7日、種子島宇宙センターで行われた、H3ロケットの打ち上げ失敗が報じられました。
H3ロケットの初号機と一緒に、人工衛星「だいち3号」も失われました。
多額の国庫援助を受けて作られたロケットと衛星が自動破壊され、海の藻屑と消えた経済的損失もさることながら…
日本の宇宙開発技術への、国際的信頼が揺らいでしまった事実は、さらに深刻だと思われます。
固体燃料ロケット「イプシロン」の打ち上げが、昨年10月に失敗したことに続いての失敗なので、なおさらです。
既成のH2Aロケットは高い成功率を保っていますが、打ち上げコストが他国のライバルロケットより高額なため…
世界の「ロケットビジネス」でのシェア獲得合戦で大きく後れを取り、そのリカバリーとして…
低コストで打ち上げられるH3が、今後日本の大型ロケットの主力になることを期待されていたはずなのですが。
JAXAと三菱重工は、原因を丁寧に究明した後に、再挑戦を目指すと言っています。
もともとロケット開発に、失敗はつきものなのではありますけれど…
この失敗、案外根が深いのではないかという気もしています。
日本の科学技術力の「基礎体力」が、根幹から揺らいでいる、誰が見ても明確な兆候があるからです。
日経新聞デジタル版の、こちらのツイッター記事をご覧ください。
文部科学省の、科学技術・学術政策研究所が作成した「科学技術指標2022」という資料などをもとにしたものです。
グラフの移り変わりが目まぐるしくてよくわからなかった、という方もいらっしゃるでしょうけれど。
最初のグラフは、論文の引用率が高い研究者、つまり世界的に評価の高い研究者の数が…
2014年から2022年までの間に、日本ではなんと、半分に減ってしまったということを表しています。
頭脳流出がそれほど激しい一方、優秀な科学技術の担い手を、海外から招くことにも失敗しているからです。
次のグラフはいわゆる主要国での、主要論文数=被引用件数上位10位以内のものの数の推移を表しています。
国ごとの科学技術力の指標としては、最も重要とされるものです。
他の各国が上昇傾向であるのに対して、日本は西暦2000年ごろから、長期的に下降していることがわかります。
(小泉政権下で、新自由主義的政策のもと「研究者もコスト意識を持て」などと言われ始めたころです)
最初の折れ線グラフは、中国の伸びが急上昇過ぎるため、第3位以下を拡大したものが次のグラフになります。
90年代に日本は世界第3位だったのが、昨年は12位に転落し、韓国にも抜かれてしまいました。
韓国の人口は日本の約半分ですから、人口比を考えてもこの状況はまさに危機的です。
その次のグラフは、横軸が大学への政府の研究開発費支出の増加率、縦軸が論文の高引用研究者の増加率です。
日本は注目される研究者の増加率が最下位である一方、研究開発費の増加率でも、OECD加盟国でただ二か国の…
減少している国になっています。
つまり、政府が大学への研究開発費をケチって来たために、科学技術力がドン下がりしたのが明確にわかります。
2000年代のはじめごろから、竹中平蔵氏を筆頭とする政府の経済政策立案者や、当時の経済界の大物たちが…
「大学も政府に頼らず、自分で研究資金を稼ぐべきだ」とか、挙句の果てには…
「東大の敷地内に商業施設を作ったらどうか」などという、いかにも新自由主義的な主張を持ち出していました。
私が「こりゃダメだ。日本の科学技術力、学問の力が地に墜ちることは確実です」と…
警告を発する書籍など、書いていたころ。
その予想が見事に的中したわけです。だーから、言わんこっちゃない!
