新型コロナワクチン接種の後、帰省していたうちの息子。
過去の接種では、翌日に高い熱が出て苦しい思いをしていたので…
それを想定して、研究室にはお休みの届けを出していました。
ところが、今回に限ってはほとんど副反応が出ず、注射したところが少し痛くなっただけ。
今まではモデルナのワクチンで、今回はファイザー製だったので、違うと言えば違うのですが。
ということで時間が出来たので、昨日は私の父の家に行って、一緒にご飯を食べました。
妻のお母さんにも声掛けをしたところ、行きたいと言うので、5人で賑やかに食事となりました。
当然ながら会話の中心は、かわいい孫ということになるわけですが…
息子が、得意の面白おかしい話をして、父も義母もそれを聞いて本当に幸せそうに笑っていて。
私も妻も、我が子のおかげで親孝行ができました。
お年寄りの、若者からしたらたぶんまどろっこしい会話や、同じことを繰り返し訊いてしまったりするのにも…
全く気にする様子もなく、優しくつきあってくれて。
毎度毎度、ありがたいことです。
彼はいつも忙しいので、こういうのも、気分転換になってくれるといいのですけれど。
その息子、日曜日を除いて、朝9時までに研究室に入って…
数日前、正式に辞めた塾講師のバイトがない日は、どんなに早くても夜9時までは研究をする毎日。
遅い日は深夜0時を回るまで……どうかするとそのまま朝方まで研究、実験に没頭しているようです。
大学には自転車または徒歩で通っているので、終電や終バスを気にする必要はないのですが…
それにしても、一応まだ大学生なのに、まるでブラック企業の社畜みたいな生活をしていて、かわいそう…
と思うのは親ばかりで、本人は全く苦にしていないみたいです。
もうペーパーテストとも、座学の授業ともさよならして、好きな研究だけしていればいい生活なので、すごく幸せだと。
研究室も、指導教授がものすごく怖いことと、ひとりだけ「性格が終わってる」先輩がいることを除けば…
彼いわく「聖人みたいに良い人柄の」先輩方ばかりなので、居心地がいいみたいです。
教授が怖いのも、化学実験はひとつ間違えると、とても危険な事故が起きてしまうし…
(実際、小爆発ぐらいなら時々あるし、危険な薬品が白衣やゴム手袋にかかってしまうのは日常茶飯事だとか)
それに、本気で教え子の将来を考えていて、世界で通用する研究者を育てようという熱意からみたいです。
何よりも薬学の研究が好きで、もし出来る事なら、研究室に住んでしまいたいぐらいだという息子。
実家にいても、気が付くとPCを開いて専門誌やら新しい学術論文やらを読んでいるし。
この間のワクチン接種の後も、15分の待機時間は薬学の専門誌をスマホで読んで暇つぶしをしていたようです。
まあ、薬学マニアですね。
昨日、また久しぶりに一緒に風呂に入って背中を流し合って、研究の話を聞いたのですが…
彼はいま、教授が参加している創薬プロジェクトの末席を汚させていただいている他に…
それとは全く別の自分独自のアイディアで始めた、新薬の研究をしているそうです。
詳しいことはここでは書けないですが、たくさんの人がそれで亡くなっている、ある症状を劇的に改善するための薬。
「モノになって実用化できる可能性は、競馬で万馬券を当てるより低い確率だよ」と本人は笑ってますが…
「もしも完成したら、老若男女たくさんの命を救えるから、がんばりたいんだ」とも言っています。
「自分のためでなく、未来の患者さんのために全力で勉強!」
というスローガンを書いた紙を、自分のアパートの壁に貼り付けている息子。
それを褒めると「いやこれはカッコつけすぎ。本当は半分以上自分の楽しみのためだから」と言います。
でも……
使命感を持って取り組んでいる仕事を、しかも、自分自身が楽しんでやれている。
これ以上に幸せなことってないんじゃないでしょうか。
