最も印象に残った球児
15.西東京
斎藤 祐樹 投手 早稲田実 2006年 春夏
甲子園での戦績
06年春 1回戦 〇 7-0 北海道栄(南北海道)
2回戦 △ 7-7 関西(岡山)
再試合 〇 4-3 関西(岡山)
準々決勝 ● 3-13 横浜(神奈川)
夏 1回戦 〇 13-1 鶴崎工(大分)
2回戦 〇 11-2 大阪桐蔭(大阪)
3回戦 〇 7-1 福井商(福井)
準々決勝 〇 5-2 日大山形(山形)
準決勝 〇 5-0 鹿児島工(鹿児島)
決勝 △ 1-1 駒大苫小牧(南北海道)
再試合 〇 4-3 駒大苫小牧(南北海道)
西東京代表。
1974年に2代表となって以来、
西東京のチームで甲子園優勝を飾ったのは、
76年の桜美林、01年の日大三、06年の早実、そして昨年11年の日大三の3校4回です。
2000年代に入ってからずっと日大三の天下が続いていた西東京に、
古豪復活をかけて殴り込みをかけたのが、
あの”ハンカチ王子”こと斎藤祐樹です。
名門と言われる早実も、
荒木が卒業してからというもの88年春、96年夏の春夏1度ずつ甲子園の土を踏んだだけで、
2006年のシーズンを迎えていました。
なんと24年間の間で、
夏はわずか1度しか甲子園に登場せず、
『早実』という名前は、
高校野球ファンの頭の片隅にわずかに残る程度のものになってしまっていました。
斎藤祐樹という投手、
『そこそこまとまった好投手』
という扱いでしたが、
2年の夏の西東京大会では、
日大三の強力打線にはやばやと捕まりコールド負け。
『やっぱり力の差は大きい』
ということを実感させられて最後の年を迎えました。
秋の新チーム、
前年のチームから斎藤をはじめ多数の選手を残す早実は、
ライバル・日大三が出遅れるのをしり目にスルスルと勝ち上がり、
秋の東京大会を久々に制します。(荒木の時代以来)
久々の甲子園ということで、
早実のOBなどの期待はかなり高かったとは思いますが、
好チームとの評はあれども、
優勝候補に名を連ねるほどの高い評価をされたチームではありませんでした。
選抜での斎藤は、
初戦の北海道栄戦こそ完封したものの、
2回戦の関西戦、
優勝候補を向こうに回し奮闘したものの、
ひ弱さは隠しきれませんでした。
引き分け再試合にまでなった2回戦を何とかものにして臨んだ準々決勝の横浜戦、
早実は絶好調の横浜相手に、
ほとんど試合にならずに大量点差で敗れ、
甲子園を去ることとなりました。
『まあ、このあたりが限界だろうな』
というのが、
ワタシのその時の早実評。
斎藤については、
一流とは言い難いという評価でした。
夏を迎えても、
何かピリッとしたところのないピッチングで、
『変わらないな』
と思わせた斎藤と早実でしたが、
甲子園に来てから、
物語は急に動き出しました。
抽選の結果を見た時、
早実は2回戦で横浜vs大阪桐蔭の勝者と激突することになりました。
正直、
春のセンバツを制した横浜と対戦した場合、
早実が勝つイメージが、
どうしてもわきませんでした。
しかし、
ここでまず大きなラッキーが転がり込みます。
1回戦で、
横浜が大阪桐蔭に敗れるのです。
大阪桐蔭は、
1回戦の横浜戦では、
本当にものすごい試合をしました。
本音では『2回戦も早実ならいただき』という気持ちがあったのでしょう。
だってあの”最強”に近いと言われた横浜に圧勝してきたのですから。
しかしながら、
この試合で早実・斎藤は【覚醒】し、
大阪桐蔭打線を手玉に取る好投を見せました。
速球は走り、
スライダーは切れました。
そして何と言っても、
涼しい顔をしてハンカチで汗をぬぐいながら、
ズバズバっと内角の厳しいところに球を配してきました。
中田をはじめとした大阪桐蔭打線は、
面喰ったと思います。
『あんなに内角に投げてくるなんて』
が偽らざる彼らの心境だったでしょう。
ひ弱と言われた斎藤が、
実は【羊の面をかぶったオオカミ】だったということが知れ渡り、
斎藤の神話はだんだん【神格化】されていったのでした。
そして決勝戦。
3連覇を狙い、
本当に苦しい戦いの末ここまでたどり着いた駒大苫小牧が相手。
相手投手は、
この大会本調子には程遠い状態とされながらも投げ切ってきた、
【世代最強投手】田中将大でした。
先の大阪桐蔭戦とこの駒大苫小牧戦。
両戦が、
斎藤祐樹という投手のすべてだったといっても過言ではありません。
選抜や、選手権のほかの試合で見せたなんとなくひ弱さの残るピッチングが、
この3試合(再試合含む)ではものの見事に影を潜め、
『超一流』といってもいいような強気のピッチングを見せました。
そういう点では、
本当に彼は『何かを持っている』男でした。
11試合に投げでわずか2完封。
先輩の荒木と比較して、
その投球が突出しているところはほとんどありませんでした。
しかし、
『大事なところで乱れた』荒木と比較し、
斎藤は『ここという試合の凄さ』は際立っていました。
そして東京のみならず日本中を熱狂の渦に巻き込んだ『ハンカチフィーバー』は、
大学・プロに舞台を移した現在も、
脈々と息づいているのです。
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