(1946/ウィリアム・ワイラー監督/フレデリック・マーチ、マーナ・ロイ、テレサ・ライト、ダナ・アンドリュース、ヴァージニア・メイヨ、ハロルド・ラッセル、キャシー・オドネル、ホーギー・カーマイケル、スティーヴ・コクラン/170分)
大晦日の夜に観た60年前のワイラー映画です。3度オスカーを受賞しているワイラー監督の2度目の受賞作品。
居間のテレビでは紅白歌合戦が流れていましたが、その日は、朝からコレを観ると決めていたので、娘の部屋にあるアンテナ無しのブラウン管の画面で観ました。早めに風呂も入って、年越しそばも食べて、8時前から見始めたらコレが長い長い。第二次世界大戦終了後の三人の復員兵の話というのは知っていましたが、3時間の大作だった事を忘れておりました。
この夜の印象では、丁寧に撮ってはいても三つの話の羅列に見えて構成が練られてないと感じ、お薦め度は★★★~★★★★程度。年が明けてもう一度見直しましたら、★が一つ増えました。成り行きが分かっていると描写が楽しめるし、余裕を持って含みも感じられる。やっぱ映画は2度観なくちゃ真価は分からんですな。
空軍で爆撃機に乗っていたフレッド・デリー大尉(アンドリュース)が故郷に帰ろうと空港にやってくるところから映画は始まる。カウンターの係りの女性は予約客が優先なので、フレッドに滑走路の向こうにある軍の飛行場に行くことを奨める。フレッドが行ってみるとソコには大勢の帰還兵がおり、彼と同じブーン行きの飛行機を待つホーマー(ラッセル)とも知り合う。海軍で空母に乗っていたホーマーは戦艦が爆撃を受けた際に両手に酷い火傷を負い、両方の手首から先を無くしていた。
搭乗手続きの際にはサインをする訳だけど、ホーマーのペンを持つ右手が義手なのでビックリするが、更に紙を抑えるために左手も添えるとその手も義手なのでフレッドもショックを受ける。
明日の夕方には着くという飛行機に乗り込むと、陸軍で軍曹をしていたアル(マーチ)がすでに乗っていて、三人とも同じ町の出身だということが分かる。一番若いのがホーマーで、次は新婚のフレッド、階級ではフレッドの下になるがアルは結婚20年の妻子持ちだった。
飛行機はフレッドが乗っていたモノと同じ型で、三人は爆撃手の座席近くに行き、懐かしい祖国の大地を上空から眺めながらお互いのことを話す。ホーマーには故郷に許嫁がいて、両手の負傷のことは知らせてあるが、実際に見たらどう思うかと気にしている。病院で義手の訓練も受けているので、煙草に火を付けるのにも支障はなかったのだが。
三人はタクシーも相乗りして、車窓から終戦後の活気づく街並みを懐かしむ。途中でホーマーの叔父ブッチ(カーマイケル)がやっている酒場の前を通り、いつか一緒に飲もうと話す。
最初に降りるのはホーマー。庭付き一戸建ての中産階級らしい家。フレッドとアルはホーマーが家族や隣家の許嫁ウィルマ(オドネル)と再会するのを見届けてから、ホーマーに見送られるようにタクシーを出す。
次に降りるのはアル。アルの家は1階に管理人の居る瀟洒なマンションだった。エレベーターを上がって部屋のベルを押す。数年ぶりの我が家。ドアを開けてくれたのは息子のロブだった。『パパ・・』と言いかけた息子の口を塞ぎ、妻に悟られないようにする。隣室から出てきた娘ペギー(ライト)にも口止めをするが、台所に居た妻ミリー(ロイ)はすぐに気付き、家族は数年ぶりの再会に喜びを分かち合う。ロブは学生で、ペギーは病院勤めをしていた。
最後はフレッド。意外にも、彼の家は鉄道の高架下の安普請だった。覇気のなさそうな両親は帰省を喜んでくれたが、嫁は居なかった。新妻のマリー(メイヨ)はナイトクラブで働いていて、仕事に便利だからと町のアパートで一人暮らしをしていた。
三者三様の人生模様。
ホーマーの両親は息子の義手を気にして対応がぎこちない。それはホーマーの自意識過剰もあるが、解決してくれるだろう時間の流れが遅くてもどかしい。幼なじみのウィルマは以前と変わらぬ様子で会ってくれるのに、もともと大人しい彼女から将来の話を切り出すことはない。同じように結論の確認を先延ばしにするホーマー。彼のエピソードは『7月四日に生まれて』を思い出しながら観てしまいました。
アルは元銀行マン。愛妻家で、妻や子供達も隠し事をしない開かれた家庭だった。ゆっくり休みたい心境だったが、翌日には頭取から復職の電話が入り、復員兵への融資を担当するポストを薦められる。
