みーちゃんとチョン
みーちゃんとチョンは、母猫と娘猫で、様は親子猫です。みーちゃんは、ものすごく賢い母猫で、それに引き換え娘猫はチョッと、おバカな娘猫でした。飼っていたのはかなり昔、何十年も前の事で今の様に完全室内飼いをする時代と違い猫は自由気ままに家を出入りする時代でした。その時代にはキャットフードなどと言う言葉も無く、言葉が無いと言う事は、物自体(キャットフード)も無い訳で、もっぱら猫まんまと言う所の花かつおにご飯が当たり前で、人の食べ残しの魚の頭とか骨とか、料理に使った出汁取りの後のいりこなどが餌と言った所で、それでは足りないので、猫達も自分で餌を確保・補充していた。トムとジェリーの話に有る様にネズミを好んで捕獲していた。なので、人と猫はそれなりに協力し合っていたわけで、「猫の手も借りたいほどだ。」と言う言葉の裏には猫は役に立たない・・。そんな意味が有るのだろうが、猫に言わせれば家のねずみを捕獲して協力しているのだから、それは無いだろうと憤慨するかもしれない。この時代の猫は、今の時代の猫と比べると自由気ままで、それなりに幸せだったのかもしれない。食事はいまいち貧しかったかもしれないけれど、それは人間さまもたいした物は食べて無かったのだから、お互い様である。
ミーちゃんは、出産&子育てベテランの母猫で、チョンは図体は母猫に優っていたけれどもまだ一歳に成らない出産未経験の猫でした。ある日の事、みーちゃんが、4匹の子猫を出産しました。その頃の猫は、家の何処かで、例えば物置や長屋と言った所で、隠れる様に出産をしていた。隠れる様に出産をするのは猫の本能では有るがそれとばかりとも言えない。出産後直ぐの事、出産時にそわそわと母猫の様子を伺っていたチョンが、気が付けば、生まれたばかりの子猫1匹を咥え、うろついていた。生まれた子猫を自慢げに私に見せに来たかと思ったら、何時の間にか何処かへ消えて行った。その後、咥えられた子猫の姿は二度と観る事は無かった。おそらく、咥えたまま外に連れ出し死なせてしまったのだろう。自慢の姉妹を可愛さあまり死なせてしまったのだ。
それから数日後の事、学校から帰って来た私は、ランドセルを投げ出しミーちゃんの所に駆け寄ったが、子猫は1匹も居なかった。父親が、生まれたての子猫達を処分してしまったらしい。悲しい事ながら、その時代は、こう言った事は多々有った。その度に私は悲し思いをしていたのだが今の時代だと動物虐待に成るだろうが、この時代は、避妊も無いし私の知る限り、近くに動物病院などは全く無かった。自由気ままに外へ出て行く猫をどうしようも無い訳だ。母猫が隠れて出産するのも、学校が終わったら急いで家に帰り猫が無事なのかどうかを一目散に駆け寄り確認をするのもここに意味が有る。母猫も私も同じ養われの身だから、どうにも文句も言えない。
しかし、今回は、みーちゃんの様子が違っていた。家に入ろうとするチョンをやたらと威嚇し怒って全く入れない。どうにかして何処からか家に入ろうとするチョンを全くみーちゃんは入れようとしない。それはまる一日続いた。チョンに向けられる只ならぬ怒りの声は、「あんたと言う子は、また子猫を連れ出して何処にやったの?また、死なせてしまったんでしょう。お母さんは、許さないから・・・家には入れません。」とそんな感じで、濡れ衣を着せられたチョンは、どうにも困った様子で、ただただうろうろしていたのでした。
それから1年後、親子で出産し一緒に仲良く子育てをするみーちゃんとチョンの姿がありました。