人間の心に潜む魔物…全体的にそんな言葉が頭に浮かぶ短編集でした。特に衝撃を受けたのが、「緑の獣」というお話。
突然、庭の木根元から這い出てきた、醜い緑色の獣。夫は仕事に出かけ、一人で帰りを待っていた妻は、その獣におびえます。けれど、獣は、妻に危害を加えることもなく、ただ、妻のことが好きで好きでどうしようもなくてこうしてやって来たのだというのです。どうやら、心の中が読めるらしいその獣は、自分を見て醜いと思う妻の心に、悲しみ、苦しみます。それを見た妻は、どんどんひどい仕打ちを心に思い浮かべるのです。
「私には何だって好きなことを好きなだけ思いつく権利がある。」「私はあらゆる機械や器具を使って獣の体を苛み、切り刻んだ。命ある存在を苦しめ、のたうちまわらせる方法で、私が思いつかないことは 何1つとしてなかった。」
人の心に巣食う魔物を…心の闇のようなものを見た気がして、ゾッとしました。
同じいくらい印象に残っているのが、「氷男」の言葉です。
「私には未来という概念はないんです。氷には未来というものはないからです。そこにはただ過去がしっかりと封じ込められているだけです。」
考えたこともなかった、「氷」という存在。「銀河鉄道999」に氷の星のようなものが出てきたよな~なんて思い出しながら、鮮やかなままに封じ込められた時間、というものについて考えたりしました。
そのほかにも。
魔がさしたり、憑かれたようになったり、何かに心を蝕まれていったり…。他人事とは言い切れないような、人間の心の奥に潜む魔物の存在を改めて感じ、恐ろしさや、虚しさに胸が痛くなるような、締め付けられるようなお話たちでした。