フレッドは軍に入る前はドラッグストアのアイスクリーム売りの店員だったが、戦時中は優秀な爆撃手として表彰され高給取りとなった。帰還後はやりがいのある新しい仕事を探すつもりだった。
フレッドは街に出て妻を探すが既に出勤していてアパートにはおらず、勤め先が分からないので“ブッチの店”で飲んでいると、そこにホーマーとアルがやってくる。ホーマーは家族から逃れ気晴らしに来たわけだが、ブッチ叔父さんとは何でも気楽に話せる間柄だった。しばらくしてウィルマから電話が入り、ブッチに諭されてホーマーは帰って行く。
アルは妻と娘を連れて町中を飲み歩いた後だった。飲んで騒いで、戦争のことを忘れたい気分だったのだ。ペギーに運転をさせ、“ブッチの店”でもミリーとダンスに興じた。
結局この夜、フレッドはアルの家に泊まることになり、翌朝ペギーの車でマリーのアパートに送られ妻と再会する。戦時中に結婚した二人はフレッドの給料とマリーのナイトクラブでの稼ぎで贅沢が出来たのだが、マリーが仕事を辞め、外食を続けるうちに現金も底をついてくる。家で食事をしようというフレッドに不満を漏らすマリーは再びクラブ勤めを始め、フレッドも仕方なくドラッグストアに戻っていく。金の切れ目がなんとやら、急速に二人の関係は冷えていく。
戻りたくないと言っていた売り子を始めたフレッドを見舞いにペギーが店にやって来る。一緒に昼食をし、帰りしなにフレッドは思わず彼女にキスをする・・・。
原題は【 THE BEST YEARS OF OUR LIVES 】。
マリーとの結婚が若気の至りという結論に結びつけたいフレッドですが、20代前半の役と思われる彼に一回り年上のダナ・アンドリュースというのは、ちょっと苦しい。ここはマイナス点ですかね。名前は昔から知ってますが、特に目立った作品は記憶にない俳優さんでした。
ホーマー役のハロルド・ラッセルは、役者が本業ではないのに初出演作でいきなりアカデミー助演男優賞を獲りました。実際に軍隊の事故で両手を失った負傷兵とのことで、彼が出演したドキュメンタリー番組を観てラッセルの身の上話に心を動かされたサミュエル・ゴールドウィンとワイラーが彼の起用を決定したらしいです。
ホーマーがベッドに入る時には義手を外さねばならず、そのシーンは2度にわたって描かれる。最初は父親に手伝ってもらい、次はウィルマに手伝ってもらう。2度目はホーマーが自分との結婚生活が如何に大変なモノであるかを知らしめる為にウィルマに手伝ってもらうわけだが、父親とのシーンでは両手がほとんど写らないのに、ウィルマとのシーンでは全て見えるようにミドル・ショットにしている。観客も手首のない両腕にショックを受けるが、はたしてウィルマはどう対応するのか。視点を変えたショットの構成がドラマチックでした。
この作品で2度目のオスカーを獲ったフレデリック・マーチ。ワイラー作品としては55年の「必死の逃亡者」の父親役も思い出されますが、そういえばあの作品でも4人家族の大黒柱でした。
復員兵への融資を担当する役職ながら、担保の無い人間にはなかなか貸しづらい。同じ戦争体験をしてきた者の助けになりたいのだが・・・。
因みに『ウィキペディア』によると、マーチが大学卒業後に就職したのは銀行だったそうです。
中盤からはホーマーとウィルマ、フレッドとペギーの成り行きが気になるところです。勿論、最後はハッピーエンドですが、人間の暗さや現実の厳しさをも容赦なく描くワイラー映画は、人情劇に陥りそうな設定があっても、情に流されないので気を抜かずに観なくちゃいけません。
終盤、飛行場において廃棄処分される大量の戦闘機が連なったシーンやプロペラのない爆撃機に入り込み戦闘を思い出すフレッドを背後から捉えたショットにはニューロティックな雰囲気が醸し出され、戦争への批判精神を最後まで忘れない作者達の姿勢が感じられました。
1946年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚色賞(ロバート・E・シャーウッド)、主演男優賞(マーチ)、助演男優賞(ラッセル)、編集賞(ダニエル・マンデル)、音楽賞(ヒューゴ・フリードホーファー)を受賞した名作です。
カメラは名手グレッグ・トーランドでした。
大晦日の夜に観た60年前のワイラー映画です。3度オスカーを受賞しているワイラー監督の2度目の受賞作品。
