諸々の政策がどうあれ、今後おそらく5年以内に戦争へと向かうこの国の、最後の分岐点は既に過ぎていると思いますので…
今さら言及することはないです。是非もなし。
それはともかく、楽しみに見ていた朝ドラの『虎に翼』が、昨日で終わってしまいました。
女性、子ども(戦災孤児)、性的マイノリティ、老人、障がい者、そして罪を犯した者…
社会の周辺に置かれている「弱者」「小さくされた人」にフォーカスした脚本は、ほんとに「問題意識てんこ盛り」のものでした。
恵まれた家庭に育った非行少女、みさえさん母子を通して「なぜ人を殺してはいけないのか」についても、脚本家の吉田恵里香さんなりの回答を示していたり。
ここまで挑戦的なドラマは、実に久しぶりに見ました。
しかも、それが「朝ドラ」枠で、毎日放送されたことに、大きな意義があったと思います。
思った通り、老若男女を問わず広い意味での「昭和おっさん」属性の人々からは激しく嫌われましたね。
おそらくNHKの経営委員あたりからは、さんざん「いい加減にしろ!」という圧力があったと思います。
吉田恵里香さんがそれでもブレずに書き続けられた陰には、制作統括の尾崎裕和氏が防波堤となってくれた部分があったのだろうなと想像します。
今後左遷されなければいいけれど。
俳優さんたちの演技も光りました。主人公寅子役の伊藤沙莉さんはもちろん名演技でしたが、その他…
恩師穂高先生役の小林薫さん、母はる役の石田ゆり子さん、最初の夫優三役の仲野太賀さん、同級生梅子役の平岩紙さん、二番目の夫の母百合役の余貴美子さんが、特に秀逸だったと思います。
そして主人公のトラちゃんが、決して立派なヒロインではなく、欠点や間違った行動だらけの、人間らしいキャラクターに描かれているのが良かった。
それは、他の登場人物すべてにも言えることなのですけれど。
またトラちゃんたちの前に立ち塞がる敵役も、単純な悪ではなく、ある意味悲しい性を持った人間として…
しばしばユーモアを交えて描かれていたのが素晴らしかったです。
最終回、桂場元最高裁長官のおつむ?目の上?から、トラちゃんが桜の花びらをむしり取ってあげたシーン…
何の暗喩であるのかは、いろいろ解釈があるでしょうが、すごくよく出来ていると思いました。
ところで、このドラマの「影の主人公」とまで言われたのが、日本国憲法第14条でした。
轟山田法律事務所の壁に、よねが墨書した14条1項の文言…
『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない』
誰かに「押し付けられた」ものであろうがなかろうが、良いものは良いで、評価し尊重するのが当たり前だと思います。
でも『トラつば』嫌いだった人たちは、主題となったこの理念そのものに反対なのでしょうね。
差別もまた「公の秩序」の一部なのであって、それを維持することも「保守」ということらしいですから。
そしてこれから間もなくある衆院解散総選挙が終わると、その後…
遅かれ早かれ、この理念が事実上否定された新憲法案が、国民の前に呈示されることでしょう。
それが「案」でなくなったとき、この国の命運が、最終的に尽きるのです。
それを避けるためには「望む」「祈る」だけでは絶対に駄目なのですけれど…
いざ国民審査にかけられたとき、投票所に足を運んで「否」と書く人は、半分いないことでしょう。
考え方が明るいとか暗いとかの問題ではなく、これは今の日本の大衆を私が観察した上での、状況判断から導かれる予測です。
それもまた是非もないことなのですけれど、ドラマ『虎に翼』が、この国が一度破滅した後にまで残ってくれれば…
この時代の大人もちゃんと考えて、運命に抵抗しようともがいてくれてはいたのだなと、後の世代が分かってくれることでしょう。
それならば、このドラマが生まれてきた意義が、ちゃんとあったと言えます。
もう終わりか……しばらくは『トラつば』ロスが続きそうです。