのかも知れませんが。
礼子は故郷の手前、大石田駅で途中下車し、銀山温泉に泊まることにします。生まれ故郷に幸司を連れて帰るわけにもいかず、ひと晩かけて説得し、静岡に帰らせるつもりだったのです。しかし、幸司の想いは予想以上に強く固く・・・。
突き放したような悲劇的な閉幕には驚きましたなぁ。高峰秀子の名演技!
▲(解除)
映画サイトでは前半と後半でムードが違うのが失敗だとの意見も散見しますが、僕はムードの違いは感じませんでした。むしろ、ジャンルは違いますがフランスの「恐怖の報酬」のように、“あの前半あっての、この後半”という印象が観る回数を重ねるたびに強くなりました。
三益愛子は優柔不断な母親を好演。
草笛光子、白川由美の義妹も如何にもな感じがよく出ていました。(僕の狭い経験からですが)商売人の子供達ってあんな風に割り切っているのが多いですよね。義理の姉の努力は認めるも、「森田屋」という看板あってこその店の再興である、その程度にしか考えてないのだと思います。
1961年に「大学の若大将」がスタートして、すでに青春スターとして歩き出していた加山雄三が幸司役。おぼっちゃまらしさと大学出の知性が自然と滲み出るのが適役ですが、そこに義姉に対する一途な愛情をも感じさせる青臭さが意外な程に合っていました。
そしてなんと言っても、薄幸のヒロイン役の高峰秀子が最高。30代最後の出演ですね。
ラストシーンのクローズアップが圧巻ですが、ヒロインの心情が色々と考えられるので、じつはもやもやとしております。「ノー・マンズ・ランド」等のラストのもやもやはぶつけ先があるんですが、これは何にぶつければいいのかと。このもやもやで★一つマイナスにしました。
※ おまけのYouTube動画(仲代達矢が語る成瀬巳喜男と高峰秀子)
・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】
知りませんでした。
静かな人、成瀬監督、わかりますね。
ことば荒いけど親切な人、高峰さん、
これもたいへんよくわかる。(笑)
古い記事ですが、「女が階段を上がる時」も
TBさせていただきました。
十瑠さんおすすめの「乱れ雲」観たいですわ。
高峰秀子を最初に観たのは、TV放映の「カルメン故郷に帰る」でした。
あのカルメンと礼子さんはまさに別人。色々な女性を演じることの出来た人のようで、今度は荒っぽい人が見てみたいですね。
>「女が階段を上がる時」
これも成瀬さんですか。
レンタルショップに行っても、彼の全ての作品はないようです。
次は「稲妻」なんてのも観たいですね。
「乱れ雲」も是非。