居間のテレビでは紅白歌合戦が流れていましたが、その日は、朝からコレを観ると決めていたので、娘の部屋にあるアンテナ無しのブラウン管の画面で観ました。早めに風呂も入って、年越しそばも食べて、8時前から見始めたらコレが長い長い。第二次世界大戦終了後の三人の復員兵の話というのは知っていましたが、3時間の大作だった事を忘れておりました。
この夜の印象では、丁寧に撮ってはいても三つの話の羅列に見えて構成が練られてないと感じ、お薦め度は★★★~★★★★程度。年が明けてもう一度見直しましたら、★が一つ増えました。成り行きが分かっていると描写が楽しめるし、余裕を持って含みも感じられる。やっぱ映画は2度観なくちゃ真価は分からんですな。
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搭乗手続きの際にはサインをする訳だけど、ホーマーのペンを持つ右手が義手なのでビックリするが、更に紙を抑えるために左手も添えるとその手も義手なのでフレッドもショックを受ける。
明日の夕方には着くという飛行機に乗り込むと、陸軍で軍曹をしていたアル(マーチ)がすでに乗っていて、三人とも同じ町の出身だということが分かる。一番若いのがホーマーで、次は新婚のフレッド、階級ではフレッドの下になるがアルは結婚20年の妻子持ちだった。
飛行機はフレッドが乗っていたモノと同じ型で、三人は爆撃手の座席近くに行き、懐かしい祖国の大地を上空から眺めながらお互いのことを話す。ホーマーには故郷に許嫁がいて、両手の負傷のことは知らせてあるが、実際に見たらどう思うかと気にしている。病院で義手の訓練も受けているので、煙草に火を付けるのにも支障はなかったのだが。
三人はタクシーも相乗りして、車窓から終戦後の活気づく街並みを懐かしむ。途中でホーマーの叔父ブッチ(カーマイケル)がやっている酒場の前を通り、いつか一緒に飲もうと話す。
最初に降りるのはホーマー。庭付き一戸建ての中産階級らしい家。フレッドとアルはホーマーが家族や隣家の許嫁ウィルマ(オドネル)と再会するのを見届けてから、ホーマーに見送られるようにタクシーを出す。
次に降りるのはアル。アルの家は1階に管理人の居る瀟洒なマンションだった。エレベーターを上がって部屋のベルを押す。数年ぶりの我が家。ドアを開けてくれたのは息子のロブだった。『パパ・・』と言いかけた息子の口を塞ぎ、妻に悟られないようにする。隣室から出てきた娘ペギー(ライト)にも口止めをするが、台所に居た妻ミリー(ロイ)はすぐに気付き、家族は数年ぶりの再会に喜びを分かち合う。ロブは学生で、ペギーは病院勤めをしていた。
最後はフレッド。意外にも、彼の家は鉄道の高架下の安普請だった。覇気のなさそうな両親は帰省を喜んでくれたが、嫁は居なかった。新妻のマリー(メイヨ)はナイトクラブで働いていて、仕事に便利だからと町のアパートで一人暮らしをしていた。
三者三様の人生模様。
ホーマーの両親は息子の義手を気にして対応がぎこちない。それはホーマーの自意識過剰もあるが、解決してくれるだろう時間の流れが遅くてもどかしい。幼なじみのウィルマは以前と変わらぬ様子で会ってくれるのに、もともと大人しい彼女から将来の話を切り出すことはない。同じように結論の確認を先延ばしにするホーマー。彼のエピソードは『7月四日に生まれて』を思い出しながら観てしまいました。
アルは元銀行マン。愛妻家で、妻や子供達も隠し事をしない開かれた家庭だった。ゆっくり休みたい心境だったが、翌日には頭取から復職の電話が入り、復員兵への融資を担当するポストを薦められる。
フレッドは軍に入る前はドラッグストアのアイスクリーム売りの店員だったが、戦時中は優秀な爆撃手として表彰され高給取りとなった。帰還後はやりがいのある新しい仕事を探すつもりだった。
フレッドは街に出て妻を探すが既に出勤していてアパートにはおらず、勤め先が分からないので“ブッチの店”で飲んでいると、そこにホーマーとアルがやってくる。ホーマーは家族から逃れ気晴らしに来たわけだが、ブッチ叔父さんとは何でも気楽に話せる間柄だった。しばらくしてウィルマから電話が入り、ブッチに諭されてホーマーは帰って行く。
アルは妻と娘を連れて町中を飲み歩いた後だった。飲んで騒いで、戦争のことを忘れたい気分だったのだ。ペギーに運転をさせ、“ブッチの店”でもミリーとダンスに興じた。