最後の折れ線グラフは、博士号の取得者の数です。
2005年ごろをピークに、ずーっと長期的に下落しています。
これは政府の施策のミスもありますが、それ以上に、日本の経済界・企業の問題。
この間「ポスドク問題」という言葉が盛んに言われて来ました。
ポスドクというのは、ポスト・ドクター、つまり博士号を取得した後の、博士たちの身の振り方の問題です。
こちらのグラフをご覧ください。
就職できた人は、全体の67%…三分の二強に過ぎません。三分の一は、ありていに言えば定職にあぶれています。
さらに就職できた人でも、正規雇用で採用された人はたったの53.6%です。
つまり、大学院で何年間も(通常3年)努力して、先端の学問を身に着けたのに…
正規雇用してもらえるのは半分しかいない。しかも、俸給は学部卒や修士卒と同じか…
それよりもむしろ、低い傾向にさえある場合が多い、というのです。しかも非正規がとても多い。
将来に絶望して、博士卒の理系の人が自殺してしまった、という痛ましい事件が話題になったこともありました。
この原因は企業が「若くてフレッシュな」人材、つまり年齢の低い学部卒を「一括採用」するのを好むことにあります。
でも学部卒や修士では、とくに科学技術系の学部学科では、実戦で使えるほどの知識や技術が十分に身に付きません。
というか、ほぼ素人の状態。
30年ぐらい前まで、日本企業は「それでいいんだ。仕事は会社に入ってから教える」という態度でした。
しかしバブル経済崩壊の後、経営の合理化、コストカットが企業経営者の間で叫ばれるようになり…
起業は人材育成のためのお金を「投資」ではなく「コスト」と考えるようになり、その経費をケチる傾向になりました。
その結果、優秀な学術分野の人材が、研究の継続を諦めて、企業内で営業など一般の職に就くことを選択したり…
あるいは海外の大学や企業で、研究を続けるために「頭脳流出」してしまう、ということになったのです。
その結果が現在の日本の、科学技術立国として、落日の様相を呈するという事態になって現れているわけです。
少し前まで、日本人、または日本出身者のノーベル賞受賞ラッシュが話題になったことがありました。
でも、ノーベル賞は通常、数十年前の業績=評価が既に定着したものについて送られるものです。
つまり、受賞ラッシュの20年、30年、どうかすると40年前の、科学技術の成果が表れていたのです。
この20年あまりの間の、日本の学術レベルの低下を見れば、今後は…
日本人、少なくとも日本国内に住んで、日本の大学や企業の研究機関で働いている人が…
ノーベル賞を受賞することは、どんどんまれなことになって行くでしょう。
資源に恵まれていない日本は、科学技術力の高さに支えられた、モノ作りで世界的に高い評価を得て…
それが経済力や、生活レベルの豊かさを導いたわけですが、その流れが終焉を迎えているということです。
電子機器、電化製品がダメ、機械工業がダメ、何よりもIT関係の技術がダメ…
今の日本のモノ作り、というか工業は「自動車一本足打法」と言われていて。
自動車産業だけが、日本の工業の売りになっているというのが現状です。
その自動車産業でも、業界の盟主・トヨタがEV化の流れに一時、消極的な姿勢を示して…
結果、世界シェアで大きく後れをとり、米国、中国、欧州勢だけでなく、韓国車にも負けている状況。
その劣勢を認めたくないためなのか、日本では「EVはこれ以上普及しない」という報道が盛んに行われています。
でもこれ、主に「日本語メディア」でだけの現象で、海外のメディアでは、そこまで目立つものではなく…
実際EVの普及率は、米欧中国などでは、日本とは比べ物にならない状況です。
こうなると「トヨタ以外は全部沈没」か、それとも「トヨタだけ沈没」になるのか……
国内メディアは、前者を取る傾向にありますけれど…
これが「大本営発表」的な、ひとりよがり、無理な強がりのものにならなければいいのですが…。
唯一世界でのプレゼンスが高い、自動車でさえ負け始めたら、日本の工業の売りはすべて消滅しますよ。
工業はダメ。IT関連産業もダメ。鉱業は話にならない。金融業も世界的に見て取るに足らない。
農林業もダメ。魚はとれなくなりつつある。
これだと、何がこの国に残りますか?