その上、彼は如才なくて話が上手なので、中高生の頃から自然と人の輪の中心になって…
生徒会長など、何かのリーダーに推されたり、遊びに行ったりするときの世話役になったりするタイプでした。
また、私が長い間外国人と関わる仕事をしてきて、関係のパーティーによく家族を連れて行ったりしたため…
息子は肌の色、髪の色などが違う人と接することにも、子どものころから慣れて来ました。
そのためか、今でも同じ研究室に所属しているインド人や東欧圏の人など、外国人とすぐに仲良くなって…
冗談を言い合ったり、日本での生活の相談に乗ってあげたりしているみたいです。
通常の手続きを経るよりも速い方法で、なるべく早く博士号を取るつもりの息子。
(今の研究室でも、掟破りで2年生時から「押しかけ弟子」になったのでした)
とにかく「普通」のレールに乗ることを嫌う人なので「普通に就職」をする気が全くなくて。
いずれは日本を出て、海外の「メガファーマ」と呼ばれる大手製薬会社か…
もしくは外国の、有力な製薬ベンチャー企業で、研究者として働くことを目指しています。
残念ながら日本は、新薬の研究開発の分野でも、既に世界のトップレベルにはなくて…
(新型コロナのワクチンと治療薬の開発でそれがはっきり露見しました)
本当の、最先端の研究をするためには、やはり海外に出るしかないようです。
ただ息子によると、薬学というのは数学など、ひとりの天才のひらめきや発想で突破できる学問とは違うのだと。
最初のアイディア、ビジョンは個人の発想であったとしても、創薬プロジェクトが本格的にスタートすると…
大勢の人がチームになり、時間をかけて地道に仕事をし、しかもいくつものラボが共同で分担作業をすることもあって…
さらに病院での治験なども合わせると、膨大な数の人の手が加わって、初めて成果が出るものだそうです。
だから研究者には、他の研究者と共働できる、コミュニケーションの力が求められるし…
論文筆頭者には、全体をまとめて正しい方向へ導く、リーダーシップも必要になって来るのだと。
つまり薬学の研究というのは、音楽にたとえると、ソロシンガーでも4~5人編成のバンドでもなく…
大編成のオーケストラで演奏をするみたいなものらしいです。
しかも国籍、人種が多種多様なメンバーからなる、オーケストラ。
楽譜に相当するのは、化学構造式。
そう考えると、まさにうちの息子に向いた科学分野なんじゃないかな、と思うのです。
オーケストラの演奏といっても、たとえばピアノ協奏曲が、ピアノのソリストと楽団の共演になるみたいに…
薬の開発でも、mRNAワクチン開発におけるカテリン・カリコ氏のような、突出したキーパーソンがいたりします。
カリコ氏は、さしずめソロのピアニストみたいなものでしょう。
それでも、オーケストラと共演をしないと、ピアノ協奏曲は演奏できません。
息子の場合、自分では「僕は平凡な才能しか持ってないよ」と言っているので…
ソリストではなくて、オーケストラの指揮者=コンダクタータイプ、でしょうか。
ひとつの学問にあれだけ夢中になれるということ、しかもそれを「心から楽しんでやれる」というのは…
それ自体が一種の、天賦の才能だと思うんですけれどね。
ものすごい親馬鹿だとは自覚していますけれど。
だから「君はいずれノーベル医学生理学賞を受賞する」と、繰り返し暗示をかけています。笑
彼は「チチウエは権威主義者だなあ」と苦笑いをしながらも、否定はしません。
ときどき自分でも、冗談で「ノーベル賞とるからさあ」と言っているし。
本当に「未来の患者さんのため」大きな貢献ができる人になってほしいと思います。
ただし、毎度言っているように、それもこれもすべて、平和があってこそです。
日本の、世界の、平和を強く希求します。そして、私にできることは何でもしたいと思います。