結局この夜、フレッドはアルの家に泊まることになり、翌朝ペギーの車でマリーのアパートに送られ妻と再会する。戦時中に結婚した二人はフレッドの給料とマリーのナイトクラブでの稼ぎで贅沢が出来たのだが、マリーが仕事を辞め、外食を続けるうちに現金も底をついてくる。家で食事をしようというフレッドに不満を漏らすマリーは再びクラブ勤めを始め、フレッドも仕方なくドラッグストアに戻っていく。金の切れ目がなんとやら、急速に二人の関係は冷えていく。
戻りたくないと言っていた売り子を始めたフレッドを見舞いにペギーが店にやって来る。一緒に昼食をし、帰りしなにフレッドは思わず彼女にキスをする・・・。
*
原題は【 THE BEST YEARS OF OUR LIVES 】。
マリーとの結婚が若気の至りという結論に結びつけたいフレッドですが、20代前半の役と思われる彼に一回り年上のダナ・アンドリュースというのは、ちょっと苦しい。ここはマイナス点ですかね。名前は昔から知ってますが、特に目立った作品は記憶にない俳優さんでした。
ホーマー役のハロルド・ラッセルは、役者が本業ではないのに初出演作でいきなりアカデミー助演男優賞を獲りました。実際に軍隊の事故で両手を失った負傷兵とのことで、彼が出演したドキュメンタリー番組を観てラッセルの身の上話に心を動かされたサミュエル・ゴールドウィンとワイラーが彼の起用を決定したらしいです。
ホーマーがベッドに入る時には義手を外さねばならず、そのシーンは2度にわたって描かれる。最初は父親に手伝ってもらい、次はウィルマに手伝ってもらう。2度目はホーマーが自分との結婚生活が如何に大変なモノであるかを知らしめる為にウィルマに手伝ってもらうわけだが、父親とのシーンでは両手がほとんど写らないのに、ウィルマとのシーンでは全て見えるようにミドル・ショットにしている。観客も手首のない両腕にショックを受けるが、はたしてウィルマはどう対応するのか。視点を変えたショットの構成がドラマチックでした。
この作品で2度目のオスカーを獲ったフレデリック・マーチ。ワイラー作品としては55年の「必死の逃亡者」の父親役も思い出されますが、そういえばあの作品でも4人家族の大黒柱でした。
復員兵への融資を担当する役職ながら、担保の無い人間にはなかなか貸しづらい。同じ戦争体験をしてきた者の助けになりたいのだが・・・。
因みに『ウィキペディア』によると、マーチが大学卒業後に就職したのは銀行だったそうです。
中盤からはホーマーとウィルマ、フレッドとペギーの成り行きが気になるところです。勿論、最後はハッピーエンドですが、人間の暗さや現実の厳しさをも容赦なく描くワイラー映画は、人情劇に陥りそうな設定があっても、情に流されないので気を抜かずに観なくちゃいけません。
終盤、飛行場において廃棄処分される大量の戦闘機が連なったシーンやプロペラのない爆撃機に入り込み戦闘を思い出すフレッドを背後から捉えたショットにはニューロティックな雰囲気が醸し出され、戦争への批判精神を最後まで忘れない作者達の姿勢が感じられました。
1946年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚色賞(ロバート・E・シャーウッド)、主演男優賞(マーチ)、助演男優賞(ラッセル)、編集賞(ダニエル・マンデル)、音楽賞(ヒューゴ・フリードホーファー)を受賞した名作です。
カメラは名手グレッグ・トーランドでした。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 
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ところで、マーロン・ブランドの映画デビュー作で「男たち」という作品があるのですが、戦争で車椅子になってしまった青年の話なのです。で、彼が婚約者との結婚に悩む・・・という展開なのですが、そこが今作のホーマーとダブりました。ホーマー役の彼、演技うまかったですね・・・。
ジンネマンに、テレサ・ライト。
内容も仰有るとおり渋くて面白そう。
レンタル店で見かけない作品ですが、メモっておきました^^
>ホーマー役の彼、演技うまかったですね・・・。
ホントホント。素人とは思えない演技でしたね。