マンガとアニメのサブカル分野だけは、まだ高いアドバンテージがあって、間違いなく世界のトップですが…
漫画家、アニメーターや声優が、今のように経済的に非常に冷遇されていて…
韓国や中国発注の仕事をすれば、国内の何倍もの単価で仕事ができるという状況を見ると、将来は不安でいっぱいです。
観光業も、内向き志向の日本人が増えて、観光地に外国人が溢れることに不快感を催す人が多い現状では…
どこまでホスピタリティーを発揮して「おもてなし」の心で、外国人を大量に呼び込むことができるのか…
と考えると、日本の主要産業にまで発展するかどうかには、疑問符が付きます。
じゃあ、将来の日本人は何で食べて行けばいいのでしょう。
外国と競争をしたり、深く関わったりすることはもうやめて、国内だけですべてを完結させようと。
それ、出来ますか?公的機関の予想をはるかに上回るスピードで少子化が進み、人口減が進み…
国内のあらゆる分野での市場規模が、縮小を続けるのがもはや明白な状況で。
人口を自然増させるのも、科学技術のレベルを、国内の担い手だけでアップさせるのも…
一朝一夕にできるものではない。
根本的な構造の見直しをしたうえで、長いスパンでやって行かなければいけない課題ばかりです。
国家百年、少なくとも五十年の計、でやること。
その果実が実る前に、日本の衰退はどんどん進んで行くんです。
そして差し迫った課題として、武器による防衛問題以上に、エネルギーの安全保障と、食料の安全保障もあります。
エネルギーに関しては、東電やENEOSなどのエネルギー関係の大企業と政府行政が癒着しているせいで…
自然エネルギーの開発と言っても、メガソーラーだのなんだのと、大規模のものばかりで…
小規模再生エネルギーの発展が著しく阻害されて来た経緯があり、結果、やっぱり原子力に回帰。
それも、世界的な常識では考えられない、老朽化した原発を無理やり動かそうということになってるし。
食料問題はもっと深刻で、牛を4万頭も殺処分しながら、コオロギを喰えとかいう、狂った行政。
いちばん頼みの米でさえ、規模5ヘクタール以下の家族経営のコメ農家は…
燃料と肥料の高騰のため、23年度には、ほとんどが赤字転落するという予想がなされています。
5h以下の規模のコメ農家というと、日本の9割に当たるんですよ。
農業分野で、人手不足と高齢化が深刻なことは、もう十分前から言われているし。
そういうお百姓さんたちの間で、経済的、労働力的な困難から、たまらず離農が進んでいる。
これだけは大丈夫と思われた、米さえ食べられなくなる危機が、もうそこまで迫っているんです。
米を作るために必須の肥料の原料だって、実は、中国とロシア頼みでやって来たのだし。
地震などの自然災害への備えだって、真剣にやれているとはとても思えないし。
こんな、もう数えきれない課題を積み残して、武器だけアメリカに買わされて(それも定価の2倍とかで)…
それで、この国にこのまま住んでいても安心だと思う人たちの、脳内お花畑ぶり、正常化バイアスに侵されぶりが…
なんとも、もどかしいです。
うちの息子が、将来日本で生活する気が全くない、と言うのも…
研究環境の充実度や、研究レベルの差があることに加え、経済的な待遇の差があることも理由の一つなのでしょう。
日本で博士卒の研究者になったら、初任給は年収300万円から。その他の主要国なら2千万円から。7倍…笑
日本プロ野球NPBと、米メジャーリーグの年俸の差よりも、もっと大きいかもしれない。
それで国内に留まれと言うほうが、無理でしょう。
でも、それだけじゃないです。おそらく。
日本の将来全体に、危惧を感じているからだと思いますよ。
私はこれも2000年代の初めごろからですが、将来、日本の若者が海外に「出稼ぎ」に行く日が来るだろうと…
これも書いた本の中で予言していました。
いま、オーストラリアなどに出稼ぎに行く若者が増えているのが、一部で話題になっています。
たとえば介護職で、日本だと月収20万前後のところが、オーストラリアだと最低でも40万。
うまく行けば、60万ぐらいもらえるかもと。
英語がほとんど出来なくても大丈夫な職種でさえ、2倍、3倍の収入が得られる。そりゃ、行きますよ。
実質賃金の、国際比較はこんな感じ。
今の政権に、こうした根本的な社会構造を変革する力も、科学技術や産業の競争力を立て直す力もないし。
まず、その意図も、本気では持っていないんだということがはっきりして来ました。
いまこの時の、自分たちの利益と、政治資金団体に献金してくれる「お仲間」の利権を確保すること。
そして、アメリカ様にお金を貢いで、言う通りの外交をし、一緒に軍事行動までとること。
加えて、一般庶民への目くらましとして、国家主義・全体主義と、国粋主義、反動的な価値観を広めること。
これだけが、彼らが本気でやっていることですから。
この衰退現象は、さらに加速度的に進行して行きます。
その上に、いろんな観点からの安全保障が不安で、しかも大規模地震が迫っているのですからね。
若者がそもそも結婚できない。結婚できたとしても、安心して子どもを作れる環境ではない。
それ以前に、かなりの数の若者が、日本から出て行ってしまったら…
この島国は、どうなりますか?
こんな状況を作ってしまった私たち、どんな「落とし前」をつけたらいいのでしょうか。