ドイツにあるニュルブルクリンク・ノルトシュライフェ(北コース)は、自動車レースの世界で、世界最長にして最難関のコースと言われて来ました。
また1周20kmを超す全長の中に、タイトな低速コーナー、高速コーナー、長いストレート、荒れた路面、300mもの高低差など多様な走行条件が揃っていて…
車の総合的な性能がタイムに反映されやすいことから、高性能な乗用車の開発を行う、テストコースとして利用されて来たことでも有名です。
「ニュルで一番速い車が世界最速の車」というイメージがあることから、世界の各メーカーがここでレコードタイムを競ってきました。
同時に、非常にテクニカルでトリッキーなこのコースは、他のどこよりも、ドライバーの「腕」がタイムに色濃く反映される場所でもあります。
つまり実際のところは「速い車とうまいドライバー」の両方が同時に揃わないと、いいタイムは出ないのです。
ちなみに現在、公道走行可能な車のコースレコードは、昨年6月にラース・カーンが、ポルシェ911GT2RSで記録した、6分38秒835です。
ニュルブルクリンク・ノルトシュライフェといえば、歴史的な「事件」はいくつかありますが…
「史上最強」とも言われる伝説のイタリア人ドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリが、1935年のドイツグランプリで、アルファロメオP3の改造車を駆って…
あらゆる性能ではるかに勝る、メルセデスW25やアウトウニオンB3を打ち負かした「ニュルブルクリンクの奇跡」は有名です。
また1976年のF-1ドイツグランプリでは、フェラーリのニキ・ラウダが、瀕死の大火傷を負う大事故を起こしています。
この事故の教訓もあり…
現在ノルトシュライフェは、1周が長すぎること、またコース幅が狭く、レイアウトが過酷で危険過ぎる、という理由でF-1GPには使われていません。
スポーツカーレースに、そのほんの一部が使用されている程度です。
(我田引水になりますが、ヌヴォラーリは私が、日本人として初めて詳細な現地取材をし、様々な資料を発掘しました。ニキ・ラウダ氏にもインタビューしたことがあります。)
というわけで個人的にも思い入れの強いこのサーキット、現在は週に1回、一般のドライバーのスポーツ走行に解放されています。
そこで撮影された、アルファ乗りには何とも痛快な動画をYouTubeで見つけましたので、ここに貼っておきます。
156のV6に車載カメラを積んで、ノルトシュライフェを走った動画なのですが…
終始オレンジ色のポルシェ911GT3を追い回しています。
ポルシェドライバーは、お尻に付かれたアルファに、明らかに太刀打ちできていないのですが、ほとんど意地になって抜かせまいとします。
タイトルがかかったプロ同士のレースならともかく、一般人のスポーツ走行では、ここまでポテンシャルの差がある場合…
何より危険防止のため、素直に道を譲るのがフェアプレイなのですけれど、危険なほどのブロックを繰り返します。
自分のポルシェは、後続のアルファの約2倍ものエンジンパワーがあり、約4倍(!)のプライスタグが付いているため…
名高いスーパースポーツが、4枚ドアでFF(前輪駆動)のファミリーサルーンにブチ抜かれるのを、恥と思ったのでしょうか。
その抵抗はほとんど哀れを誘うのですが、その分156ドライバーの腕の冴えが際立って、非常に見ごたえがあります。
ただバトルの間に、コース上のフェラーリやスカイラインGT-Rをごぼう抜きしているので、まあ双方のスピードレベルは高いのでしょうね。
一般にコーナリングの際の挙動や、加速時のトラクションに問題があると言われるFF車ですが…
乗り手が良ければこれほどエキサイティングな走りをするという、一種のお手本のような映像です。
ただ尺が10分ほどあるので、車や運転がお好きな方だけご覧いただければと思います。
それでも、とにかく手に汗握る映像ですよ。
では、どうぞ。
どうですか?このアルファドライバー、すごい腕前でしょう?
ただこの156は、うちのペッピーノとは違って、ブッソV6エンジンの排気量を3.2Lに拡大したものを積んだ156GTAというグレードのようです。
そして、サスペンションなどをいじってある上に「Q2システム」という…
アルファが独自開発した電子制御方式のLSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)機構を、後付けで、駆動軸に組み込んであるみたいですね。
まあ簡単に言ってしまえば、FF車の泣き所である…
コーナーでのアンダーステア(鼻先がカーブの外側に持って行かれ、ハンドルを切ったほど曲がらない傾向)を軽減する装置です。
動画のドライバーが、コーナーに来るたびにポルシェGT3に肉迫しているのは、Q2の威力が一役買っているのかも。
うちのペッピーノにも実はそのバッジが付いているのですけど、バッジだけの「なんちゃってQ2」なのかな…
と思っていたのですが……車屋さんに聞いたところ、もしかすると前オーナーが本国から部品を取り寄せて、本当に後付けしている可能性もある、とか!
ちょっと調べてもらってますけど…もしも「なんちゃって」じゃなかったら、前オーナーはどんだけこの車にお金をつぎ込んでたのかって話ですね。
まあ、ペッピーノが発売されたのはスマホが普及してなかった時代なのに、ブルートゥースの同期を組み込んであったり…
ドライブレコーダーまで付けていたほどですからね。
もしかしたら、もしかする……?
だからペッピーノも、コーナーの中でアクセルを開けて行ったときに、アンダーステアが出ない…のかな?
または、デフォルトであんなに良い乗り味なのか。
それはともかく、あの動画。FF車でもこれほど凄みのあるコーナリングができるというのは素晴らしいこと。
ドライバーに拍手です。
私はもう、サーキットであんなドライビングをするには年を取りすぎましたけどね。